生への執着探偵 往足 永鷲朗*とちり(3)

-まずった。


何時いつだって本当の危機は礼儀ただしぃ。
そぅと気付ぃたときにはすでに、折り目ただしく自己紹介を済ませているものだ。

流石さすがにやっと警戒けいかいする気になった。
―ぃゃ、むしろここまでなんで気と身をゆるしていたのか、 なべにくもこんだけ平然と。大自然の雄大ひろさが見せる美麗うつくしさと、心細さの隙間すき まといぅやつだったのか。

次に到着したところは、
いゃに時間感覚を 逆巻さかまゎしにさした暗さにかげ仄昏ほのぐらくて それでいてザッピングされた風景のよぅにがちゃがちゃしてぃる。
-"嗅覚きゅうかく"は実感触じっさいにもこぅばしぃ―そんな空気といぅ、 一般的常識も
この場所はすくなくとも-自分達…
ぃや、 自分。 といぅ、 このどぅやらおりこぅで清楚せいそで-知目行足夜目遠目ちもくぎょうそく よめとおめ、 そんな箱入りのラットみたぃな矮小ちっぽけな若者にとって、 それは倫理的にも本能的にも……あまりよろしくなぃ雰囲気の不文律デタラメなこの世の隘路あいろの街だったのだ。


おそるらく人々の暮営クラしいとなみの不可食部くえなさを集めて鍋で煮詰めてそのまますすけて焦がしてしまったよぅな景色には
あのさゎがしぃ俗世の喧騒けんそうのつんざきが - だが厄々ざわざゎしく
ぼぉんやりと聞こぇて、そこにはおそるらくる筈の人のわずかなぬくもりすらよけぃに希釈きしゃくされ幻惑げんわくされている。呼吸のひびきもてつくよぅな非生存可能圏アウトサイド

「ぉい」

「ひぇ」
こちらのふるぇる肩をつかんだ男は夜明けの前より闇のみつぃた車その内で地獄の底からつぶゃくよぅぬろんりと顔をちかづけてすごみもくらむよぅいった。
「ここはあんましガラのよくねぇとこだ。 変なのにひっぱりこまれたりせずにちゃんと付ぃてんだ、
まっすぐ帰ぇるぞ」 その眼は夜海やかいの沖の灯台より寂しぃほど紳士で、真摯しんしである。
「ひゃぃ」
迷子の仔猫こねこ親猫おやねこ
首根くびねっこまれたよぅに、とたんに肩の力が抜けた。

車内のフレームを木陰にするよぅに、ぎりぎりの合間あいまから覗き見遣みやる、
そのゆくさきへあるものは
遠未来を見せる遺構サイエンスフィクションのよぅに無機質に立ちはだかり
空を圧迫しながら肩付き合ゎせ
整列へと並ぶコンクリート建造物、その足許あしもとじりつくよぅな街並み―町…人の文明の-それは居住区といぅより―"壁"の連続のよぅな、
門兵もんぺい気迫きはくのよぅにたてつづぃてそのさきにくるべきしのびごしの視界と精神をふさいでいる。

-難破船なんぱせんのごとき異邦イホウの存在感。―この今まで乗車してきた放ぉりだされた宇宙のなかのシェルターのよぅに頼りきっていたドアをまた決起けっきして―もはゃそのなかへとびだしはじめたその男の挙動きょどうにつづき、いそぃですりだし開けてみると、

びえる背のそのひび修繕跡しゅうぜんあともあらゎに…無化粧シラフはだもあばた古めかしぃものだらけの
石壁せきへきに融解された照明が曖昧にしてゆく
灰色の視界は朝焼けの光彩よりも、はこのなかの
ものどもの固有色いろ際立きわだたせる。
-おゎりのころのパレットみたぃな
そのなかで どぶにおとされたインクみたぃな
その車の荷台の端からそのへ向けて見やるボディには、 そのドアから側面までよりなぞる全面へ至るまで有象無象うぞうむそうやんちゃむちゃの奇怪な図形群シンボリックのペィントがどこしてあったよぅな事に気付ぃたが、いままさにただ決死行-take your marks-の覚悟を決めたぎりぎりの視界の照準しょうじゅんはこれ以上の情報量をることを拒絶きょぜつしそれからへ脇目をらした。

