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クリスマスイブ 奇跡の7秒

2022年12月24日 バスケットボールB3リーグ
岐阜スゥープス 74-72 トライフープ岡山

上位を相手に21点差。普通なら絶望するところだ。しかし「攻撃を盛り返せば何とかなるだろう」と、6連勝中のチームを率いる梶本健治ヘッドコーチはうろたえなかった。

「まずは守備から」という自分たちのバスケットを遂行し、徐々に得点差を詰めていく岐阜スゥープス。そして第4クォーター、残り7秒のところでドラマのクライマックスが訪れた。

得点は67-69。古賀森人が相手のパスをカットし、そのまま速攻に移行。レイアップシュートを放った瞬間に体当たりをされ、これがアンスポーツマンライクファウルに。フリースロー2本と、その後の攻撃権がスゥープスに与えられた。

当然のことだが、トライフープはタイムアウトを使い、シューターの古賀に心理的な揺さぶりをかけてくる。しかし古賀は「さすがに緊張しましたよ」と言いつつも、しっかり2本を決め切り、プロとしての精神的な成長を見せた。

同点で残りは7秒。ここで、コーチや選手たちから「打ってほしい」と言われていたというミスタースゥープス田中昌寛が、ハンター・コートのスローインを受け3ポイントシュートをきっちり沈める。見事なシュートタッチと芸術的な軌道。この痺れる場面で決め切るメンタルは改めてすごい。しかも3ポイントシュートということに大きな意味があった。


土壇場でスリーポイントを決めた田中昌寛

スコアは72-69、スゥープスはこの試合初めてリードを奪う。しかし、唯一の誤算はここで4秒を残したことだった。

再びタイムアウトを取ったトライフープはフロントコートからの攻撃。ノア・ダールメンがしっかりプレッシャーをかけ、スローインのボールを受けた敵をコートの隅に追いやった。そこにはダブルチームで付いていたが、ダメ元のシュートがなんとリングに吸い込まれてしまう。

残り1秒を切ったところで72-72の同点。一瞬、会場の空気が凍り付いた。

ただ、その中で冷静にゴール前に走り込んでいた選手がいた。

ノア・ダールメンだ。

「いつも、どんな点を決められても次のプレーをするようにしている」(ダールメン)

ボールを拾ったジェレル・ライトがそれに気付き、ロングスローを送る。

ボールを受けたダールメンは、マークに付いていた相手を弾き飛ばしそのまま右手でシュート。ボールはゆっくりとリングに吸い込まれ、コートを駆けまわるダールメンの回りにチームメートが歓喜の輪を作った。

上位を相手に圧倒的なビハインドでも、ひとつの揺らぎもなく自分たちのバスケを信じて得た大逆転勝利。しかも7連勝とチームの新記録を更新した。スゥープスブースターにとって最高のクリスマスイブになった。

ブザービーターで勝利を決めた42ノア・ダールメン

梶本健治ヘッドコーチ
--チーム初の7連勝。試合の感想は?
「今日の試合はゾーンディフェンスがカギでした。相手チームはゾーンに対する攻撃が少し苦手だと感じたので、出だしは悪かったですけど、徐々に効いていきました。うちはオフェンスがちょっと悪いだけだったので、そこを盛り返せば何とかなると感じていました」
--後半はハンター・コート選手がうまくコントロールして追い上げた。
「そうですね。それまでちょっとバタバタした感じがあったので、ハンターにして、そこでうまくまとめてくれたのが、勝利につながったと思います」
--69対69で決まった田中昌寛選手の3ポイントシュートが大きかったと思う。
「勝敗を決めましたね。あれがあるのとないのでは全然違った展開になったと思うので。その前も(古賀)森人が切り込んで、森人がMVPかなと思いましたが、マサ(田中)になってノアになって、いいプレーが続いたことが良かったですね」
--そして、やはり最後のシーンですが?
「ちょっと予想をしていなかったですね。僕もタイムアウトを獲ろうかなと思った瞬間に、ノア(ダールメン)につないでくれていたので、びっくりしました。勝ったとはいえ修正しないといけないところもあるし、大事なのは明日ですね」

荒川凌矢キャプテン
--チーム初の7連勝、ブースターに良いクリスマスプレゼントになったが?
「本当にうれしいですけど、明日が(年内の)最終戦なので、この勝利をいかに明日につなげるかが重要だと僕らは思っています。明日大敗してしまったら、ここまで積み上げてきたものの意味がなくなってしまうので、明日に向けていい準備をしたいです」
--最後のシュートが入った瞬間は?
「僕らが3点をリードしている場面で、相手に3ポイントを決められましたけど、その時点で僕らの負けはなかったので、僕は次の展開を考えていました。0.9秒でシュートが入ってラッキーというかほっとしたというか。オーバータイムに入っても勝てる自信はありました」

