殺人少女の告白【#変わる時】 #シロクマ文芸部
変わる時は誰にでもおとずれる。
「私が祖母を殺しました」
xxx
祖母はやさしい人で怒った事もない。いつもニコニコして誰からも好かれいた。私が友達にいじめられるとやさしくしてくれる。
「おばあちゃん、みんながいじめるの」
「あら、泣いているの? 大丈夫よ」
祖母はブリキの缶から包まれたラムネを取り出すと食べさせてくれた。子供の頃は祖母になついていたが、彼女は老いると性格が変わる。
「私のお金を盗んだでしょ」
「盗んでませんよ、おかあさん」
母は介護ノイローゼになり体調を崩して実家へ帰った。
「お父さん、施設はだめなの?」
「空いてないんだよ、それにお金が……」
祖母は他人というよりも鬼のような老婆に感じる。私はつい祖母の前で泣きながら非難した。
「あばあちゃん、昔に戻ってよ」
「うるさいね、お前は昔から余計なことをして友達を怒らせた。性根が母親と同じで自分の事ばかり。他人がどう感じたかなんてわからないんだろ!」
気がついた。
祖母は変わってない、単に心の奥底にある真実を言わずに、やさしさで包み、私を慰めただけ。その場かぎりのやさしさは、人には何も与えない。本当は叱って欲しかった……
「そんな、ひどい」
「ひどい? あんたの母親が私の銀行から金を抜いているのは知ってる。あんたも同じだ、ちょいちょいお金をくすねてる」
「それは、小銭とかで……」
「関係ないね、ボケているから判らないと思ったのかい」
醜悪で底意地の悪い顔はもう人ではない。私は叫びながら彼女につかみかかる……
「化け物! 化け物!」
xxx
医者がメモの手を止めた。
「それで殴り殺したと……」
「だって化け物なんですよ、化け物を殺して悪いんですか!」
あふれる涙がひざに落ちる。なんで泣くのかな……優しかった祖母の本性を知ったから? それとも祖母ばかりを責める自分の本性が……化け物だから?
人はきっと変わらない。変わらないで誤魔化して生きている。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?