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昭和から来ました 〜 岡村孝子さんの音楽

いまはほぼリアルの友達がいないのけれど、大学時代には何人かの友人がいた。
ほとんどが県外から入学してくるような学校だったのだが、入学すぐのオリエンテーションで五十音順に並ばされたときに、名字の最初の読みが近い数名ほどが誰からとなく話しはじめたなかに私も入れてもらった格好になった。

全員が寮かアパート暮らしだったので、2年ほどは本当によく連んでいた。現在の私には信じられないほど、友人の部屋を行き来した。自分からなかなか輪に入れない私には本当にありがたかった。ただ、研究室配属あたりでメンタルコンディションを崩し、引きこもりがちになって皆と疎遠になってしまった。シンセサイザー(中古のDX7)やシーケンサー(譜面を打ち込んで音源に演奏させる機械)、それとMTR(市販のカセットテープを片面だけ4トラックで使うことができる特殊なラジカセみたいなもの)といった機材を使って音楽ばかり作ってた。KANさんと同じく、夢中になりすぎて(学業をそっちのけにしてしまって)1年留年している。

それはさておき、当時を振り返れば、たとえ一方的であっても〝親友〟と呼びたい当時の友人がいる。彼が岡村孝子さんの大ファンだった。


「あみん」というユニットから歴史がはじまった


解説記事を書いているわけではないので、可能なかぎりWikipediaには頼らずに綴っていきたい。ひょっとしたら、私の思い込みとか勘違いもあるかもしれないけれど、致命的な誤りをのぞいてはどうかご容赦いただきたい。

1982年 第23回ポプコン本戦会でグランプリを受賞した「待つわ」を引っ提げ
     2人組の女性デュオ〝あみん〟としてデビューし大ヒット。
     NHK紅白歌合戦にも出場(あみんは翌年解散)。
1985年 アルバム「夢の樹」でソロデビュー。
1987年 代表曲「夢をあきらめないで」リリース。ロングヒットとなる。

https://okamuratakako.com/profile/ (岡村孝子公式HP)より

ポプコンというのはアーティストデビューの登竜門として、もっとも権威のあったアマチュアたちのコンテストで昭和末まで実施されていた。中島みゆきさんやチャゲ&飛鳥、円広志さん、クリスタルキングなどを輩出している。

2019年に急性白血病にかかってしまったことは、ニュースでも大々的に報道された(現在の私より少しだけ上の齢でこの病気に見舞われたのか…)。現在は寛解され、コンサート活動にも復帰されている。白血病と聞いたときには、厳しい病気だからなあ…とすごく気がかりだった。無事に戻ってきて下さって本当によかった。

作詞作曲から歌唱までこなすシンガーソングライター


シンガーソングライターで、リリースした楽曲のほぼすべての作詞・作曲を岡村さんご本人が手がけている。

一方、代表曲「夢をあきらめないで」がヒットする前年に3作目のシングル「はぐれそうな天使」という曲が先にヒットしている。これが現在なお唯一、岡村さんご自身の作詞作曲ではない楽曲である。

作曲は80年代歌謡曲の代表的なソングライターでもある来生たかおさんによるもので、作詞も姉の来生えつこさん。ホンダの軽乗用車「トゥデイ」のCMソングで、当初は来生たかおさんの歌唱による楽曲が使われていたが、しばらくして岡村孝子さんの歌唱による楽曲に変わった。CMに出ていたのはデビューまもないころの今井美樹さんだ。

冒頭でふれた友人には、おそらく岡村孝子さんのアルバムを何度か借りたこともあったにちがいない。岡村さんの音楽についていろいろ話したこともあったはずだ。当時の私は「はぐれそうな天使」推しだったから、岡村さんにももっと来生メロディーを歌ってほしいという話を投げただろうし、彼は彼で「いや、岡村さんはシンガーソングライターだから、彼女がオリジナルで作り出すものが聞きたいんだ」と譲らなかったはずだ。というか、もうすっかり彼と交わしたやりとりのあれこれは忘れてしまったけれど。

YouTube上では意見が真っ二つなんだよな (主観)


YouTubeで音楽を聴くことはとても楽しい。

珍しいはずのライブ音源に出会えることも理由のひとつなんだけど、何よりもいろんな人が、その曲その曲の思い入れを熱く語ってくださっているコメント欄がとても面白い(私自身はほとんど書き込んだことはないのだけれど)。

コメ欄を見るに、どうも岡村さん好きの方々の意見としては、「はぐれそうな天使」派と「夢をあきらめないで」派が見事に真っ二つといった感じになっている — 以下、私の主観が入っているとは思います。何卒ご容赦を。

テレビ的にいえば、24時間テレビあたりがとりわけそうなのだけど、圧倒的に「夢をあきらめないで」推しだと思う。そのリバウンドで…というか、あるいは反骨精神が働いて…とでもいうか、YouTube上ではむしろ「はぐれそうな天使」推しがやや多めのような気がしている。

天才メロディーライター・来生たかおと〝売り手〟


私をはじめとする来生さんのファンはよく知っているはずなのだが、彼には業界やマスコミから煮え湯を飲まされたかのような出来事が少なくない。

薬師丸ひろ子さんが主役を演じた映画「セーラー服と機関銃」の主題歌も、元々は来生さんのボーカルでタイアップする予定だったのが、監督の相米慎二さんの一声で薬師丸さんのボーカルでってことになったらしい(結果的には現在なお活躍されている薬師丸さんが、シンガーとしてまさに素晴らしい原石だったわけだが)。

