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ヤフーからラジオ番組表がなくなった日

唐突ですが、みなさん、新聞のラジオ欄って見たことあるでしょうか。テレビ欄ではありません、ラジオ欄です。まとめて「ラテ欄」と業界では呼ぶのですが、ラジオ欄は今や新聞の真ん中らへんのページに追いやられています。たぶん見たことある方は、ほとんどいないんじゃないでしょうか。

あの「ラジオ欄」は、東京ニュース通信社、日刊編集センター改め日刊スポーツPRESSという2社が各ラジオ局から原稿を毎日取り立てて、まとめたものを新聞社などに配信しています。地域によってラジオは行数がさらに削減される場合もあるので、2パターンの原稿を用意して、毎日締め切りまでに送る、という業務を、編成というセクションが担っています。テレビ欄の「縦読み」が時々話題になりますが、あの限られた文字数の中で、しかも締め切りがある中で、そのように番組内容を表現するかは、各局のプロデューサーや編成の腕の見せ所でした。昔はそれ専用の原稿用紙が局内にあったらしいです(私がラジオ局でそれに関わっていた頃は、すでに電子化されていましたが)。

1月29日、その配信先の一つである、ヤフー番組表が、ラジオ欄の掲載を終了しました。今後はradikoをご覧ください、とあります。インターネット上でラジオ番組表を掲載していたのはヤフーが最後だったので、これで、実際にラジオの番組表をネット上で見る方法は、事実上radikoだけになりました。

radikoの番組表だけあれば本当にいいのか

radikoに提供されている番組表は、単なる番組表ではなく、インターネット配信の許諾有無や、出演者の写真など、様々なメタデータを含んでおり、しかもリアルタイムに更新されなければならない(例えば野球中継の延長など)宿命があるので、ラジオ欄よりも鮮度が高く、かつ情報量も多い傾向にあります。各系列局ごとにシステムを整備して、えっちらおっちら、限られた人員の中、裏で更新をしています。経済的な様々な障壁を超えてradikoに全局参加が実現した今、あえて文字数の限られた紙ベースのラジオ欄をウェブに掲載する理由はもはやない、という判断もあったのかもしれません。

ラジオもテレビも、今は番組の放送前にある程度まとまった情報を記事の形で出したり、事後にも追っかけ再生を稼ぐためにコンテンツを追加で出すことが、人員にある程度余裕のあるキー局では常識になりはじめています。リアルタイム視聴を「ハードル」と感じ、オンデマンドでコンテンツを消費することが常識になった今となっては当たり前の活動なのですが、それでも、放送前に事前に、どんなコンテンツを発信する予定なのか、練りに練った番組宣伝を限られた文字数で発信する、という作業は、放送というタイミングに向けたプロデューサーやディレクターの、決意表明のようなものでもあります。私はTOKYO FMの開局40周年(2010年)にあたって、国会図書館に行って当時の番組表を確認してきたりしたのですが、そこには確かに、「開局初日を迎えるにあたっての決意表明」がにじみ出ていました。

その後、FMは「エアチェック」という独自の文化に支えられ、いわゆるエアチェック誌と呼ばれる雑誌に「どの曲をかけるか」というリストを事前に1ヶ月分掲載して、それを予定通り放送して、録音してもらう、という独特の歴史に支えられていくことになります。1ヶ月先までコンテンツを決めておくなんて、今の時代には考えもできないことですが、その頃の番組表は、復刻版コンテンツとして通販するに至るほど、いまでも文化的価値を感じるものです。

とはいえ、時代も時代です。radikoというサービスはラジオを聞く「手段」なので、radikoにいまある番組メタデータは、もっとオープンに出していかなければ、数多あるコンテンツの中で(それこそCLUBHOUSEなんてものも突然バズる中で)選ばれる存在になりません。

Twitterで番組情報を出せばいいのでしょうか。それもそうではないと思います。ラジオ局のTwitterアカウントなんて、みんなフォローしていないでしょう?(中の人をやっていた僕がいうのもあれですが)、へぇ、ラジオでそんなことやってるんだ、と気づいてもらえる、社会への窓が必要なのです。

ヤフーの歴代の担当者は、「ラジオ番組表を掲載しているのはうちだけだから」と、利益度外視で、長年ラジオ欄を守ってきてくれていた、と、風の噂に聞いています。それでも維持できなかった時代の流れを真摯に受け止めて、ラジオ各局は、作ったコンテンツを「どうやって世に問うのか」、真剣に考え続けなければならないと思います。radikoがあれば安泰、なはずはないので。

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藤井大輔(JX通信社/WiseVine)
自分の仕事(地方自治、防災、AI)について知ってほしい思いで書いているので全部無料にしているのですが、まれに投げ銭してくださる方がいて、支払い下限に達しないのが悲しいので、よかったらコーヒー代おごってください。