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ホリエモンはCROSS FMを救うのか。

JX通信社/WiseVine 藤井です。ホリエモンが倒産寸前だったCROSS FM(北九州市)を3ヶ月で黒字化した、という記事が放送業界関係者の間で結構な数シェアされていたのですが、みなさん「言いたいことはあるけど、ちょっと書きにくい」雰囲気を出されていたので、2度入社したラジオ局を退職して数年経った私が、公開情報の範囲で書く分にはお目溢しいただけるかな、と思い、思うところをいくつかメモしておきたいと思います。

そもそもの事業承継の経緯

CROSS FMはDHCが創業家からオリックスに事業承継を進めるなかで、いろいろとトラブルもあったDHCテレビの売却に先立って、傘下に収めていたラジオ局も処分したものです。非上場会社の取引なので、市場価値としてどの程度の評価がなされたのかはわかりませんが、かなり混沌とした状況での承継であり、ある程度の離職者が出るのは当然の状況です。

CROSS FMとニッポン放送の違い

CROSS FMはJ-WAVEをキーステーションとするJFL5局(https://www.j-wave.co.jp/jfl/)のひとつで、もともと東京からのフルネット供給の番組率は低めのステーションです。地域放送局であり、地元密着であることがビジネスの基本です。インターネット時代になったからといって、急に日本全国を相手にビジネスを転換できる土壌があるわけではありません。

電通・博報堂に本当に依存しているのか

電通・博報堂本社が「ラジオ」単体の部局を大昔に廃止したのは事実ですが、いまでも在京キー局の担当はいます。
CROSS FMは地方局であり、そもそも電博であっても、電通九州とか、九州博報堂とか、地元の代理店とかが取引をするのがメインです。

https://www.tfm.co.jp/company/pdf/news_4e01b3d4b3f3d0073249d4ce672f5c4164744fa291141.pdf (TOKYO FM 2022年度決算)

最近TFMも代理店ランキングを公表しなくなったようなので、あまりこういったデータを見る機会もなくなりましたが、そもそも最近のラジオはキー局でも直営業比率は高めですし、ランキング上は上位にいるように見えても、D・H以外の代理店のシェアが比較的高い業界です。DとかHとかに依存するのが悪いんだみたいな話は、20年ぐらい前に解消した話だと思います。

いわゆる事業収入の比率について

イベントとかの収入のことを「事業収入」と放送業界では呼びますが、ニッポン放送がオールナイトニッポンのイベントを大きく当てているのに代表されるように、ラジオ局は元々、自主イベントが比較的得意です。北九州市を地場にするCROSS FMにとっては、手頃なサイズのイベント会場がないとか、制約がつきまといますが、サウナやゴルフに手を出さなくても、イベント収入を立てる方法は、もともとラジオ業界には確立されています。CROSS FMでそれを嘆くのは、単に地理的な要因によるところが大きい気がします。

サテライトスタジオの収益構造

サテライトスタジオが2つあることを「バブル期の過剰投資」「負の遺産」と表現していますが、TOKYO FM渋谷スペイン坂スタジオを例に挙げるまでもなく、サテスタはそれ自体が集客装置であり、その立地商業施設か等の招聘であったり、定常的なスポンサードが見込めることを念頭に、黒字経営できることが大前提で設置するものです。メディアとしてのPRを第一優先に設置するものではありません。
現状のCROSS FMの経営においてサテスタが2つあることが重いのは、単純にDHC時代におけるスポンサーとの関係性であったり、見通しの甘さによるものであって、設備的な過剰投資だったという総括は、論点がずれているように思います。

IP収入と「YouTuber事務所」の違い

今後のCROSS FMはIP収入を目指すのだ、というまとめがなされていますが、本来の放送局のIP収入というのは、コンテンツに投資して製作委員会に入ったり、そもそものコンテンツ育成の段階から放送に関与したり、ヒット前からアーティストにレギュラー枠を提供したりして、その果実を得るものです。ホリエモンというコンテンツを拡散する装置として使うなら、それはインターネットでやればいいことだと思います。
こんまりさんとか、地上波に出にくくなった芸人さんとか、ニッチなところををブッキングしようという動きは、最近別のラジオ局でもたまに見かける動きではありますが、持続可能性のある動きだとは思えません。それならYouTuber事務所をやればよいように思います。

と、さしあたり思うところだけでもいろいろあるのですが、北九州市という一定の規模のある地域において、地域放送メディアが維持される事自体は、とても意義のあることだと思っております。
堀江さんは福岡県という土地にゆかりがないわけではありませんし、実際に、地域の経済人との接点構築もされているようなので、よい成果を出されることを願っています。

自分の仕事(地方自治、防災、AI)について知ってほしい思いで書いているので全部無料にしているのですが、まれに投げ銭してくださる方がいて、支払い下限に達しないのが悲しいので、よかったらコーヒー代おごってください。