あるいは中森明菜さんのデビュー作「スローモーション」。いまなおいろんなシンガーがカバー曲を披露している色褪せない名曲なのだが、当時の明菜さんのプロデューサーだった島田さんという方が、来生さんのバラードにインパクトの薄さ(失礼だなあと思うけど…まあそれがビジネスか)を感じ、第二弾には売野雅勇さん・芹澤廣明さんのコンビが手がけた「少女A」を繰り出した。結果的にはそこで明菜さんは大ブレイクを果たした。

大橋純子さんの「シルエット・ロマンス」のヒットを受けて用意していた曲には、結局大橋さんからのオファーがこなかったり(大橋さんご自身が、アーティストとしての方向性としてこの曲が売れてしまったことに葛藤したという話を、たぶん当時のテレビ番組「いつみても波瀾万丈」で知ったような…)。かの曲こそ、明菜さんがヒットさせた「セカンド・ラブ」だ。

松田聖子さんへの提供曲はすべてアルバム収録のみに甘んじ、シングル収録はならなかった。やはり売り手には松任谷由実さんのネームバリューが圧倒的に使い勝手が良かったんだろうけれど、ネット上では5作目のアルバム「Pineapple」、7作目の「ユートピア」に収録された来生作品をめぐっては「神曲!」「なんでシングルカットされなかったんだろうね」って話題に上ることも少なくない。

〝商業〟音楽を売る人たちって色々むずかしそうだね


ちょっと話がそれてしまった。

「はぐれそうな天使」を来生たかおさんのシングル版(編曲は武部聡志さん)と岡村孝子さんのシングル版(編曲は船山基紀さん)で聴き比べていただければわかるが、曲こそ同じでもアレンジもテンポもまったく異なる。音作りのコンセプトからいえば、この2曲は事実上まったく別物だと言っていいとさえ思っている。

来生版がCMで使われていたときにバックに流れていたのはAメロ(🎵足元くすぐる波さえ〜からの15秒間)だったのに、岡村版ではしっかりサビ(🎵恋したら騒がしい風が吹き〜の箇所)が流れる。当時の私もそこんとこはすごく疑問だった。CMで流れる箇所がなんでサビじゃなかったんだろうね、と。

結果的には岡村孝子さんのボーカルで一般大衆の心をつかむことに大成功したはずだし、船山基紀さんのアレンジはまさに秀逸中の秀逸。80年代の女性ボーカルものの音楽のいいところがことごとく詰まっているといったふう。来生さんのほうも好きだが、岡村孝子さんのボーカルやキャラクターを活かす上で船山さんの仕事は最高だったと思っている。1番のサビではボーカルに本人のコーラスをかぶせて厚みをつけ、2番はユニゾンで重ね、リフレインでは再びコーラスになるように重ねている。本当に巧い。

一方、「夢をあきらめないで」の編曲は田代修二さん。

岡村孝子さんのほかの楽曲でいえば、私自身は音作りという意味では2番目のシングルになっている「ピエロ」という曲が特に好きだ(後述します)。アレンジャーは荻田光雄さんなんだね。デビューから10作ほどのアルバムの楽曲は、荻田光雄さんか田代修二さん、清水信之さんの編曲になっている。

かの友人と話すときにたぶん、大学時代の私は、岡村孝子さんが作詞作曲する楽曲の仕上がりが、どの曲も似通った雰囲気すぎるってことを言ってしまったと思う。当時の岡村さんご自身はすごく清楚でかわいらしい女性で、どこかアイドル的な人気っていう一面も有していたはずだ(実際、ライブ映像でのこの方のステージングってのがすごくかわいいんだな、これが)。友人もたぶん当時、声も作品もルックスも何もかもあわせて岡村さんが大好きだったのではないかなあ。

一応のまとめ


私が思うところとしては、まずシンガーソングライターとしての代表曲は「夢をあきらめないで」でいいのではないかと。マスコミの色がついたぶん、ちょっと作品自体の評価面で損をしてしまったなとは思う。
私のなかでご本人の作詞作曲作品としては … どこか「待つわ」を思わせるスパイスの効いた歌詞、アルバムをトータルで聴くと明らかに個性的な旋律、そして音作り的にも非の打ちどころのない「ピエロ」もとても好きな一曲だ。

「はぐれそうな天使」のほうは、来生節から出発して船山基紀さんがCMソングとしてサビを最大限に印象付ける音作りに成功した — ボーカリスト・岡村孝子を最大限に引き出した秀逸な一曲だと言える。来生えつこさんが描いたコトバで構築された世界観もすごくいい。

ネット上で推されているのは「夢をあきらめないで」と「はぐれそうな天使」の2曲だけど、そこにあえて「ピエロ」を加えて三つ巴ってふうでいかがでしょうか。というよりも、アルバム全体を通しで聴くほうがいいアーティストなのかもしれないとも思う。「電車」って曲なかったっけ? あれも好きだったかもしれない。鉄オタだからではありません(と言いながら撮り鉄もやってたりしますが) ^^; 。

またまた長くなりました。ありがとうございました。


After Tone :「夢をあきらめないで」「はぐれそうな天使」「ピエロ」収録
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