SS 窓を叩く音 【布団から】 #シロクマ文芸部
布団から猫の手が出る。横向きで寝てると指でさわれる。しばらくさわっていると、すっと引っ込める。
「猫を飼ってたの?」
「いないよ」
飼い猫ではなくて近所の猫だ。二階の窓を開けていると入ってくる。
「窓を開けて寝てるの?」
「開けないと叩くのよ」
夜に鍵をかけない、布団で寝てると静かに布団に入ってくる。
今日は親友と二人でお泊まりだ、二人で一杯しゃべって、とても楽しい。夜遅くなり窓の鍵をあけた。親友の不審げな雰囲気で、また鍵を閉めた。
二人で布団に入って、ひそひそといつまでも、お話していると、窓の音を忘れてしまった……
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その日から、猫は来なくなった。あの日に窓が閉まっているから嫌われたと思う。猫の小さな手が懐かしい。
いつしか歳を重ねて、いそがしいけど楽しかった日々が過ぎ去る。子供も独り立ちして、夫も亡くなり、親友とも縁遠い、また一人だ。
「窓を開けるかねぇ……」
二階に布団を敷いて、窓の鍵を開ける。夜に布団に入って眠りにつく。しばらくするとカラカラと窓が開く音がする。すっと猫が入ってくると布団にもぐりこむ。
「――おかえり」
布団から小さな手を出して待っている、静かにさわるとうれしそうだ。
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「おかあさんが居ないのよ」
娘が音信不通の母を探している。布団は人が入ってるかのように、ふくらんでいるが、中はからっぽ。娘が布団をはがすと、中に野良猫が二匹いた。娘を見て驚いたように、窓から逃げ出した。
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