見出し画像

Speaking of Jung - Episode 54: The Ego (Part II)

Laura: 強いegoと大きなegoの違いを教えていただけますか?

Dr. Stein: egoが大きいという表現は普段使われますよね。わがままで、自己中心的な人をあの人のegoは大きいと言います。大きなegoというのはユング心理学では使われない言い回しですが、強いegoという言い方はします。では弱いego の反対の強いegoというのは何なのでしょう?弱いegoは苦しみへの耐性があまりなく、強いegoは苦しみへの耐性があります。強いegoは苦しみに耐え、それを乗り越えることができます。弱いegoはすぐにへこたれて諦めてしまい、世間との接触を避けて家に引きこもってしまいます。最近またViktor Franklの本、『「生きる意味」を求めて』を読みました。彼はアウシュビッツに送られたものの生き残り、ウィーンで生活をはじめ成功を収めました。その後本を書いたり新しいセラピーへの豊富なアイデアを出したのは彼が人生の目的や生きることの意味を知っていたからです。これは強いegoと呼べますよね。そして彼は「生きる意味」があったからだと言っていました。では何がegoを強くするか、ということですが、それは人それぞれです。ただ「意味を持つ」ということが大事なことだと思います。意味を持っていれば生きていくための痛みや苦難にも耐えれます。

Laura: 「意味を持つ」とはどういうことなのでしょう?「人生に意味がある」と言いますが、同じことなのでしょうか?

Dr. Stein: はい。最近ある女性と話したところ彼女は若いころ何度も自殺を考えたと話してくれました。思春期のころにそういう考えを持つのは普通だと思います。彼女は祖父母が悲しむので実行できなかったと言っていましたが、この場合、祖父母との関係が彼女にとっては意味のあることだったのです。今はお子さんがいるので、子供のためにも自分を傷つけるようなことはしません。つまり、何かのために生きるということは人生に意味を与えることになります。人によっては仕事かもしれないし、ある人にとっては誰かとの関係かもしれません。究極のところ、何かを信じるということになるので、人生に意味があるというのは宗教的な感覚かもしれません。ただそれは人によってそれぞれ違う意味があるのです。

Laura: 他人に認めてもらうとか他人に理解してもらうということではなく、自分にとって特別な意味があればよいということですよね?

Dr. Stein: はい、そういうことです。多くの方がクリスマスの後に亡くなります。家族に会いたい、家族と最後の時を過ごしたいという思いでクリスマスを待つこと、最愛の人たちと一緒に時を過ごしたいというのが彼らにとっての意味なのです。そしてクリスマスが終わったときにその意味がなくなるのです。BTSにとっての意味とは成功を収めること、有名になること、成功が続くことです。しかし、その意味もやがて変わっていき、意味がなくなっていく恐ろしさをBlack Swanで歌っていますね。意味がなくなり暗闇に行ってしまうことが死を意味すると。引き戻されて息ができない、僕と一緒にやることをやれよ、と非常に受け身な歌詞ですよね。陰鬱さに襲われ、全ての意味を失くしているのです。

Laura: MVのオープニングにあったMartha Grahamの詩、“a dancer dies twice - once when they stop dancing, and this first death is the more painful.” についてはどう思われますか?なぜこの詩が選ばれたのでしょう?

Dr. Stein: ダンサーは踊るために生まれてきた。それがダンサーの人生の意味です。BTSのようなダンサーはパフォーマンスにすべてをかけますよね。バレエのダンサーのように20代で全盛を迎えて体を壊すと、彼らの人生の意味は突然なくなってしまいます。BTSはその瞬間を想像しているのではないでしょうか。グループがバラバラになり、パフォーマンスを行わなくなる。これが彼らにとっては最初の死なのでしょう。2番目の死というのは体が死んでしまうことです。スポットライトの中の成功という瞬間がなくなり、ライトが消えて1人になり、オーディエンスもいなくなるという気持ちに耐えられないという歌だと思います。ダンスカンパニーのMVも数回見ましたが、とても美しいですよね。葛藤する白鳥が飛び立とうとするところを黒鳥が囲み押さえこみ、飛び立てず打ち砕かれます。抑うつ状態に陥ると気分が影響されて人生の意味を失います。抑うつはいろいろな形で誰にでも起こりうるのです。大事な人の死、事故に遭い以前にできていたことができくなったとき、仕事を失ったとき、などですね。それが人生の終わりではありません。バレエダンサーも指導者になったり、バレエに関しての本を書いたりと別のキャリアを模索できるはずです。ただ、その瞬間は暗闇の中に入ってしまいます。それを歌ったのがBlack Swanの曲ですね。