先程このグレートウォールを駆け昇るほど上がりけたこの男の株が無事に着地し二度ふたたびこの哀寂あいさびれた大地へ根付ぃた。

反対側面はんたいがわから壁とれたシブシブシブといぅ音をたて
せたモグラのよぅにぃ出す男と、それがもつ鉛色ダーティのやにわに肉斑トランスポゾンと-車体を抜けて鉢合はちあゎせる。

肌着一枚に上身うわみを変ぇた男は案山子かかし棒人形ぼうにんぎょうみたぃに、少しだけ頼りなげだが、それでもやはり―川縁かわべりあしのよぅに・この異世界でのたくまし御衛ごえいにみぇた。

本当にただ一台分、―いかにあの山麓やまみちのだだひろき硬派こうはな広場が優しぃ文明性を感じさせるものだったか。 細ぃ路地の先のそのどんづまりに頭からつっ込んである。そのあとさきのなさはまるでやぶへとひそ狙撃主そげきしゅかのよぅ。
ブロックべいの人のつんだ境界さかい主張しゅちょう嘲笑あざゎら抵抗ていこうするよぅに-そのふちでそれをもろけさせながら、この不毛の国土で健気にもはえそむる灌木交かんぼくまじりの雑草が…余程よほどアポカリプスにでも遭った風前ふうぜん僻地へきちを演出した。

そして、そんなこの世の果ての塹壕ざんごうからすら自分達はす。
そしてあてどもしれなぃゴールをさがして進む。

やっぱりそんな"ゴースト・タウン"の住人幽霊みたぃなほの白ぃ髪を大気かぜへゆらす男の、
その片腕には"助手席"へと詰っこんであった上着をしっかと掴んで先にだした歩みと共に振っている。たっぷりかの湿度を含んだダウンジャケットの袋構造タンクはさすがにまだちょっとびたびたと鳴って響ぃている。自分達メンバーの中で最も饒舌じょうぜつではなぃだろぅか-その滑稽こっけぃさは空気も読めぬほど。 この街の雰囲気のどちら側のかたともといぇ―あまりみられたくなぃといぅか
そも、 見れるよぅな人にあいたくなぃ。


そんな想ぃに削られるたびに気弱になる願ぃも、
本当に誰にもいやぁしなぃ―深ぃかげや遠ぃ空の人間の-他の生き物の気配すらゆずるよぅにこゎばる肩をけてゆく…たぶんもぅ朝がきたはずの路地裏ろじうらは、 これは自分達、 だけしかいなぃ
まるでβベータテスト中-なぃし終末期しゅうまつきのネトゲのよぅに扁平な道行きのまことである。
そんな見えざる結界かなにかでもみちてるかほどの
自販機すらもこび売らなぃよぅなほこりよどんた街路を砂嵐モアレのよぅな索漠さくばくの非現実感と共に歩んだ先、

前隣まえどなりの男がふと、 立ち止まり目くばせた。

日中の光をさえぎり隠しこの街を恵みもなぃ混凝土コンクリートの雨林へみ込んだ
錚々そぅそうたるビルの影間に
立つ一棟の縦長ぃ
タイル張りも時代
錯誤さくごめく歴年レトロの外装の建物。
 『*--ビル』
と-いまはおちぶれたよぅにいたづらにこじゃれた門枠ゲートには…―その肩書、ぃや…"出自"だけがどぅやら確かに書ぃたままでおり。
それは呼び名的には 雑居ざっきょビル、
といぅ名称ではある筈のものの、
ぢかぢかと古くさぃ蛍光灯の爪弾つまびく不安定な音色すら立てて~おあつらぇに-ウィンクしながら招き入れる為の口すらす簿めて 艶っぽくはたして迎えてくれている―それが丁度目の前ぇで遠くの街路灯と合ゎせて消えた。

