ボケという犬【#ボケ学会のお題】(600文字くらい)
ボケはボケと呼ばれた事を気にしていない。性格がおとなしいせいか、お手もおあずけもできない。何かを言われると尻尾をふって愛想した。
「もうあんたってなんにもできないのね」
娘はボケをかわいがったが雑種なので、ペット屋で買ったミニチュアダックスフンドが好きだ。
「あんた、ボケも散歩させてよ」
「外は雨じゃん」
娘はしぶったが小雨ふる夕方に一緒に散歩する、ミニチュアダックスフンドは、嬉しそうに先を急ぐが、ボケはいつもの通りのろのろと歩く。
(本当に変わった犬ね……)
ワンワンワン
ミニチュアダックスフンドが吠える。見ると大学生なのか、娘をナンパしていた。
「やめてください」
「いいじゃねえか」
「やめなさい!」
「ババアは黙ってろ」
どんと胸を突かれる。無音だった、ボケがとびかかると手首にかみついて振り回す。大学生は大声で泣き叫んだ。
「ボケ、もういいの、ボケ、やめて」
人を襲った犬がどうなるか判っている。ボケはくるりと振り向いて、近寄ってきた。心配そうに首をかしげる。
「ボケ、いきなさい、逃げて……」
涙で声がでない、首輪を外すと道路の先を指さす。すべてを理解したボケは全速力で走っていく。
警察に事情聴取を受けたが、罪には問われない。暴行をした大学生はきついお灸がまっていた。だがボケは戻ってこない。
小雨の日は散歩する。いつかひょっこり顔を見せると信じて同じ道を歩く。
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