人生初の乙ゲーで出逢った、柊夜ノ介という人間
※本記事は、『ときめきメモリアル Girl's Side 4th Heart』の柊夜ノ介ルートのネタバレを含みます。
先日、『ときめきメモリアル Girl's Side 4th Heart(以外GS4)』をプレイしたので、備忘録的に記事を書く事にした。
ゲームをしっかりプレイするのは約半年振り、かつ人生初の乙ゲーである。
乙女ゲーと言うと、自分には縁遠いものだと思っていた。自分は恋愛シミュレーション的なものにはあまり興味がなく、どちらかと言うと硬派なストーリーやゲームシステムの作品を好む。そしてあまりにもそういったゲームの色恋沙汰から遠い人間なので、『ファイアーエムブレム覚醒』のことを乙ゲーだと思ってプレイしていた。
何故GS4をプレイすることになったかと言うと、前職場を異動する時に餞別の品としていただいたからだ。花束やお菓子の中に混ざるときメモは一際異彩を放っていて、取り敢えず共に引っ越しはしてきたものの、二ヶ月近く日の目を見ることはなかった。
改めて少しだけ時間が取れそうだったので、やっとプレイをした次第である。
そして今、やっと意中の相手とのエンディングを迎え、Official髭男dismの「Subtitle」を聞いて泣きながらこの文章を書いている。
このゲームに関する前情報は殆どゼロ。強いて言うなら、「愚さんはナナツモリが好きだと思います」とプレゼントしてくれた方から言われていたのと、福山潤のキャラがいることくらいは知っていた。それならば、そのナナツモリとかいう男を確かめてやろうやないかい!とスタートボタンを押した。
一周目 柊夜ノ介との邂逅
まずは自分の名前などのプロフィールを決めるところから始まる。
この時、妙な恥じらいがあって本名を入力できず、「星野源子」という人間としてはばたき学園に入学することにした。
どう見ても最初から主人公への好感度がカンストしている幼馴染、入学早々主人公にスキンシップの取り方を教えてくれる子安等、しょっぱなからキャラの濃い登場人物に圧倒され、乙ゲーの洗礼を受けた気がした。
部活を選択する際、そういえば福山潤のキャラは生徒会に入っていたような気がする、という朧げな記憶で、取り敢えず生徒会に入る。そして彼と出会う。
「柊夜ノ介」という人間である。
ナナツモリとやらが出てくるまでの繋ぎとして取り敢えず親交を深めておくか笑 という軽い気持ちで彼と接していく。声がとにかくいいし、顔も割と好みだ。聞くところによると、生徒会メンバーでありながら市民劇団の座長というとんでもない肩書を持つ優等生らしい。というか、自分以外の人間は全員とんでも肩書きを持つ人間ばかりである。これも乙ゲーあるあるらしい、というのは短くないオタク歴の中で知っていた。
よ〜し、そろそろ七ツ森を攻略しよう!とハンドルを切ろうとした時だった。
突然、テレビから福山潤の声で「星野さん」と呼ばれたのだ。
衝撃だった。まさかあんなに滑らかなボイスで名前(偽名)を呼ばれるとは思っていなかった。本名だったら確実に死んでいただろう。
梶裕貴にも吉野裕行にも名前を呼ばれる。ここはとんでもない世界である。
学園生活ということは、部活あり、恋愛あり、テストありである。
このテストというものは、自分に振られている学力や芸術などのパラメータを元に結果が決まる。最初のテストは一教科欠点を取ってしまった。自分の高校時代を鑑み、初回から三個欠点を取った自分と源子を重ねてしまった。
そしてこの源子よりも悲惨だったのが、柊夜ノ介である。
この柊夜ノ介、いかにも優等生然としているというのに、欠点を二つとっている上にネームドキャラの中で成績最下位なのである。
私は元来、頭が悪そうに見えて良いキャラよりも、頭が良さそうに見えて悪いキャラの方が好きになってしまうタイプである。故に、この柊夜ノ介という人間に俄然興味が出て、アホ可愛く見えて仕方なくなってしまった。
柊夜ノ介をデートに誘う毎日が始まった。打率は低く、三回に一回は断られたし、その貴重なデートは恋愛経験に乏しい私のせいで選択ミスが続き、印象を悪くしまくった。それでも根気強く彼との交流を続けた。
最初は冷静なヤツかと思っていたが、その実は熱血で、和菓子が好きで、楽しいことが好きなただの高校生であると知った。
高校生活の三年間はあっという間に過ぎていった。卒業式の日、私は結局誰からも告白されることなく卒業した。柊夜ノ介からの好感度は足りていなかったらしい。乙ゲーって割とシビアなのだな、とこの時悟った。ただ漫然とデートをしているだけでは駄目なのだ。
二周目 夜ノ介卍リベンジャーズ
二周目に入る。今度こそ柊夜ノ介を振り返らせる。そして恥を捨て、遂に下の名前は本名で設定した。
この男を振り返らせる為には、芸術というパラメータが重要なことを知った。前回は芸術はからっきしだった為、今回はそこを重点的に鍛えていく。
