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SS 交流ランプ 坊ちゃん賞習作用

 孤独感が強まると実験準備室に居座いすわる。何するわけでもないが、居心地いごこちが良い。大野ゆりかは、汚れた窓ガラスを見る。自分の顔が薄く映っていた。人付き合いが悪そうな、無表情な顔だ。

「帰りは閉めてけよ」
 私に鍵を渡すと、先生は教員室に戻る。先生は残業でレポート書いている、鍵は帰りに戻すつもりだ。

 準備室は古く、昭和くらいの器具が使いもしないの置かれている。名目上は実験クラブだが部員は私しかいない。

「……宿題でもしよう」
 家にも戻りたくない、そんな時は孤独を守れる居場所で、まるまるように勉強する、集中できる場所は貴重だ。

(実験準備室は出るんだって)
(よく平気ね)

 クラスメイトからは揶揄やゆされるが、幽霊は居ない。UFOやネッシーと同じで、人の願望でしかない。居たら面白い程度と思っていた。

 実験準備室は、電気の勉強もできる、配電盤が置かれていた。ランプがついている。光ると赤いと思うが壊れている。

 壊れている筈だ。
 ふと見ると赤く光っていた。
 私は立ち上がり不思議そうに見ていると「君も見えるんだ」と声がした。心臓が飛び上がる。

「だれ……」
 かすれている自分の声の方が不気味だ。

 男の子が立っている。やたら古い制服なのか粗末な学生服は昔の国民服に似ていた。

「ランプが見える? 見えるなら成功だ」
「どこから来たの? 」
「君の時間とは異なる世界だ」

 タイムトラベル、タイムマシン、タイムスリップ。SFでよくある設定だ。時間を超えて私は彼と出会えた。

「自力で時間移動装置を作ろうとしたけど、映像だけだね」
「このランプは? 」
「単なるテストだよ、こちらの世界から君たちの機械を操作できる」

 ランプがついている間は交流できた。彼は私の世界の事を知りたがった、できる限り私は教える。彼の世界では物資も不足しているので、機械や食べ物が足りない。彼は必死に装置を作り上げた。

 翌日も、その翌日も一週間は、お話できた。彼は最後だと告げると悲しそうな顔で「君と握手できたらなぁ」と残念がっていた。私は少しだけ泣くと、手をふってさよならを言う。

 彼とはそれっきりだ……彼は戦争に行く事になると敬礼をして別れた。

 私はこの不思議な体験を誰にも話さない。だって日本は敗戦する運命だ、彼がどうなったかは判らない。

xxx

「実験はどうだった? 」
「成功だよ、過去へ戻る事が出来た」
「なら最終段階だね」
「ああ、大陸にバリオン爆弾を送り込もう」

 日本は大陸により植民地化され虐げられた。過去を改変するために未来から破滅兵器を送り込む、それが過去の平和を破壊したとしても、我々は自国民のために……

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