2021年3月 宇多田ヒカル / One Last Kiss

約1年ぶりのレビューはやっぱりこの人。

この人やっぱり、歌詞においても天才だと思う。

「初めてのルーブルは なんてことはなかったわ」これで始める歌詞というのは、才能のある人にしかできない。私だけのモナリザに出会ってたから、っていう理由で、あのルーブルを「なんてことない」と言い切る事で、そこに私だけのモナリザ(あなた)への思いの強さが読み取れるようになっている。

「寂しくないふりしてた まあ、そんなのお互い様か」という歌詞にしても、寂しい+相手への理解 or強がり、が読み取れるし、こういう事をサラッと言う事で、心情の奥が表現できる稀有な存在だと思う。

忘れたくないこと/忘れられない人、似てはいるけど意味の違う、繰り返されるこれらの一文も凄く重要で、"こと"はいつか忘れたければ忘れることができるし、人は忘れたくても忘れられない、と深読みができる。

忘れてしまいそうだけどけれど忘れたくない大切なこと、忘れたくても忘れられない大切な人。絶妙な言い回しの違いによって、心情の違いを表現できるのも、この人の特異な部分だと思う。

きっと宇多田ヒカルって、すごく作り込むタイプのアーティストだから、練りに練った結果がこの歌詞だという信頼があるし、ちゃんとそこに意味を持たせていると思う。良い映画監督は無駄なシーンがない、という信頼のような、一語一句に(そして全てのメロディに)理由があって、こちらもそれらを取りこぼさないように聴きたいと思わせてくれる。

マイペースで良いから、引き続き作り続けて欲しい。



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