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SS 氷売り 【#梅雨明け】ボケ学会参加作品

 熊さんと八さんは、梅雨あけの夏日に長屋で寝てる。

「暑いな」
「暑い言うな暑い」
「お前が二回も言うから暑い」
「ええい、うっとおしい」

 熊さんが長屋の戸を開けると風は入らずに、むっとする熱気が部屋に流れ込む。八さんたまらずに

「氷食いてい」
「夏にあるか」
「いやこの前売ってた」
「どこで」
「長屋の前で天秤棒かついで売ってた」

 当時は長屋に物売りが来るのは普通でした。

「氷なんてどうすんだ」
「氷をカンナで削って煮て冷やしたアズキをいれて食うんだ」
「うまそうだな」
「氷屋が来ないかな」

 そこに物売りの声がする。

 こうり~こうり~

「ほら来た、氷屋、買うから中に入ってくれ」
「これは、ありがとうございます、大中小とあります」

 ならべたのは柳行李やなぎこうり、フタがついている小物入れだ。

「食えねえよ」
「旦那はこれを食べるんで?」

 手をふって追い返すとまた物売りの声がする。

 こ、うり~こ、うり~

「よし今度は氷屋だ、ちょっと入ってくれ」
「はい、大中小とあります」
「またかよ」
「小さい方が甘いですよ」

 まくわ瓜を見た熊さんと八さんは、冷えた瓜を買う事にした。

「ちょっと冷えたかな」
「でもまだ暑いな、氷屋はまだか」

 氷、氷、氷、氷

「やけに早口だな、氷屋はいってくれ」
「毎度、もう暑くてたまりません」

 見れば竹のカゴを背負った氷屋は、全身びしょ濡れだ。

「氷を買うから削ってくれ」
「毎度、あれ?」
「どうした」
「氷が溶けて無くなってました」
「暑いからな」

 熊さんと八さんが笑いながら、氷屋に余ったまくわ瓜を食わせると氷屋が嬉しそうに食べている。二人がなぐさめると氷屋が苦笑いしながら

「今度は溶かさないで売ってくれよ」
「へい、次は寒いときに売ります」

#梅雨明け
#ボケ学会
#笑いは世界を救う

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