『たまごの祈り』⑯

「そうだ、伊田ちゃん今度の日曜日空いてる?」
 三人ぶんのお茶とスナック菓子を持ってキッチンから戻ると、寝そべったままの直也くんが顔だけこちらに向けて唐突に訊いてきた。俺こんど下北沢でやるライブに出るんだ、と直也くんが言うので、怪訝そうに柳を見ると、こいつお笑いやってるんだ、と説明してくれた。やなぎん俺のことなんも説明してなかったのかよー、伊田ちゃん俺に取られんのがイヤなの?と言った直也くんの顔を柳が蹴ったので、仲の良さに容赦がないなと思って、見ていてとても微笑ましかった。男友達と楽しそうにしている柳を見るのは新鮮だった。そういえば、柳の友人に会うのはこれが初めてだった。
「俺いまチケット持ってるし、やなぎんとデートしにおいでよ、な?」
 直也くんはいつの間にか取り出したチケットをひらひらと揺らして起き上がりながら、それで、伊田ちゃんはやなぎんのどこがいいの?ていうかいつどこで出会ったの?こいつ抜けてるとこあるから迷惑かけちゃってない?と立て続けに訊いてきたので、少し困った。曖昧に笑いながらピザまんに手を伸ばすと、柳が言った。
「伊田とはそんなんじゃないよ、前にも言っただろ」
 柳が不機嫌さを隠さずに言うので、私はそんなに嫌そうな顔しなくてもいいじゃないか、と思いながら乱暴にピザまんに噛みついた。ぬるいチーズがだらしなく伸びたあとぷつりと千切れた。直也くんはスナックを食べながら、やだぁやなぎんこわぁい、と女の子みたいな裏声で大げさに言って見せた。

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