見出し画像

怪談 王手【#ボケ学会のお題】

 カッっと光るとギザギザの稲妻が眼に焼き付く、遠くでドーンと音がした。

「遠いな」
「そうですな」

 法師と侍が縁側えんがわで将棋を指す。雨がふりはじめるともう暗い。雨戸を開けて将棋を続ける。

「蒸すな」
「蒸しますな……」

 法師は眼が見えないが将棋盤の大きさと、駒の手触りだけで勝負ができた。

「勝てばおぬしの娘をもらうぞ」
「勝てますかな」

 侍は法師の美しい娘が欲しかった、法師の将棋好きを知って策略を立てる。眼が見えないならば、駒をごまかせる。

 十数手もすると駒の配置は複雑だ、侍は駒を打つなり法師の駒を音を立てずに抜いた。

(これで勝てる)

 持ち駒が増えれば王手で詰められるが、いきなり庭が光ると轟音がした。庭の木に雷が落ちたのか松の木が真っ二つだ。

「王手、詰みです」
「なんだと……」

 詰み筋を見逃したのか、侍は負けた。

「雷でそれどころじゃない」
「それとこれとは別です、勝負の金をいただきましょう」

 侍はぐっと力をこめて刀で一閃すると法師を斬り殺してしまう……

xxx
 
「それで父は……」
「庭の木が雷ではじけた、その破片が運悪く当たったようだ」

 美しい娘も眼が見えない。死因を知る事ができなかった。侍は法師との勝負で勝ったと嘘をつく。

「わかりました、父がお約束をしたならば……」
「さぁ部屋にあがれ」

 座敷に通すと、なぜか将棋盤がある。しまったはずだが……娘が将棋盤の前に座る。

「だれだ、ここに置いたのは……」
「蒸しますね」
「雨だからな」
「将棋を指しましょう」

 娘はすっと一手を指す。侍も将棋好きだ、興味半分で勝負をはじめると……法師の差し手と同じ。

「私の勝ちです」
「まだわからぬ」
「いいえ詰んでおります」
「どこが詰んでいる」
「駒を抜いても……お前は……負ける」

 侍が顔をあげると法師が座っている。仰天した侍が刀をとって抜いた。法師が逃げるように庭にでると、雨がふりはじめる。

「迷ったかぁ」
「王手です」

 稲光が侍を撃つ、抜いた刀に雷が落ちると、体は左右に裂けた。

「あああ、眼が……眼が見える……」

 かすみボケていた眼が雷のせいで見えるようになる。娘は雨ふるなかでかたきを凝視しつづけた。

#ボケ学会
#雨
#怪談

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?