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SS 「何名様ですか?」「0名です」 #ストーリの種

「何名様ですか?」
「0名です」

 来た客は小柄な三十代くらいのOLに見えた。聞き間違いかもしれないが1名とだけ書いて部屋の鍵を渡した。駅前のビジネスホテル風に見せているが実際はラブホテルだ。オフィスカジュアルな雰囲気の彼女は、仕事終わりに彼氏にでも会うのかと思う。

 実際はそんな事は無意識で思っているだけで、考えることもしない。しばらくすると先輩がやってきて客の事を聞かれる。

「女性に鍵を渡しましたよ?」
「何号室だ?」
「104号です……」

 先輩は苦い顔をしながら104号と109号室は存在しないと伝える。俺に調べさせた。確かにキーボックスには104号も109号も無い。

「でも鍵を渡して……」
 103号と105号室の鍵はぶらさがっている。俺は何号室の部屋を渡したんだ?

「またぼーっとしてたんだろ、しっかりしろ」
 背中をどやしつけられて俺はさっきの0名が気になった。

(ジリリリン、ジリリリン)
 部屋からの呼び出しだ、受話器を取るとさっきのOLの声がする。お湯が出ない、来てくれませんか?

「104号室ですか?」
「はい」

 俺は迷ったが実際にどこかの部屋に居る筈だ、俺は部屋番号を見ながら廊下を進む、102,103,104……

「あるじゃないか」

 部屋をノックすると彼女が顔を出す。俺は部屋に入れてもらうと中は、やたらに暗い、そして内装が古い。古いどころじゃない江戸時代のような畳とふすまがある。ふりむくと赤い襦袢(じゅばん)を来たOLが立っていた、OLじゃない遊女だ。

「客足が遠くてね、過去からも客を呼ぶことにしたんだ」

 彼女の説明は難しいが、未来では人類が減少している。人の精子だけ取得して多様性を維持したい。未来になるほど、環境汚染が激しく種が劣化していた。

「ホテルで働いている男を探していたんだよ」

 存在が希薄で、居なくなっても誰も困らない、そんな男が欲しい。俺に抱きつく彼女は生体ロボットだ、生身と区別つかない。俺は彼女のために働くことにした。存在しない部屋を【実空間上】に展開して客を泊まらせる。

 今は大正時代のホテルマンだ、客から女を要求されたらOLを部屋に呼ぶ、未来から到着した彼女は精子をたっぷり採取したら帰っていく。俺は気楽なバイトを楽しむ、たまに彼女に寝る事もできる。無気力で怠惰な俺にはぴったりの仕事だ。

「隠居したら、未来で暮らしたいな」
 未来には生体ロボットの女が一杯いる……

xxx

「現地調達の男はどうします?」
「この装置に接続して夢を見させるわ」
 巨大な人工子宮には無数の男達が接続されていた。装置の中で淫靡な夢を見せられている。生体ロボットは男達の幸福に満足そうだ。

#ストーリの種
#SF

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