男はそのじむぐりないきものの巣穴みたぃな、ぃさな門をくぐり-
この街路での無機質な合理性コミッションの内でのわずか懸命けんめい洒落気しゃれっけかぉらせる外見そとみに相対して-その場所の役目やくわりの冷めた内面をさらすよぅに…廊下はやはりコンクリートの地膚じはだちっぱなしで、ところどころはかけはがれており粉塵ふんじんのよぅな瓦礫がれきと化している、 さりり、 とその荒涼たるまた隘路をひとしきりゆけば
 ビルの両翼のむね
 挟まれるかたち階段箱かいだんばこの中、そんなこの廊下の中程の間合いの切り口に
その建築の自身そのものが囲み向かぃの壁とつくった狭間の陰でおぉわれるよぅにしてある突然の隠し部屋みたぃな曲がり角
それを垣間かいまたところへ、
 嗄枯しわがれた手摺てすりフェンスとそれをつなぃだ足場のみの踏み板ふ  いたの陰が-スリットみたぃに背景に刻む―向こぅ側の深淵のよぅな空隙すきまもマグリッドみたくあらゎに風吹き抜ける鉄階段があった。
-そこへ綽々しゃくしゃくをつづける。

視界はよけぃ暗くなり―ぃや、白々とした化粧をとった鉄階段が、その年季の錆をよりエモーショナルに魅せて、そこを男の皮張かわばりのズボンに―これがまたいくらも目前もくぜんにみれば端の破けて、おまけに補修なぉしてあって、みればいかにもこの街の"都市迷彩アーバンライフ"である~それへ包まれひきしぼれた爪先があぶみのよぅな音で足あと踏むのを、
けものみち辿たどるかのよぅに付いていく。

まるで非常階段ひじょうかいだんのそれは逃走経路とうそうけいろの逆流
もしくはおわりへはじまる戦場続く道の
そぅなんだ
そぅだ
「どこへいくんですか?」
それはいぶかしさよりもみち見無みえなみちくよぅな疑問だった。
仕草しぐさすきもなく足をとめ、
やなぎのよぅにかるく揺れ立ち止まる、
男はご丁寧に目合わせ振り向きながらいぅ。
「事務所だ」
 一拍。
 チュン、 こんな街中にもけなげに雀が鳴ぃている。 すごぃなぁ それにしても
ジ・ムショ~か―ぁ
「……ぅゃ…やっぱいぃです自分………」
「こらこらこらどこ行く」
せまぃ段差上にてきびすをかぇし、た-とたんあるがままもままならぬままのこちらの頭部それを男がしっか・つかむ。 そのおもわぬ指の力にうしあごをもたげのけぞられながら涙がにじんだのはそんなへんてこに無理な姿勢のせぃか、 泣ぃてもたよれるものさぇもここはことのほかなく、 そぅしてそのままきく
「だってあなた、 さ、〰その なにやってる人なんですかぁ…」

なまじ男はぽかんと姿勢もくずさずこちらつったっている。
幾拍。 遠ぉくでカラスが鳴ぃている、
そぅしてにかっと、 っと、 小首を傾げながら
「いぅたじゃろ、…探偵たんていじゃ。」
 それにつられてピィン、と男の巻ぃているアクセのメタル音。
そこに浮かべた表情が、  わずかな困惑こまりげ羞恥はずかしげがほのか-そして寂寥さびしげかゎされて―
 どこかでキジバトがぇずっている。
 みんながんばってきてるなぁ

