SS 一回戦の男【桜回線/魅力的な台詞ではじまるお話】#毎週ショートショートnoteの応募用(500文字くらい)
「俺と一回やろうぜ!!」
あつかましい男が第一印象で、それは今も変わっていない。角刈りの男子は野球部員にも見えるがゲームオタクだ。ゲーセンの格闘物が大好きで対戦を挑んできた。
「べつにいいけど」
「負けねぇぞ」
軽快なBGMと同時に私の剣と盾を持った自機が空を駆ける。彼は、無骨な機体で耐久力も抜群ある。私は飛びながら地道に削り、彼を翻弄して最後にコアを破壊する。
「さすが強いな、また明日な」
「……」
彼も強いが周囲を見ない。力押しの典型で楽な相手。私がゲーセンに行くといつも待っている。一回戦だけやるとすぐに帰った。
ある日、ガストで彼を見つける。
「バイト?」
「ああ、ゲーム機を買うんだ!」
彼はそわそわしながら、小声でつぶやく。
「ゲーム買ったら自宅で対戦しないか……」
「いいわよ」
桜回線の高速インターネットが開通しはじめた90年代、ゲームでみんなと繋がる事ができる。でも二人で並んで戦うのも楽しい。彼に誘われて自宅に行くと、私を見て彼はびっくりしたような顔をする。ひらひらと薄桃色のスカートが風に吹かれる。鮮やかなピンクは彼をクラクラさせた。
「お……俺と一回やらないか」
「エッチ!」
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