柊夜ノ介の好みも幾度となく繰り返すデートの中で理解してきた。彼の前でいい子であろうと優等生的な選択肢を選んでいると駄目なことも理解してきた。
浴衣を着て花火大会に行ったり、そこで焼きそばが大好きなことを知ったり。一周目では見えていなかった彼の一面がたくさん見えてきた。
好感度が上がるにつれて、彼のバックボーンがどんどん明かされていく。
彼の演劇に対する苦悩、背負った重圧。それらが明かされた時、本気で彼の助けになりたいと願っていた。
もう彼は私にとって繋ぎでも、声優目当てでもない。柊夜ノ介という人間に、私はちゃんと向き合おうと決心していた。
柊夜ノ介という男は、なかなか己の本性を表さない。
それは物心がついた頃から役者をやっていたからであり、彼の生き方そのものだったのだろう。
その「何者か」になることに慣れていた彼が、少しずつ剥がされて、「柊夜ノ介」という人間になっていく。
一貫して紳士的な振る舞いを続けていた彼が、主人公の執拗なスキンシップにこう反応する。ギャップにときめくシーンなのかもしれないが、私はこんな状況になってなお自分の気持ちを押し殺そうとする柊夜ノ介を思って、胸が苦しくなった。
高校最後の文化祭で、彼は裏方仕事に徹して他の者に華を持たせようとしていたが、主人公や同級生たちに心を動かされ、自分の迷いと向き合い、主人公と共に役者として舞台に立つ。
彼が演劇をやってくれていて良かったと、心の底から思えたワンシーンだった。
そして来たる卒業式。柊夜ノ介は告白してこなかった。二周連続独り身エンドである。
手を繋いだくせに、文化祭でハグしてきたくせに、子猫ちゃん呼ばわりしたくせに、柊夜ノ介は告白して来なかったのである。
本当におもしれー男。
この辺から、私は通勤時の満員電車でSwitchを出すことを厭わなくなってきた。
睡眠時間と食事時間を削り、柊夜ノ介を攻略することに執念を燃やしていた。
三周目 執念の先にあるもの
前回は魅力のパラメータが足りず、告白を逃していたのだと知る。
今度の私はもう間違えない。幾度のループの先に、柊夜ノ介とのエンディングがあると信じて。
概ね順調に三周目は進んでいく。三周目にもなると、流石に効率も踏まえたプレイの仕方を身につけてきていた。
初めて三年間の誕生日を祝えた。初めてクリスマスを二日間いっしょに過ごした。二周していても出来ていないことがたくさんあることを知った。そして多分、今もなおたくさんあるのだろう。
修学旅行も学園祭も無事に終わり、残るは卒業式だけだった。
芸術と魅力を引き換えに学力を捨てた私は、二流商事に進むことを決心した。柊夜ノ介からの告白を勝ち取る為なら安いものである。
卒業式。町にある教会にやってきた主人公は、その重たい扉を押す。一周目と二周目は、固く扉は閉ざされていて開くことは無かった。今回は違った。
開いた扉の先、振り返るといたのは、執念で追い続けた存在だった。
柊夜ノ介。誰よりも愚直で、芸の世界に生きているのに不器用で、美しい人間である。
彼は教会でこう語る。
劇団で人を指導する存在なのに、最低限の学力すら持っていない。生徒会に入っていたのも、そのギャップを埋める為なのだと。
彼は一度も演劇を好きだと思ったことはなかったと。
けれど文化祭で主人公と劇を演じ、本当の意味で演劇を好きになれたと。
そして彼は告白をする。自らを導いてくれた光であり、指針である主人公に、やっと思いの丈を告げた。
柊夜ノ介は、ずっと耐え続けてきたのだろう。テストで欠点を取った時、団員から離反された時、とてつもない苦しみを味わっていたのだろう。自らが破綻していると自覚している者としていない者の苦しみの差は、残酷なほど鮮やかである。
私は結局、最後まで「主人公」にはなれなかった。最後の告白も俯瞰したところから眺めていたし、「幸せにしてやれよ、源子(実際は本名)──」と涙を流すことしか出来なかった。
だけど柊夜ノ介には主人公がいる。これから先、ずっと隣で導いてくれる光。それだけですごく救われた気持ちになった。
冒頭書いたOfficial髭男dismの『Subtitle』の歌詞の中に、
という歌詞があり、柊夜ノ介を想ってまた泣いた。
こうして、柊夜ノ介ルートの攻略は一旦区切りをつけた。
このゲームをプレゼントしてくれた方に報告をすると、「まだ彼の知らない一面はありますよ」と返された。そして、今渋谷でときメモの特別展示をしていることも教えてくれた。これほどまで関東住みで良かったと思ったことはない。書き下ろしの柊夜ノ介のパネルがあると聞いたので、今度友達を誘って行ってみようと思う。
紆余曲折あったが、人生初の乙ゲーの攻略対象が柊夜ノ介で本当に良かったと、心の底から思っている。
このゲーム、恐ろしい事にまだ攻略対象が7名ほどいるようだ。ちゃんと睡眠を取れるようになるのはいつだろう。
存在しなかった青春をくれてありがとう、柊夜ノ介。世界に一人の、本当におもしれー男。
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