もはや素気そっけも…わからぬよぅな-未必みひつ表情モーションに少しの秘密がなぃ混ぜだったのを。 芝居めかした仕草でまるでごましている―
 そんなよぅなはがゆぃ歯の浮く深層的心情エモーションが胸へ立ちのぼり起こる。
それは、これはざゎめきかなんなのか
そんなふぅにまた感情が目がまゎりそぅになるのを―はげますよぅにみつめぁった男はゆぃおぇたさきほそめた
瞳をキラッ、と つぎの瞬間からはもぅめまぐるしく、まるで ダンスでもリードするごとく-こっちの頭をほぃとまゎして―この身体のきびす先までごと~くるりとまたおど上向うゎむけた。 ふしぎとただみるもにもかろゃか指一本で力を込めてこれがこなされることなのである。
意識の釁隙はざまをすられたよぅに
とられたあっけがたりなぃ。
「ほぃっ。 いくぞ」
またおぉげさな鼻息一つフンッと鳴らし、振り返ぇりごしニカつぃて、小足こあしさばきのとりこなしもなをのこと華麗かれいながら、
錆びてきしんだ螺旋のよぅに劈開ジグザグのとぐろを巻ぃた段上だんじょぅを、
心なし天駆あま かける勢ぃはるばるしくなっていた足取りはいかにもなステップ、
まるでご手製の秘密基地ヒミツキチへでもこれより案内するよぅな、
-読まなきゃらなぃ筈の空気の情報量の文字列すらをくしゃくしゃ踏みり出してるよぅな、
いたずらめぃた悪ガキのそれ、
それ、なんだ、
ょな―…
ファンタジーすらコンプラ仕込みの現代っ子にホログラムしじゃなぃ大冒険は体感たいかんコントローラ以上いじょうよりもが重過ぎる―よぅするにちえる命は半氣はんキもなぃ。
だっていぅ
 んだっていぅのに
「いまちょっとかんがぇた! ちょっと考んがぇてから…なんだっけ-、―って言った!!」
疑問符ぎもんふ已然いぜん感傷かんしょう感情かんじょうのぃゃぃゃぃゃな叫びの反響はんきょう
拘束こうそくされたぞくすらもどこへものがさせんがばかりの虚しぃ踊り場から表情無くのぞむ灰色のビル壁に木霊こだまもしなぃ。
「おちつけおちつけ! どのみちここにゃわしら二人しかおらん。 ょいくぞ」男はこんなむなしぃ威勢いせいもなだめるよぅ小声に心なしささやぃて、 それがよけぃ心近づけるのに
鉄階段をあがたびにその足早あしばやは心待てどもどんどんチャン、カチャン、と鳴る金属音きんぞくおんもともにひきつれずんずんいってしまぅので
「待ってくださぃよぅ〰… う゛ ぅ」
よけぃぐずこくなる気分になるも
「やっ―ぱりこの泣き虫野郎やろぅめ、男だろぅが泣くな」
だだつく心持ちをせかされながら
「今の時代はそんなことゆぃません。男も女も関係ないですよ」
「だから、よけぃ泣くなといぅんだ」
ゆれるはざまできょろきょろしつつ、
「だれもがなぃてる時代なら、よっぽどなぃてばかりじゃいかん。」
ふるぇる気持ちをよけぃ際立きわだてるあのしずかな駐車場アスファルトみたぃな
このビル蔭の風景そのものにすごまれもつれる巣からころげた雛鳥みたぃに-かの包帯もちらつく脹ら脛ふく はぎをひっひっふぅ追っ掛ける。 だけども本当に廃墟によろしぃ人気のなぃビルだ―くらがり、の概念がいねん、まさにその骨格こっかくのよぅな。 遠くできんきんと文明の人々の高周波サラウンドがおとなきおとのけはぃで鳴ぃている、 敵味方も解らぬ響音バイノーラルの、 それから隠れる防空壕バンカーでさぇあった。
からからから、天望台テラスへの道に似た
気のぉくなるよぅな行軍みたぃな雲居にまごぅ味気のなさを
ゎりのビルをさくと囲んだ本当の空を載せた天辺てっぺんへ頭も近付ぃて、逆に
がれる日常へはもたげる意識は顔をげ、 それが-じれったく
ちらちらめぐる踊り場の幕間-スリットごとから-交互にくらくらぞき
何段を登って数階すうがい、 逆に男の姿をつかみたくなって、 そぅつり橋の綱渡たりのふらふらの真ん中ほどみたくちりちりみぞおちがなってきたうち
また この建物のもす雰囲気の期待にれなぃ―ぃやそれ以上に、灰光はいびかりに反射されたふらちな空気感とビル風の吹葺ふぶく音すらそのくぅに抜ける竜骨りゅうこつ―もしくは地へとかさつくせみはら。に響鳴ひびきなくよぅな廊下の部屋へつづくドアの前に来た。

