見出し画像

SS 評価

「あなたたちは選ばれました、それぞれを評価してください」

 十数人の男女は初対面だ。椅子がサークルのように丸く並べてあるので、精神的な治療のグループディスカッションにも見える。

「いきなり呼び出されて評価と言われても……」
「そうよ、何を評価すればいいの」

 選考をしている人物は穏やかに答えた。

「あなたたちは、小説に応募をしました」
「ええそうよ、呼び出されたので受賞かと……」
「ですから、小説を応募した人が評価をします」

 みなが一瞬だけ絶句すると、応募者がそれぞれ苦情を言う。

「評価は、プロのあなたたちがするのでしょ?」
「俺たちが評価して、それが正しいのか?」

 選考している人物は、にやりと笑う。

「でも読者はプロじゃありませんよ」
「詭弁だ!」
「責任放棄よ!」

 徐々に感情がヒートアップする。選考している人物は、ぽつりとつぶやく。

「評価が高ければ、賞金は十億です……」

 みなが黙る。そして懐疑的だ。

「そんな賞金を出せるものか……」
「十億……、どうすればいいの?」

 選考をしている人物は、メガネをクィッっとなおす。

「他人の作品の悪い所を指摘するだけです」

 いきなり怒号と狂気じみた悲鳴があがる、他人の作品の欠点やペンネームを罵倒する。最後にはつかみ合いになると殴り出す。十分もしないで、血だらけで動けない男女が横たわる。最後に立っている男が片手を出した。

「俺が勝ったぞ……十億を……寄こせ」
「私は、評価してくださいとしか言ってませんが?」

 血だまりの中で、脱力して座り込んだ応募者は乾いた笑いを浮かべる。どこかでサイレンの音がした。

#ペンネーム議論
#怪談


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?