シャブ中×メンヘラ -1

「別れよう」

今日言おうと思ってた言葉をやっと出せた

引越しの準備、
相手と色んなお店を車で回り、手伝ってもらった後
私は言った

相手は勘づいていたのか予想外だったのか
どちらかは分からなかったが沈黙し
淀んだ空気が漂った

続きを吐き出す

「友達に戻ろう」

別に今後一生会わないよう提案しているわけじゃない
付き合ったのはその場の流れで
私の本心じゃなかった

これは相手にも失礼になるし自分の為にもならない

だが今思うと酷い女だ
散々相手を利用した挙句、やっぱり好きじゃなかったと。
だがメンヘラとはそういうもんだ

本当に好きで付き合うこともあれば
その場の流れで付き合うこともよくある

それに利用されていたのは私も同じ。

相手が口を開き、なにか納得していない様子で
私を問いつめてきた

何を言われたかは忘れたけど
最終的に、考え直してくれないかみたいな事で説得してきた
だけど私の心は変わらなかった

なにか決意したのか相手は鞄の中をゴソゴソと探る

パケと注射器

パケの中には結晶が砕かれた覚醒剤

今日はそういうのやる予定じゃなかったのに持ち歩いてたの？
と驚いたが
もしかして引越し準備を終えてから、
この人は私とキメセクをするつもりだったのか？

すぐさま相手の下心が頭に入ってきて少し嫌な気持ちになった

そしてその注射器は時期的に新しい物が手に入らなく、何度も使い古して針先がもうダメになった物だった

相手は現実逃避をするかのように
注射器にシャブを詰めていく

その様子を見て
あーこの人は好きな人の前で辛くなったら
違法薬物を使って自傷行為する人なんだと
不安と、
恐怖と、
嫌悪と、
なんとも言えない気持ちになった。

最初は見ないようにと思っていたが
気になって見てしまう

え？

私は驚いた

相手が今までに入れてきた量より
はるかに多い量を詰めている

流石にまずいと思い
「多すぎじゃない…？」

怖い気持ちが混じりながら止めたい気持ちで問いかける

声は相手に届いていない

あぁ

無駄だ

言っても聞かない

どうしよう。

あんな量入れて、身体は大丈夫なのか

もし体調が悪くなって救急車を呼ぶことになったら…

頭の中がぐるぐるした

私のせいだ。

私が別れようなんて言ったからこうなった

私のせいだ

私のせいで苦しめた
私のせいでODしようとしている
私のせいでこの人は死ぬかもしれない

私が言ったから。

でももう何も言えなかった
とにかく自分を責め、
ただ時間が過ぎるのを待った

相手は注射器に詰めた結晶を水で溶かし
血管に入れようとしていた

だが動揺しているからか、
針先が駄目になっているからか
そのどちらもなのか、中々入らないようだ

痛そうな声が聞こえる

相手の腕を見ると
血管を探そうと何度も何度も刺し直し、角度を変え、
ぐりぐりして腕を痛めつけている

3分、5分、、10分、、、

何分たっただろうか…

とにかく長く感じた

後のことはあまり覚えていない

少し声をかけたかもしれない
でも相手はもう周りがみえなくなっていて
とにかくシャブを身体に入れようという一心だった

そして
とんでもなく多い量が相手の体内に入った

さすがにしんどそうだったが今すぐここから離れたかったのか
荷物をまとめ、
何かを言って彼は出ていった

その数週間後、彼は逮捕された