Laura: BTSを最初に知ったのはMOTS:Personaの直前でした。その前の3部作はLove Yourselfというタイトルでした。BTSについて調べ、彼らのポジティブなメッセージを知って、Dr. Steinも私も国連でのスピーチに心を動かさましたよね。Black Swanで見せた今回のような暗いテーマがファンにどのような影響を与えているのでしょうか。常にLove Yourselfな訳ではないので、この暗さも必要なのでしょうか?心理学的にこれが地図の全貌なのでしょうか?

Dr. Stein: 心理学のさまざまな領域をカバーしようとしたのでしょうね。感情や人生のテーマの違いに気付いたという彼ら自身のためであり、もちろんファンのためもあるでしょう。ファンがそれを知った時にBTSの人間性が高まるのではないでしょうか。美しく、アスレチックで、健康的な若者たちですが、手の届かない神のような存在に見えることもあるでしょう。そんな彼らがそうじゃないよと伝えることでファンは慰められるのではないでしょうか。彼らは光と影を複雑な方法でまとめていて、それが人生なんだと喜んでいるように思えます。それが心理学というものです。

Laura: 神ということに関してですが、egoのMVの中でJ-Hopeは古代の神と重ねられています。これについてどう思われますか?

Dr. Stein: はい、見ました。どの神だったかは覚えていませんが、egoが自分自身になり、それに喜びを感じるとき神化したようになります。前にも言いましたが、その能力や人生をコントールする可能性をを過大化してしまう危険も孕んでいます。神は痛みがないものだとみなされていますが、ギリシア神にはそれが当てはまらず、苦しみ傷つき時には癒しが必要となります。そういった意味でギリシャ神はかなり人間らしさがありますが、パンテオンの神は人間性や時を超えていて、創造、破壊、時の支配、と私たちが人生で経験しているものとはまったく違っています。つまり、egoと元型  (*訳注: ユング心理学で使われるアーキタイプという言葉 ) のイメージの違いを知っておくことが重要になります。自信過剰についても話しましたが、Interlude Shadowでは高く飛ぶことにたいしての不安を見せていますが、egoではそを見せず肯定的になっています。J-Hopeが言っているようにegoを肯定的に捉えるのは美しいことで、そのことについてユングも同様に感じていました。egoは悪いことではない。egoには自我、個性があり、ユング心理学ではegoを肯定しています。強いegoがあるのはいいことですが、誇張されたものはよくないということです。

Laura: ファンからの質問がいくつかあるので答えていただけますか?。まず「一番好きな歌詞は「僕のダンスは浮き雲を掴む」という歌詞で、それはJ-Hopeのダンスへのパッションを表現していると思うのですが、そう表現することによりshadowを取り除いているのではないかと思います。」という質問ですが、博士はどう思われますか?

Dr. Stein: 同じことを考えました。その詩を見てみるとJ-Hopeとチョン・ホソクの人生の違いに気付くことから始まりますね。この歌には自己投影が入っていると思います。浮雲を掴むという表現は手に取ることができなくとても儚いということで、後悔を表していますよね。蜃気楼のようなものを追っていることや自己投影することに苦しんでいることをegoが気づいているんでしょうね。私達は外の世界や他人にいろいろな考えを投影し、それを追ってみますが、何かがあると思っていたそこには実際何もなく蜃気楼にしかすぎないと気付きます。つまりそこで自我への気づきが起こり、egoが強くなるのです。

Laura: shadowを取り除いているというのはどう思われますか?shadowを排除するということは私達が求めているものではないですよね?

