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雑多な怪談の話

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2023年6月の記事一覧

SS 遠くの太鼓【音楽理論&顕微鏡&反面教師】三題話枠

「なにか聞こえるんですね? 」  先生はやや大きな声で診察を始めた、俺は耳鳴りがすると訴えて耳鼻咽喉科で調べたが異常はない。次に紹介された精神科の医者は 「幻聴の可能性もありますので、軽い薬を出します」  俺は薬を飲んで改善すると信じていた。 xxx 「プロデューサー、耳鳴りは大丈夫ですか? 」 「薬をもらったよ……」  アシスタントが足早に去る、俺は打ち合わせを思い出したが気分が乗らない。耳なりがとまらない、いや何か言葉が聞こえる気がする。あの日からだ、あの女と面接し

SS 彼は鼻をクンクンさせて言った。「この部屋、なんかアホ臭くない?」#ストーリーの種

 蒼木紅狐は鼻をクンクンさせて言った。「この部屋、なんかアホ臭くない?」 「なにそれ? 匂いなんてないわよ」  女子の部屋でいきなりクサイとかデリカシーが無さすぎる。私が傷つくことも考えられないの? 呆れて私は不機嫌になる。 「違う違う、アホ臭いんだ」 「……意味わからない」  彼は変な男だ。中学のクラスで孤立している男子と付き合う事になるのは偶然だった。 「遠崎月美と蒼木紅狐は、準備室で資料を集めてくれ」  先生がたまたま目についた私と、暇そうな蒼木君を指さすと仕事を

SS I 魚人(あいうぉんちゅ)#毎週ショートショートnoteの応募用

 銀色のうろこは作り物には見えない、レンガ作りの壁に立っている男の顔は金属のように光った。男は俺を指さすと質問する。 「I 魚人(あいうぉんちゅ)? 」 xxx  外人が多い港町は異質だ、この周辺で奇妙な事件が増えている。被害者の舌が無い連続殺人事件が起きた。 「お前が取材をしろ」  新米の記者としての初仕事は聞き込みだ。デスクから地図を渡されて向かう先は、東洋人が多い危険な地域だった。事件現場近くの酒場のバーティンダーに話を聞くと 「化け物の仕業だと騒いでるぜ」

SS 空飛ぶ先生 #爪毛の挑戦状

 今日は一時限目から噂の先生の授業だ。教科書を用意していると、私の前の席にサリーが座りくるりと振り向く。ハイスクールの教室は、いつものように騒がしい。 「――あの先生は空を飛ぶんだって」  サリーが振り向きながらひそひそと噂話をする。教壇の四十歳くらいの女性教師が小さな声で教科書を読んでいる、彼女は実際の年齢よりも老けて見えるのは長い髪に白髪が混じっているせいだ。先生が森の上をホウキで空を飛んでいるところを見た、魔女だとサリーがつぶやく。私は黙って聞いていると鋭い声が飛んで

SS 冥婚【公用語&男女平等&石】三題話枠

「公用語は北京語だけど、日本語や英語も通じるの」  妻は中国の生まれだ。里帰りで実家に戻りたいので、一緒に来てくれと頼まれた。有給を使い大陸へ旅行に行く。 「今でも男女平等じゃないのよ……」  妻は愚痴をこぼす、それは日本でも変わらない。平等と主張する世界には平等が無い。その皮肉に僕は苦笑いをする。 「干得好」  親戚は妻をもてなすが日本人の私には抵抗がまだある。北粛省の山深いこの地域は、古い風習が残っていて日本人は好まれない。覚悟をしていたので平気だ、それでも敵意は向け

SS カラスに慰められたことはあるかい。#ストーリーの種

「カラスに慰められたことはあるかい。」  老人はぼんやりと公園のベンチで座り中学生の私を見ている。遠縁の親戚が老人ホームに行くため、家族は老人の家の整理をしている。私は彼を見守る係だ。部屋は汚れているために大人達が部屋を掃除して、必要な書類や通帳を探している。  老人とは面識はあるが、どんな人だったかは忘れてしまった。両親も老人のことを知らない、孤独な老人だ。 「俺の部屋にカラスが居るんだよ」  私はどう返事をすれば良いのか判らない、鳥をペットにしていた様子は無いからだ。

SS 顔自動販売機 #毎週ショートショートnoteの応募用

 曇天のドライブインに古びた自販機がある。錆だらけの販売機は一つだけ。 「顔自動販売機? 」  何が売られているのか判らない、自販機の全面に銀色のシールが内側から貼られている。何が買えるのかわからないが、好奇心で小銭を出す。 「百円かぁ……」  子供用のお面だろうと思う、ウルトラマンや仮面ライダー、夜店にあるセルロイド製の安いお面。懐かしい、子供の頃を思い出す。 「あんた! 何しているの? 」  ギスギスとした声で俺を呼ぶ、不機嫌な嫁と退屈そうな子供たち。俺は自販機に小銭