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『夢みるように眠りたい』にみる、林監督デビューの伝説

私立探偵、魚塚甚(佐野史郎)のもとに、月島桜(深水藤子)と名のる老姿から、誘拐された娘・桔梗を探してほしいとの依頼がくる。
調査を進める魚塚は、依頼主・月島桜が主演してラスト・シーンを残して未完に終った無声映画「永遠の謎」がこの事件の鍵となっていることを知る。
事件はその映画のストーリーにそって展開し、魚塚は、娘を探しているのではなく「永遠の謎」のラスト・シーンを追っていることに気づくのだった―

コアなファンのいそうな、林海象監督デビュー作。稲垣足穂原作『彌勒 MIROKU』を何年も気にとめながら、やっと初めての林作品だった。

昭和初期を舞台に、映画検閲によって最終場面が撮影されずに消えたサイレント時代の時代劇「永遠の謎」の謎に迫るうち、映画の中をさまよう探偵・魚塚。

本編もモノクロ・サイレントの手法で撮影される、とても古風でいとおしい作品になっていた。
サイレントとはいっても、ご都合主義で、聞かせたい音はちゃんと聴こえる。なんちゃってなところがまた可笑しい。

探偵事務所の小道具から、手品師、駄菓子屋、楽隊、紙芝居屋などなど、懐古趣味族を喜ばす遊び心でいっぱい。

月島桜の屋敷を訪ねると、そこにはなぜか若き日の彼女がいる。
探偵も加わり、失われたラスト・シーンを撮り終えた往年の女優は”これで安心して眠れる”と、永遠の眠りにつくのだった。

タイトルオチという見事な収束。

どうしてだか、観てる間じゅう、黒沢清監督の出世作『ドレミファ娘の血は騒ぐ』を髣髴していた。まったくどうしてだろう、似ていないのに。

(86min/監督・製作・脚本・編集 林海象)

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