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SS 戦場の愛【愛は犬】 #シロクマ文芸部

 愛は犬へ返したい。戦いは膠着こうちゃくするとひたすら消耗戦になる。使えるモノはなんでも使う。

「はぁ、新しい兵器ですか……」
「かわいいですね」

 新兵が犬の頭をなでる、老犬なのかおとなしい。古参兵が苦い顔をしている。

「軍曹、犬の餌どうするんですか? 」
「いらんだろ、これは兵器だ」
「犬でしょ」
「犬の兵器だ」

 軍曹は黙って説明書を渡すと指令所に戻る。古参兵と新兵は、犬の説明書を読むとうんざりした表情になる。

「犬に爆弾くくりつけて敵兵を吹っ飛ばせ? 」
「自爆兵器ですか、かわいそうに」

 新兵は犬をなでながら泣き出す。

「実家で犬を飼ってたんですよぉ、かわいそうですよぉ」
「いいから犬を塹壕につれてけ」

 爆弾犬は昔からあるが、成功したためしが無い。戦闘音で動かない、怖くて味方の所に戻ってくる。特に軍用車両の下にもぐりこんで自軍の車両を破壊する。

「馬鹿しかおらん」
「犬の餌どうしましょ? 」
「俺の馬肉缶詰を食わせとけ」

 しばらく飼っているとまた軍曹がくる。

「まだ使ってないのか? 」
「爆弾あるんですか? 」
「そんな余分なモノは無い! 」
「それより銃弾の補給ください」

 軍曹も命令されたから犬を持ってきただけでやる気もない。古参兵も犬を使う気は無かった。だいたい犬だけ突っ込ませてどうする気だ。

 むかむかしていると敵兵が突撃してくる。先頭は、犬だった。敵の爆弾犬だ。

「殺せ、早く撃て」
「だって犬がかわいそうで」

 新兵が泣きながら銃をかまえた時、老犬が塹壕から飛び出すと一直線に敵の爆弾犬に突撃する。そして敵の爆弾犬に近づくと彼は爆弾のベルトを食いちぎる。

 巨大な爆発音と土煙で戦場が見えない。新兵も古参兵も薄暗い闇の中で突撃してきた敵兵に機関銃の弾を浴びせた。

「お前、生きてたのか……」

 老犬は敵の犬と一緒に塹壕に戻ってきた。後ろ足が飛んでいた。古参兵が治療したが、不衛生な塹壕の中で数日で死んでしまう。あの敵側の犬が老犬をペロペロなめていた。

「この敵側の犬はメスですね」

 老犬の代わりに飼っていた彼女は子供を産んだ。あの老犬の子供だろうか? 戦争が終わると新兵が犬を連れて帰る。子犬を一匹もらうと古参兵が飼う事にする。

子犬を抱きながら
「お前は、もう戦わなくいいぞ」



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