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TVアニメ雑記『怪奇ゾーン グラビティフォールズ』

 夏休みというのは、万国共通の最高な時間だ。その時間を使って、自由研究に精を出していた人も、外を駆け回っていた人も、クーラーの下で映画鑑賞とTVゲームに興じていた人もいる(それは僕だ)。どれも有意義で楽しいが、不思議な森で異次元から来た一つ目三角形と戦うことには、絶対に敵わない。
 変人と怪奇現象であふれた架空の街「グラビティフォールズ」。そこへ夏休みで遊びに来たパインズ姉弟やその大叔父のスタンと共に、『グレムリン』的なモンスターから、『失われた世界』『地底世界旅行』的な異世界探検、果ては逆『トロン』な『ストリート・ファイター』オマージュまで、主に80~90年代のポップカルチャーネタ満載の可笑しくも恐ろしい事件を体験していく。子供たちへ同ジャンルの面白さを紹介し、大人たちに懐かしさと親しみを含んだ笑いを提供する。理解と愛情にあふれた、非常に射程の広い作品だ。
 今作は描写の緩急が何より素晴らしい。基本はギャグに徹しているが、時にシニカルさとグロテスクさを垣間見せ、本気で怖がらせようとしてくる。外の世界へ出ること・未知の事柄を学ぶことの楽しさを見せる一方、そこに潜む危険性も無視することがない。“教育”という名目で表現にフィルターをかけるよりよっぽど意味がある。
 ただ今作が多くの視聴者を惹きつけたのは、その中心に「子供時代の終わり」という主題があるからだ。大人になりたいが幼さの利点を楽しんでいる少年少女と、過去の失敗に憑りつかれ停滞してしまった大人たち。この二者が、世界を救うことで成長し、子供の心を持ったままでも大人になれる、と証明してくれる。続けて鑑賞していると、子供たち以上に大人が切ない感情を掻き立てられるはずだ。
 成長は捨てることでも、忘れることでもない。誰もが思い描く“特別な夏”を見せ、それぞれの夏が僕らを作ったのだと思い出させる、エキセントリックな一作。どんなになめてかかっても、最後には絶対にハマり、夏が恋しく、待ち遠しくなることだろう。
(文・谷山亮太)

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