よみとれるモノは夜道ヨミチよりも黄泉よみのよぅ。
男はカギを取り出して…―しかし、 その手ぶらの服装だけにどんだけ色んな道具を仕込しこんでるのか。「ん゛ッ」 曲げたひざをドアへ当てながら体重をかけツッ込んだ鍵穴かぎあなをしばらくこゎれそぅなほどいぢる…また、そんな無器用さに不安が臨界りんかいする直前、 ボンゥ! と街の空気へかすか響かせて内開うちびらきに空ぃた部屋へひっぱりこまれるよぅに転がりこんでいた―
と…つぎの瞬間には扉向こぅよりしがみつくよぅひょっこり顔を出して目を丸めてぃた
ぃじょうぶか!」―
「あなたですよ…」
もぅすっかり逆に心配になって彼へ、自分が寄添よりそぅつもりのよぅに室内に吸ぃこまれていった。


油断は眼力の敵である。 そんな盲目まだくらみ、
それでまたちょっと後悔した。
扉の後ろに―その部屋側からみぇるはずのものにとっては正面前向きにゎった真裏
びっしりとそこにはおぉよそさきほどびくつき通ってすらきたこの
現代のすきまへをへにすらに見馴れなぃかみがみカミ、古めかしぃ紙へ紋様のカかれた-これは-御札やら、それだけでなくその他や―手書のものでもなんだかすらある…ともかくも心霊的なおののきに価する"怪異カイイ"が張り付ぃてまるですきまないよぅかにかと肺にむせるほどまくしたてていたのである。
『ダゥン』 !
めんクラったその情報量が目の前まで迫ってきくりきながら暗転したことに驚く。 ぢこまった拍動をかがってじて閉まってしまった扉が情況と精神を拘束する。
男が息荒げて真隣ま どなりにいる。
だがしかしその影はすぐさま足許へとくずれしぉびれてしまぃ、
蚊もびるよぅな…吐息といきたて-
「ふぅ―〰…」
そのあと、またすっかり腑抜ふぬけてしまった表情を無防備むぼうび見降みおろすこちらへこんどはぉがせて、瀧から降り立つよぅ-その扉へずるずると頭をずけてゎり込んだ。 掴んだまま床に押し付けられた上衣が、あゎぃ光輪の瞼を垂れながらキュゥ〰と可愛ぃげに鳴ぃた
互ぃ 口半開くちはんびらき な 男の面とはこちらの戦慄する場面の判度はんどはんして安堵あんどであった。

男は軽く息があがっていて、先程までははたして本当に正常な心があるか妖しくなるほど冷徹にも見ぇたのに。
「無事に…つぃてよかった。 の」
もぅゆるく眼をつむりながら地蔵いのるよぅに男はいった。

人間の憐憫れんびんぉるやさしくつかれきった顔には、ほのかにそれでもそれとわかる無垢な希望の笑みをかぐゎせていた。 男の髪のそのものつづきの組織かのよぅにところどころまくれながら絡む数々の意図いも読めぬ呪言は人の底の善性を攪拌かくはんするその瞬間 かおを神域の厳かさにかぇた。
しかぃで手結ぶせきりょうでつまびくささやき
平易の観念を拒絶するこの異常にすら、この男は護られているよぅなのであった。

「ぁの…」

「ねよぅ」
ぇっそんな急に、部屋にあがりこんだばかりで。
「ずっと運転しどぉしでぁ〰―えらぃこっちゃ」
肩へと我ながら掌伸ばしながらほどこすもみ手にずりおちたえりからは彼自身にまたあのお札だか湿布のきれはしがみぇる。
ぁあそぅか。 若ぃ自分は車の後背うしろぜのるままに不満や不毛ばかりこねて不屈になすがままずっと運転手をまかせてきたのだった。
「色々めんてなんすぁこちょぐりゃやったりこぅなんだりもせぇな…」 もぅすでにくぐもった男の口調はそこでもぅいいゃいいょとなでつけたくなるほどむにゃむにゃとした語調である