Dr. Stein: Shadowを排除するというのはお化け屋敷を排除するという感じになり、悪を取り除くということですよね。ここで問題になってくるのは、取り除いたらどこに行ってしまうのか?ということです。Shadowを抑えこんでしまって深い闇に行ってしまうのではなく、向き合って存在を知り、責任を持つことです。Shadowは自己のひとつなのですから。

Laura: Shadowはユング心理学のなかでも大事な部分ですが、どうやってshadowと調和していくべきかという質問をよく受けます。簡単なコンセプトではないですよね。排除するべきではないし、排除することが出来ないと思いますが、それをうまく使っていく方法を学ぶことはできますよね。

Dr. Stein: MOTS:7が昨日発売になりましたね。これはMOTSシリーズの2番目になると思いますが、私の著書を読んでみるとそれに対する答えがありますよ。私たちは他の人や外の世界にshadowを見つけて追ってしまう、と話しましたが、他の人の暗い部分や悪いところを見ることによってshadowを自分の中に見つけようとしているのです。自分でshadowを見つけるのは難しいことで、他の人にshadowを指摘してもらったり、夢の中で誰かに言われたことの分析など、shadowに近づくセラピーとして行います。これは恥ずかしい思いや罪悪感を感じさせるわけではなく、彼らの役目や責任を明らかにするためなのです。Shadowの存在に気付いていない人は常に犠牲者であると考え、自分の問題なのに誰かを責め立てる傾向にあります。罪悪感を感じなくなっているので、その考えから抜け出せれないのです。Shadowに一旦気づくと罪悪感や恥じを感じますが、責任も感じ始めます。Shadowが自分の中にあると知っていれば、同じことの繰り返しを防げるでしょう。

Laura: 私もかつて精神分析者に「なぜわざわざそんなことをするの?」と聞いたことがあるのですが、彼女に「これをやると人生がよくなっていくの」と言われました。

Dr. Stein; はいそうですね。

Laura: 最後の質問です。ユングのコンセプトでシンクロニシティ(意味のある偶然の一致)というのがあります。以前にシンクロニシティがBTSの今後のアルバムのテーマになるかもしれないと言っていました。BTSのBlack SwanでNassim Nicholas Talebが書いた「The Black Swan」を思い出したとおっしゃっていましたが、その理由を教えていただけますか?

Dr. Stein: Talebは2008年の経済危機の後にこの本を書きました。その中で19世紀には誰も黒鳥が存在すると信じなかったと述べています。白鳥だけが存在すると信じられていたと。その後オーストラリアで黒鳥が発見され、そんなものが存在するんだと世間に衝撃を与えた出来事がありました。この出来事を彼は2008年の経済危機にあてはめました。Black Swanという出来事は誰も予測していないときに、突然破壊的な出来事が起こることで、それがウォールストリート、銀行、人々のローンなどを破壊したのだと。BTSはBlack Swanを1月の中旬にリースしましたが、同時に中国の武漢市でコロナウィルスが発生しました。最初は小さなマーケットで動物から人間への感染でしたが、急速に広まりを見せていて、2/7現在では全世界がコロナウィルスについて知っていますよね。クルーズ船が病院に変わり、いろいろなところが閉鎖されています。Black Swanの発売とともに破壊的な出来事が起こりました。これはシンクロニシティと言えるのではないでしょうか。2つは全く関係のない出来事ですが、BTSが世界中で露出を広めている同時期に出てきていることが不思議な関係だなと思い、シンクロシティを感じます。ユングの定義は物事には意味があること、そしてその意味を見つけることです。Black Swanの曲について考えたときに、今我々はBlack Swanの真っただ中じゃないかと突然気が付いたんですよね。すごく興味深いことことじゃないですか?

Laura: 本当ですね。様子を見て全てがよくなることを願いましょう。2月の末にはフルアルバムの説明でまた戻ってきてくれますよね?楽しみにしていみあす。今日は本当にありがとうございました。

*出典元:https://speakingofjung.com/podcast/2020/2/7/episode-54-ego by Laura London

*意訳となりますのでご了承下さい。無断転載はお控えください。和訳を他のサイトやSNS等で紹介していただく場合は、引用元のリンクURLも貼り付けをお願いします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?