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communitas religionis

 ラテン語には詳しくないので、上掲表記が精確か否かは判らない。仕事のミーティングのち雑談しながら「宗教共同体」について話をしていた。宗教の共同体といえば、昔ながらの寺社仏閣を含む里山的風景、またはキリスト教会などが挙げられる。最近それらについて興味深い事例をみている。

 ひとつは某県のキリスト教系カルト。こちらは人の少ない町で元カルト信者が自称キリストとなり活動する団体。コロナ禍以降、とくに2020年には活動が活発化したようだ。

 ざっと調べてみると、教祖となってしまった人物は、学生時代にキリスト教に感化され既存の教会を転々とするも定着できず、カルトの「統一教会」や「摂理」を経由した。摂理でさえ問題を起こして夫婦そろって追放され、2013年頃から動画投稿を始めた。やむなく孤独に宗教観を深めることになった教祖は、当初は美しい里山の風景と彼が作曲したと思われる優しい音楽とともに動画を公開。しかし音楽よりも自らの訴えを広く届けたいとラジオ形式に切り替えて、以降、陰謀論を語りながら、ヒーリング、奇跡などを商品化し、キリスト教系カルトの新教祖となってしまった。

 教祖について察するに、もともとは音楽への感受性豊かな繊細で優しく、対人関係が苦手な人物である。それゆえか、真理を求め、義憤に駆られ、社会変革を願い、絶望した。加えて情報リテラシーがないばかりに、インターネットを信じてしまった。疑問をもって検索して出て来る情報を素直に信じてしまった。メディアの雑な情報提供が、この社会と人類の複雑さゆえ、また絡み合う経済合理性のどうしようもなさゆえとは微塵も思わなかったのだろう。事実としての世界の奥行きと複雑さには目がいかず、単純明快な巨悪としての体制と戦う自分たちというシンプルさに心を奪われてしまった。結果、彼は新たな教祖となってしまった。

 また別の事例も観測している。こちらは反ワクチン運動のリーダーである。どうやら親が俳優であり、それを真似て俳優になるもうまく行かず、2007年に殺人未遂、2008年には傷害罪で有罪となっている。その後、俳優業を続けるも鳴かず飛ばず、一発逆転を狙いながら過ごし、2021年2月中旬までは地道に自作の音声付動画を上げている。作品の質は別にして、自分の芸で勝負しようとする姿勢は誰にも責められない。

 事実、最初の6桁再生を記録した彼の陰謀論動画は、彼の過去の動画との連続性をオープニング効果やSEにおいて担保している。しかし2月下旬以降の動画では、そのような連続性は担保されていない。同時に、再生数が10数倍に至るという非連続性が目立つようになっていく。もちろん内容は陰謀論への即応的な反応である。

 おそらく父に憧れるも挫折した俳優は、当初、地道に動画投稿を繰り返していたが、やがて陰謀論を語れば再生数が爆上がりすると気付き、冗談が本気へと変わった。こうして自己愛性パーソナリティ障害の男は、陰謀論の渦中に居場所を見出して、まさしくデマゴーグとなった。

 現在、彼が率いる運動は中年世代に指示を拡大し、反ワク運動の拠点、巣窟となっている。

 communitas religionis、宗教の共同体、陰謀論の生態系、ピュアな愛国心の哀しい末路、ネットリテラシーがない人の悲惨さについて思うところをメモとして置く。

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