信じるよりもうたがぅにあたぃしなぃ、それよりなによりなにもわからなぃ。
己の無意識の無知を、えぐりかぇす権現ごんげのよぅな人である。
そんな人象ひとがらにさも似合ぅような―それは心象風景のよぅな かろうじて解釈かいしゃくできるにはっきりとしたアルカイックな近代建築な-筈なのにかんずる雰囲気のこの洞穴じみた
おもてなしといぅよりちょっと潜伏場所アジトにちかぃ部屋で、 みつめるこの間近のそんなすがたや面差おもざしがなんとかみぇるほかはほとんど日中の-日射しにも…みつからず真っくらだ。

そんな中、男はもぞりつき
先ほどきゅぅとつぶした上衣の塊のなかから、あの最初の―山-のなか見た、カンテラを取り出した。なんとそれはもぅ、火がともって光っていた。掌からまるで蛍を手放すよぅに現ゎれた、あの焚火の橙灯ちょうちん色の炎の色が、そこまで広くあまりはなさそぅなその部屋の奥へとけほぐれのびてたゅたくひろがる。

カンテラとその灯りをかの燦光きらめき眦睚まなじりできょろきょろみつめる布塊―上衣をそれがまるで灯を覗き込むよぅに共に右手に、左手は手ぶらにしながら、

端まではうつろまつろぅ 蔭にぼゃけてわからなぃ 部屋の奥中央に揃ぇよく並んでおかれたガラステーブルと、― ぃや、そのデザインとはやはりちぐはぐな -多分あつらこさぇは素人目にもすこしはよぃ、はずの一台のソファがある。

いっそ築古ちくこ廃屋はいおくであるといぅよりかは…なんだ廃材置はいざいおっぽぃ。
そんな雑然ざつぜんの思考にまた気をとられ、―眺めてぃる意識の隙に飛び込むよぅに

男は闔背とびら せにした床から一息で立ち上がった。
急に横目に這ぃいずったすがたになったその立ち居住まぃはまたもぅひとたび横顔にともしびの灯を受けてきりっとしている。
どぅやら洗面台やその奥の―おそらく浴場かも、水場的な生活スペースはあるらしぃ。 その一つは倉庫として埋まっていた。そんな様子
「真っ直ぐ前みて歩るけ」
男はそっち側へ隠すよぅに、わざゎざ横へ並んでほのか高くかたつつみエスコートした。 そこに御丁寧に背中に掌まで添ぇるので、このうらわかぃ一男子としてはなんだかむずかゆかった。
まるで迷子を慰める親でもあるまぃに。
薄着になってより触れるその体躯からだは改めてあまり太くはなぃとおもぇけずられながらもかろやかになめらかな流木のよぅにおもぇるが、同時に床柱の謂知いわれしらぬ木材のよぅに硬ぃ。

そんな小擽こそばゆさで帽子ぼうしひさしも欲しぃものだ。とうつむきながら、
また自分はほいほぃとつぃて来てしまった。

まだ男の影そのものに光を遮ぇられてはえ見ぇぬ廊下の曲がり角のつづきの幾部屋を十歩とほもなく通ぉり過ぎそこたどり着けば、

「ねるぞ」
と、おもむろに、 この男は空ぃた左の片手を腰まゎりにへと掴みまるで本当に生皮なまかわでもはがすよぅに己の下半身を丸々脱ぎだした。
ぇえっ~大胆だなぁ。 この人ったらまだ自分達…この部屋へ来たばっかりですよぉ?
なんだかとかいぅもぃめぐりきるまたまぇに、 より ンべもまヂ"     "っ!。 と海洋生物が打ち上げられでもしたよぅな えもゆわれぬよろしき音で
所々うすはがれたクッションフロアの床面がその湿った革ズボンに叩かれ拍子ひょうし打ったのをきき、
ぁあそうだ、この人まだズボンは湿ってた、と
美脚びきゃくだけリアルなゆるキャラのよぅになったその姿から
もはゃ珍獣ちんじゅうを見る目でおもぃだすのだった。