ノア・ダールメン
--最後はどんな思いで前線に走っていったのか?
「あのシュートを決められた後、誰もがショックを受けていたと思います。その瞬間、僕は時計を見て0.9秒残っていたし、いつも『どんな点を決められたとしても、その次のプレーをする』って考えています。あの瞬間はジェレル(ライト)選手が、これ以上ない最高のパスを僕にくれて、ああいう形のシュートで試合に勝つことができて本当にうれしいです。子どもの頃から夢見ていた瞬間だったし、それをクリスマスイブに達成することができて、こんなに最高な瞬間はないです」
--ちなみにこうした勝利に直結するブザービーターは過去にありますか?
「オランダでプレーしていた時に4,5回あのようなシュートを決めたことがありますけど、ああいうシュートの瞬間は自分で手繰り寄せることはできないですし、何か魔法みたいな力が働いて、その瞬間が自分の元に来て、本当にラッキーでした。あれ以上の瞬間はもうないと思います」
--試合を通しての感想は?
「本当に面白いなと思う点は、今日の僕のプレーは本当に全然良くなくて、そういう時は自分の心の内側へどんどん向かって行ってしまいがちになるんですけど、やっぱり一つのシュートでそういうものが一気に変わって、あのシュート1本で自分にとってすごくいい試合になったし、忘れられない試合になった。それが本当にスポーツの面白いところ、美しいところだと思います。多分ブースターのみなさんも、この試合を一生忘れないと思いますし、僕も忘れないと思います。僕の息子は(小さすぎて)覚えていないと思いますけど、いつかビデオを見せて『こんなことがあったんだよ』って伝えたいと思います」

ジェレル・ライト
--最後しっかりと最高のパスを出した。
「相手の(アンドリュー)ロビンソンがすごいシュートを決めて、僕らもディフェンダーが2人いって予想通りに守ったのに、それが決まってまずびっくりしました。そこでまだ時間が残っているって気づいたら、ノアが走り出しているのが見えて、もう祈るしかないというか、ノアが何とか決めてくれると信じてパスを出しました。良いパスだったと思いますけど、ノアのおかげです。すごいフィニッシュでした」
--最後のパスも良かったが、追い上げている場面での守備も良かった。
「序盤にファウルを重ねてしまって、本当にチームに辛い思いをさせて、やりにくかった部分もあったと思います。自分はベンチで声を出してメンタルをキープして、後半チャンスが回ってきた時に、自分の全部を出し切ろうという意識でプレーしました。本当に今日の勝利は、チームのバスケをやったことに尽きると思います」
--フリースローも16本中13本決めた。
「梶本ヘッドコーチは、練習からフリースローにこだわっていて、外国籍選手も日本人選手もフリースローを意識しています。その練習の成果が出たのかなって思っています」
--いま通訳してくれているハンター選手とも良い連係が取れていると思うが?
「そうですね。お互いにやりたいバスケが分かっていて、ハンターがここにいてくれたらとか、その逆もよく分かっているし、一緒のリズムに乗っている時は、本当に止められない2人だと思います。ベンチメンバーも含めて全員が仲間のためにやりやすいようにプレーしてくれるので、そこで頑張っているだけです」

ハンター・コート
--特に後半、ハンター選手の捌きが効いていたと思います。どんな意識でプレーしていましたか?
「ハーフタイムで点差は開いていたんですけど、やっぱり自分たちのバスケを、点数は関係なく、自分たちのバスケをやろうという感じで、あまり点差は気にせず普通にやっていました」
--古巣戦でかなり気合が入っていたと感じたが?
「いや、相手ではなく7連勝というチームの記録、それを上位の本当にいいチームを相手に挙げるということでした。上位チームに初勝利と言ってもいいくらいだし、大きな勝利だと思いますし、それに向けて頑張っていたという感じかな」
--勝利のシュートが決まった瞬間は?
「かっこ良く勝つって思っていたんですけど、あの3ポイントが入って、あれってなった瞬間に、向こう側でノアが決めていて、びっくりからのびっくりで、ゴール下にいたので、入った、え、0.9、おお飛んだ、入ったって感じでした(笑)」
--この逆転勝利の意味は?
「いろんな逆転勝利があると思うんですけど、今日の僕たちは本当に1本1本、15(点差)から12、7、5,3、来た、やっと間に合った、みたいな感じでした。今年は結構逆転勝利が多いですけど、今日は特に頑張ったな、みたいな感じですね」
--連勝でチームも良くなってきたと感じるが?
「やっぱり勝利することで全部が良くなると思います。でも僕らは負けていた時も頑張っていたので、そこでバラバラにならなかったのが、今につながっていると思います。あそこでバラバラになっていたら一瞬でシーズンが終わっていてもおかしくなかった。そういう場面が何回かあったけど、練習からみんなで頑張ろうとやってきたことが、今につながっているのかなと思うし、Bリーグは連続して試合があるので、上位相手に2連勝するのが残りのシーズンにも、僕たちの成長にもつながると思うので、油断をせず明日も勝ちに行くつもりです。さっきのミーティングでもみんな全然満足していない雰囲気だったので、めっちゃ好きです」

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