二度戻らない時計の針②

「はいはい、ここでしょ」

彼女の望むマッサージをしてあげると、彼女は嬉しそうにああーここそうここーー!とうっとりと目を細めて、尻尾をパタパタと音を立てた。

(いつもの光景というのはこんなにも、安堵するんだなぁ)

『ねーねー、その服お気に入りだったんでしょ、どうするの?』
「それがさ、焼いて捨てろって宗にいわれちゃった」

ええーそれいくらなんでも無神経すぎと、彼女は呆れたといった顔をしつつも、まあその方が妥当ねと呟いた。

『それ洗っても匂いだけは残るから、そうしたほうがいいわよー』
「呼猫もそう思うんだ?」
『人ならざる者というのは違うのよ』

本にも載っていたわよ、やーねこの子はと彼女は私の目をじっと見つめてふうと息を吐いた。

「そうだっけ」
『あらやだ、本の虫のくせに覚えてないのね…いーい?人の匂いってね生の匂いがちゃんとあるの』

と彼女は真剣な顔で、私の顔を見つめてそう言いつつ、私のマッサージに飽きたのか、自分の肉球をペロリと舐めて手繕い始めた。

『宗達も半分は人でしょう?だから生命力というエネルギー源が凄くあるんだけど、あなたの場合は人では無いの、生ではないからというと語弊があるけど、生きているけどこの世ではないからよ』

人ではないというのは生を感じるようなエネルギーとは全く別のものだから匂いでしか分かりようが無いの。と彼女はそう言って、スタスタと歩き、ひょいっと音を立てて本棚の上に戻ると、尻尾で読んだ本のありかを示した。

『時間あったらでいいけど、それ読んでね?』
「わかった、でも結局は焼いて捨てないとダメなわけね」
『勿体ないけどね〜』

一緒に選んで買った服だもの、全く以って残念だわとガックリと肩を落としつつ、ゴロゴロと喉を鳴らす彼女を見て、私は何度目か分からない溜息をする。

「はぁ…仕方ないね」
『本当よね、さ、着替えておいでよー』

待っているからさと再び彼女は喉をゴロゴロと鳴らして、のんびりと寛ぎ始めた。

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