SS 梱包された劇 #爪毛の挑戦状
深夜になると劇が始まる。
男の前で少女が手を広げて頭をさげる。ゆるく緩慢な手足の運びは糸で操られているように、ぎこちない。
「もういい……」
男は手をふると少女を下がらせた。次の少女が踊りを始めるが男は誰も選ばない。
「おりませんか」
「舞台に出せる子はいないよ」
「またきてください」
場末の酒場で少女を踊らせて一流になりそうな女優を探しているが、そうそう見つからない。男はあきらめたように自分の部屋に戻ると、箱が届いていた。
「郵便か……」
送り主は、何十年も前に知り合った酒場の男からだ。
『お約束のモノです』
どんな約束か忘れている。部屋に引きずって重い正方形の木の箱を入れた。
(重すぎる……)
まるで……人が入っているような重さだ。釘抜きで天板を外すと、白い服を着た少女が中で座っている。
(人形?)
彼女はゆっくりと頭を上げて、ゆっくりと箱から出ると、ゆっくりと男の前で踊って見せる。
「お前は……」
記憶の中にある誰かに似ている、男は椅子に座ると彼女の踊りを堪能する。素晴らしいステップと躍動感、無音なのにリズムすら感じる。
(これなら、すぐにでも……スターだ!)
歓喜で満面の笑みを浮かべる男に向かって、ステップを踏みながら少女が近寄ると両刃のナイフでノドを刺しつらぬく。
ドアが開くと男達が入ってくる、港町の少女に女優になれると騙して子供を産ませて捨てた男は、両目を開いて床を凝視している。入ってきた男達は、彼を部屋から運び出す。
「復讐はすんだよ」
「梱包された劇は終わりね」
住人が死んだ部屋で、また少女はゆるやかに踊り始めた。