「-ん―」
男がひとつの灯り―とその手にぎょろぎょろもつ衣を、前にかまぇた―ぃや、それがおぉでおそらく指差した。
ただ部屋の主達をかぇんとこの紛乱ふんらん不遇ふぐうのなかけなげにじんとかまぇて鎮座ちんざするソファだ。
あれをつかぅんだ。な…、といぅことだろぅ。 といぅかこの室内で自分に使用法が理解およぶものなどこの客椅子きゃくいすとテーブルほどしかなぃ。
こちらがそれへ任っ意わかて納っ得したよぅにおもぅと、

右肩の男は、 ゆらぃで ひとかかえのガラステーブルへ
上衣を―きしませながらかるがぁるとまずほぉりなげた。 それは天板にほの一手間ひとてまだけの額縁がくぶちよろしぃ隙間のこして
つゃりてんく燕の様ぅな輝蹟きせきき、もののきれぃにクジャクチョウの羽のよぅに広がった。
みごとなまたそれに見ってしまったため、
その間隙へその直後 、
 キィィイン―と、 天板てんばん硝子ガラスを打った燈火カンテラの底がわんゎんと渦巻ぃてさゎぐ~輝線きせんが示してぃた上下感のヴァランス揺れながら空気をくのに気付くほんの前、刹那 弾指 六徳
 ここにきてから恒常こうじょぅがつくりだす未来予測図みらいよそくずがつくる言語化による状況じょぅきょうめくるめくよぅよめず
と、 もぅそこへいきつぃた瞬間 ―巻き付ぃたあのかのの鎖達の光も揺れて-ぢゃらりん―…
と瞬時に消ぇた身は、まるで
いくども熟達じゅくたつ遊芸ゆうげいのなか訓練されたよぅなまぁ見事なコケよぅのしかたっぷりでうまぃこと地面へ転がっていれば ほぅ もぅ―そこへ息を合ゎせてかすみ目に染みるよぅなホコリが舞った。 …

海藻のよぅに転がる脱衣だついの隣に、その頭海綿カイメンみたく漂白物あくたが増ぇた。
ま―たみみっこぃ独演喜劇スラップスティックやってる。

そぅしたらもぅ、足許の床へと目をじて、まるで息でも吐ぃてないよぅに。 なまこのよぅにまどろんでぃる、床で。 ―ぅん、 たしかに寝る
とは言ったが、マジ早ッ。
このしゎざ芸当の無駄のさは逆にその道の師範代より野生動物かな ― ぃやまるで クッションフロアの幾何学的な模様もよぅの花に囲まれるよぅ。 この
むしろなにも自然界の脅威を心配しなくていぃ深ぃ眠りは人間の特権とっけんなんだっけ、どぅだっけ、そぅでもなぃっけ。 糸の切れた人形よりは これは ぅっかりの布団から掘り出されてしまった山鼠やまねのよぅだった。

ため息をつぃた。  こんどこそ、本当におちつぃて。
まことのさなかで命をく姿き果てなき存在へ、 よりじしんのちっぽけをさがすこずるさをおのれへみて―ほっとけぬいらだちのよぅなうずきを感じながら。

なんでここにいるんだ、その目的しるし-しめし-しらべを。
 いまにのばすてのさきを いまはこてさきでも ここへたてる余弦コサインをなにか         あらしめなければ


肌着がよれて腰骨すらちらつぃた無防備な背中へ肌掛はだかけでもかけよぅと思ったが、部屋のすみ地形ポピュリズムをつくる―あれはどぅやら無数ムスウの…説明つかぬ物のモノものしさでできたる-小山には、 さゎった所で自分でどぅにかなるよぅななにがあるかわかったもんじゃなぃ。
またなんもできなぃばかりかよけぃなことしちゃってもな。
ふれるにもはばかられ それで仕方しかたなく、

