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奴隷に戻る日 剣闘士マリウスシリーズ

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あらすじ
ティベリウス家の母親を殺されたヘカテーは、逃亡をしたアウローラとマリウスを捕らえる。母を殺された彼女は復讐を開始した。

アウローラは全裸で縛られると滑車を使い釣り上げられた。直立している木の杭に近づける。腕の太さくらいの木の先端は丸く削られていた。彼女を杭の真上に移動させると徐々に降ろす。

俺は彼女が楽に死ぬ方法を考えていた。足はもう動かない、助けにいけない。俺は絶望もしていないが希望も持たない。ただ静観する。ヘカテーが笑いだす。

「前がいいわね」
彼女は嫉妬からか前の方から串刺しにしろと命令をした。俺はその方が速く死ぬと安堵する。腹の中が破れて出血が激しい筈だ。突然、地下室が騒がしくなると重装備の兵士が到着する。槍と大剣を持つ完全武装の兵士で地下室が埋まる。

「処刑の停止命令だ」
兵隊が巻物を開いて見せる。ヘカテーが抗議をするが、元老院のフェデリコからの命令だと告げる。アウローラは助けられた。ティベリウス家の異変が伝えられたのか、通報者が居たのかもしれない。奴隷娘は服を着せされると連れ戻される。

「マリウス!」
彼女は俺の名前は呼ぶが奴隷の俺を助ける命令は無い。ヘカテーは恨むように俺を見るとむち打ちを命じた。ヤコポはムチを取り出すと背中が血だらけになるまで打たれた。

剣闘士として鍛錬された俺は耐久力がある。重症の俺は数日は放置された。熱が出て動けない。ぼんやりとした思考の中で葡萄農園の生活を回想する。父の手助けをしたあの頃。馬車に乗せられてローマに来た時に見た街道の奴隷。俺も街道に放置される。そう思うと安らぐ。

しばらくすると俺は牢から引き出される。足に木製の拘束具をつけられた、折れた足を固定されると立つ事は出来ない。最初の仕事は床磨きだ。すぐに処刑されると想像していたが、ヘカテーは俺を殺さずに利用しようとした。まだ愛していた?とは思わない。馴染んだ玩具を捨てられない子供と同じだ。

「なぜ裏切ったの?。でもいいわ。ティベリウス家を私は継いだ」
ヘカテーは母親を殺されても恨みを持たない。元から親子の愛情が薄い。母親の蓄えた金を散財する毎日を過ごす。俺は彼女の玩具として使用された。

「いいざまだな」
感情を持たない声でヤコポを俺を見る。剣闘士として華やかに活躍した俺が、今は床を磨く奴隷だ。こいつは単に奴隷仲間に何も感じていない。そこらの野良犬と同じに見えている。

「なんだ、金をもってるのか」
首紐をめざとくみつけると奪い取る。紐に結びつけられた小銭を入れた革袋の中身を見ながらヤコポは歩み去る。

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アレッサンドラは強欲でも有能だ。ヘカテーは無能で強欲。貴重な奴隷を大事に扱わない。美しい女性を買うと無惨に殺して楽しむ事もある。蓄財された財産は減り始めていた。

他の剣闘士への褒美もない。不満はかなり高まっている。俺は危険と感じていたが助言はしない。しても無駄だ。ヘカテーは酒に溺れて俺を抱いて過ごす事しか興味は無い。

異変は急に来る。俺が床磨きをしていると大勢の兵隊が屋敷を捜索するために押し入る。

「議員の殺害の件で取り調べる」

元老院のフェデリコは親族への復讐を忘れてない。ヘカテーが暴れて連れ出されてきた。庭で尋問を受けている。俺も縛られると萎えた足のまま庭に引きずられた。

「議員の殺害の実行者は、この男か?」
調査を任されている役人を俺を指さす。俺は黙ってうなずく。ヘカテーに聞いても知るわけがない。まだ子供の頃の話だ。

「俺がアレッサンドラから命令をされて殺した」
俺は事実を語る。これで俺は処刑はされる。楽に死ねたらいいかな位にしか感じていない。ヤコポも連れてこられると俺を指さす。

「こいつが持っていた、俺はキリスト教徒じゃない」
革袋に入れたキリスト教徒の象徴を入れていたのを忘れていた。ヤコポは何か判らないまま持っていた。俺は自分で処刑をした少女の顔を思い出そうとした。死ぬのを悲しまない少女の顔が浮かぶ。

続く

掃除

次回で最終回


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