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SS 祈るとき 【#祈りの雨】#青ブラ文学部(760文字くらい)

 薄暗い森に逃げ込む。追っ手の村人は、しげみを棒でつつく。

(もう少しよ)
(あい、姉さん)

 雨が降らない、雨を降らせるためにはイケニエが必要だ。幼い妹が選ばれる。

「村から逃げましょう」
「でも村のためには……」
「迷信よ、去年はイケニエの娘が死んでも雨はふらなかった……」

 賢い姉は大人達の偽善を知っている。少しでも前の年と違うなら口減らしのために女を殺す。そうしないと村に人があふれてしまう。

 追っ手が消えて足音を忍ばせて逃げ出すと……若い男が姉に合図する。

「僕と逃げよう」
「ありがとう」
「いいんだよ」

 姉の婚約者は村長の息子だ。姉が選ばれなかったのは長男の嫁を殺す事になるから妹が選ばれた。

 心が温かくなり心配する事もなくなる。彼を信じて一緒に逃げていると……いつのまにか村に戻っていた。

「つかまえました」
「よくやった……妹をイケニエにしろ」

 体が冷えて動けない、裏切られた事よりも妹を助けようと……

「私は、いいから妹を助けて」
「それはできぬ、神はイケニエを二人望んだ」

 欺瞞ぎまんでしかない、長男は悲しそうにうつむくが何もしない。村のおきてを、守るために殺したいだけ。

「……雨が欲しいのね、私の祈りの雨を楽しみにして……」

 姉妹は柱にくくりつけられて燃やされた、その黒い煙が夜空に登っていくと雨が降り出す。

 だれもが喜んだ、無知な者は無知でイケニエのお陰で助かったと思う。賢い者は賢さで、策略でおきてを守れたと喜ぶ。

 雨は強く降る、鋭く降る、傷みを感じるような豪雨は、人の皮膚に刺さるように降り続き、人の皮膚を破る。

「……呪いの雨……」

 雨で、なにもかもが無くなった村には、穴だらけの家と穴だらけの村人が残った。

#青ブラ文学部
#祈りの雨
#怪談

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