"おとなしくおりこぅに" ソファへ野良猫のよぅにしなだれて、もぅちぢこまるのも億劫おっくうにクッションへしずむへ身をまかせた。

その車のあのシートとも違ぅ生地肌がだけども弾むのは軟ゎらかくしんゎりとしみわりぁぃと心地よくって、でも、
もぅあれだけすっかり一眠りも幾度いくどもとったものだから、いまはこぅしていたずらに頭が覚めることにも そして たぃした疲労ひろうもなぃ。

ばかに生温かぃ灯が照らすことばかりが息苦しくなってきて、処遇いばしょも無さげに目を泳がせれば、

ともったままのカンテラがガラス越しに目の前の人を照らして、その視界端しかいはしへさまよぅよぅにずっとおく-ここの―背景のドアでかたりかたりかける字面と図面達が、みんな冗談みたぃにわらっている。


まるで朽ちたよぅな色で腐葉土みたぃにつもった荷物達は、傍で寄り添ぅようにまにまに見守っていた


そのまゎりでは、すべてをなつかしさににたはぢめ・・・の混沌になる祝祭がつつんで。
まるでそんな"あ り か"の気配を、かぐゎしぃよぅにかぎつけたくなって、-吹きまりあって、それで息もし易くなってゅく。糜粥ちちがゆのよぅなぬるぃ心もおぼろなまんま
ひからびた原初の魚の化石のいしころに果てた輪廓をおうよぅに、そのやゎらかさをいとしむよぅに
もぅとっくにありぇぬはずだったしそう   ってゆく。


だからひまつぶしにみてぃよぅ、このあきなぃ人を。
まるで暖を求めてりあぅみたぃに。
そぅ無邪気にめつつうちへ、るまったくなる座面ざめんを感じながらおもった。



これがよゎさでも、ぬるさでも、―しくは、あまぇでも。

それはたぶん--の-とめる原初の味 だから。 の た め の*

であるはずだから



ロマンだとか、イノ セントだとかそぅゆぅ。めにしみるよぅなピュァが


歯車が光陰の明暗るくる一面の白ぃ銀幕が。 その実ちっぽけな殼繰仕立からくりての分子シクミの小箱が
やぶからぼぅな韻文律エピソードが。
ただ自分達なら それを求める
もとめるいしのひとつがどこまでもいつまでもあるのなら



かけられたのろいさぇせかいのきせきのそのはてさきにきっととける

すべてはそのためにそうなんだとゆってくれ


— さん



なんだっけ この 人。

ぁあそぅか 探偵たんてい か。

探偵…ならしかたなぃな、そぅ思ゎせる答ぇがあるんだった、安寧あんねい形式けいしきへと必死にひた向きな世間を小ばかにするよぅな生真面目きまじめさをもった、福音ふくいん禍殃かおうでケレンで、なしぃほどゎついた非日常な響きがよく似合ぅ。


そぅだな似合ぃますよ。 ずっと定刻通りサラリーまかせのおテントさまのくさびゆぅことぉりにしかすすまなぃじれったぃ時代から

 それがただしぃってみんなやっきなのに

それなのにこんなひもなぃまちで

まるでそのひにかんかんまかせで

そのみじゆうのおもみだけせぉって

まだすこしちぐはぐでぶかっこぅで

いつまでもだぶつぃてせのびしている、それがあなたならいぃんじゃなぃか。


そこにいる道を自分は。


起こしたくって、できなくって

ふさぎこんだ頭へ甘さだけみたし て

 ねむりこけてゆくのか、このままで?

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「なんていぅんですか、名前。」

それでもきっと 呼び掛けよぅとして、 無くして出なかったものを、意識のからがらうかがってさぐりだす方法を。


_       きっとせかいにひとごとなんてなぃのだから



「そぅだな…」

寝返ぇりうって天井をみげた男は、頭に両掌りょうてを潜り込ませてその左右のあしを組み絡ませながらゆった

「これからいま考ぇる」

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