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創作民話 関係

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#時代劇

SS つながり【錦鯉釣る雲】 #毎週ショートショートnoteの応募用(450文字くらい)

  錦鯉 釣る雲間に 老爺かな  池を見ている老いた侍。節句の鯉が水面にゆらゆらと泳いでいる。 (子がいれば……)  隣家の鯉は黒と赤で美しい、孫も産まれて安泰だ。 「――跡継ぎが死ななかったら」  自分の子は素行が悪かった、隣家の長男と女を取り合い決闘で死んだ。 (馬鹿な息子だ……本当に馬鹿だ)  老人は池に涙を落とす。 「あの……」  あわてて涙をぬぐうと隣家の嫁が孫を抱いて庭で立っている。 「どうしました」 「赤ん坊を見せたくて……」 「ああ……かわ

SS 夜の蜘蛛【命乞いする蜘蛛】 #毎週ショートショートnoteの応募用(500文字くらい)

 前足をスリスリ、蜘蛛がじっと男の顔を見ている。 「命乞いする蜘蛛か……」  前足をこするのは蜘蛛の習性だ。夜の蜘蛛は縁起が悪いから、よく殺された。男は叩きつぶす手を止める。 「どうぞ、お許しください」  庄屋の旦那が、手を前に出して命乞いする。 「顔を見られたから……」  背中から横腹を突き刺した。男は夜盗だ、夜の蜘蛛は泥棒に入られる縁起が悪い生き物。 (確かに、この家じゃ縁起が悪いな……)  畜生働きをする夜盗は、庄屋から金を盗んで逃げ出すと、どこかで呼子

SS 魯鈍な男 【#一陣の風のように】#青ブラ文学部

 平三は魯鈍な男だ。下働きとして口入れ屋から仕事をもらうと薪割りや掃除をする。 「平三、これやれ」 「平三、のろまか」  仲間内からは馬鹿にされている、頭がにぶくて人の言っていることを理解できない。軽くあつかわれるとイジメもある。飯のおかずをとられるなんてのは普通だ。そんな時でも、平三は黙っていた。  こんな具合なので、女中からも馬鹿にされていた。でも、お道だけは平三にやさしい。 「なんか弟みたいで」  器量は良いとは言えないが、落ち着いて愛想も良い。そんな彼女が店

SS 顔部 #爪毛の挑戦状

「物部殿」梶原が俺の前にあぐらで座る。「織様を頂きたい」いつもの催促だ。娘は嫌がっている「お前に嫁がせる気は無い」恨み顔で父親の俺を見ると出て行く 豪族同士の婚約で勢力が変わる。梶原は評判が悪い。やたらと婚姻をすると妻が何人も死んだ。領地は奴が奪う。娘が座敷に来ると「また来たのですか?」と嫌そうな顔をする「大丈夫だ、お前は嫁やらん」美しい娘は納得すると嬉しそうだ 「親方様大変です」深夜に近習が寝所に報告をする「檻様が…殺されました」忍び込んだ賊に殺されたと言う、俺は娘を見

SS 心眼 【穴&心の目&子猫】 三題噺チャレンジ

石垣銀治郎は刀をゆっくりと抜く。気合いを込めて刀を振る。城主が見守る中での御前試合は負けられない。父は心眼を会得しろと静かに語っていた。俺に出来るだろうか?「心の目を持って敵と勝負するのか」つぶやくと真剣を鞘に納めた。 妹の石垣優江が近づく。「兄上、お夕飯ですよ」妹は縁談も決まっている。相手は、浅沼左衛門で御前試合の相手だ。俺が勝てば家禄は上がる。しかし嫁ぎ先の浅沼の方が下がるかもしれない。ただ命のやりとりをするわけでもない。そこまで勝負に、こだわる必要があるのか迷っていた

SS 木のふりをするのも、もう限界だった。#ストーリーの種

 木のふりをするのも、もう限界だった。お師匠様から習った木遁の術は隠れるための術で木になりきる。動物の擬死と同じで死んだふりだ。 「めっけ、太郎丸が居たよ! 」  でっかい声で椿が叫ぶ。おかっぱ頭の眼のくりくりした女の子が俺を指さす。 「まだまだじゃな、太郎丸、椿も修行を続けなさい」  仙人風の老人が杖で体を支えながらよろよろと立っている。お師匠様も歳で弟子を取るのが難しい、里の幼い子供達を教える事しかできない。 「なんで判ったんだ? 」 「だって太郎丸は、立っているだ

SS 上意討ち【読む時間】 #シロクマ文芸部

 読む時間は不要だった。「上意」とだけ書かれている。左衛門はヒゲをむしりながら下人から受け取った書面を見ている。 「俺が討つのか」 「兄上」 「吉五郎、なんだ」  左衛門の弟が部屋に顔を出す。博打で金を無心にくる以外は顔を出さない。江戸時代の次男は捨て扶持で厄介者だ。長男が死なない限りは妻も持てない。 「婿入りが決まりました」 「柳沢の家か。よかったじゃないか」 「おつゆ殿は、美しく私は幸せです」  婿入りをすれば、その家で主人として扱われる。男として認められる。弟