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プロ野球選手がFA権を行使してチームに残留する理由

 朝と夜は肌寒い日が増え、2023年も日本シリーズの時期が近づいてきました。日本シリーズが終わり、シーズンオフに入ると、各球団が来シーズンへ向けて選手の補強を実施するのですが、やはり注目されるのはFA権を持っている選手の動向です。FA権を行使して他球団へ移籍する選手もいるのですが、一方でFA権を行使して所属球団に残留する選手もいます。FA権を行使しての移籍、FA権を行使せずに残留は分かりやすいですが、FA権を行使して残留する理由は何なのかについて今回は解説していきます

◯FA(フリーエージェント)権とは

 まずはプロ野球におけるFA権についてですが、端的に説明すると「一定期間、1軍登録された選手が自由に他球団へ移籍できる権利」です。FA権には国内の球団にのみ自由に移籍ができる国内FA権、MLBなど海外の球団にも自由に移籍できる海外FA権があります(海外FA権を持っている選手が日本国内の球団へ移籍することも可能です)。国内FA権は1軍登録された日数が145日以上のシーズンが8シーズン(2007年以降のドラフトで入団した大学生・社会人選手は7シーズン)、海外FA権は1軍登録された日数が145日以上のシーズンが9シーズンに達すると取得することができます(ケガなどで離脱した場合は1軍登録日数が加算されるなどの特例措置もあります)。

◯FA権を行使して、所属球団に残留する理由

 FA権を行使して残留、この言葉はシーズンオフによく目にする言葉ですが、「残留するならFA権を行使する必要がないのではないか?」と疑問に感じる人もいると思います。なぜFA権を行使して残留するケースがあるのか。

 その理由が他球団に移籍しても、所属球団に残留しても、FA権を行使すれば、次にFA権が発生するのが最短でも4年後になるからです(MLBなどの海外球団に移籍した場合はそのリーグのFAルールが適用されるため、この限りではありません)。つまり、FA権を行使しての残留は選手の年齢によっては所属球団で現役生活を全うするという意思表示の意味合いがあります。20代の選手であっても、「少なくとも4年は今の球団でプレーします」ということになるため、FA権を行使しての残留はその球団のファンにとっては嬉しい出来事です。

◯FA権を行使せずに残留する理由

 では次にFA権を行使ぜずに残留するケースについて解説します。FA権を行使せず所属球団に残留する理由は来シーズン終了後以降に移籍できる権利を残しておきたいからです。FA権は行使をしなければ、権利が消滅することはなく、翌年以降に持ち越すことができます。FA権を取得した選手が所属球団に残留する際、球団側が複数年契約を結び、3年目以降は移籍を可能にするオプションを付けるなどの報道を見ることがありますが、この場合はFA権を行使せずに球団と複数年契約を結び、球団が選手と個別に移籍に関する条件を決めているため、このようなケースが可能になります。

◯FA権を行使しての残留を認めない球団がある理由

 今でこそ、このようなケースは減りましたが、以前はFA権を行使して、所属球団に残留することを認めないケースが多くありました。FA権を行使して残留をしてもらえば、4年は所属してもらえるわけですから、球団にとってもメリットがありそうですが、なぜなのでしょうか。

 実はFA宣言をした選手は年俸とは別に契約金を受け取るルールがあります。移籍した場合は来シーズンの年俸の半額が上限、残留した場合の上限はないのですが、少なくとも来シーズンの年俸の半額以上は渡すと思います。球団がFA残留を認めないのは、この契約金を支払いたくないのが理由の1つです。2015年シーズンオフ、広島東洋カープに所属していた木村昇吾さんがFA宣言した際、なかなか所属先が決まらなかったのはカープが宣言残留を認めていなかったことが理由とされています。カープは2018年シーズンオフにFA権を行使した丸佳浩選手にはFA権を行使しての残留を認めると報道が出て、残留のオファーも出していたようですが、カープがFA権を行使しての残留を認めたのはこの時が初めてだったと思います。実際、2022年のシーズン終了時の段階でカープの選手がFA権を行使してカープに残留したケースは1度もありません。

 北海道日本ハムファイターズ、東北楽天ゴールデンイーグルス、千葉ロッテマリーンズもFA権を行使しての残留にはあまり寛容ではない様子で、逆に埼玉西武ライオンズ、横浜DeNAベイスターズ、阪神タイガースはFA権を行使しての残留に寛容な姿勢を見せているように思います。

◯FA権を行使しての残留を認めないことへの批判

 FA権を行使しての残留を認めない球団側の姿勢には批判的な意見があり、FA権を行使しての残留を認めないのは、FA権の本来の趣旨から外れているのではないかという意見があります。また、FA宣言をすること自体にマイナスのイメージを持つファンも多く、それが選手のFA宣言のしにくさを助長している面もあります(ライオンズに関してはこの限りではありません)。

 一方、MLBではFA権を取得した選手は自動的にFA権を行使するかたちになるため、日本のようにFA権を行使するかどうかを選手が迷ったり、そこが話題になることはありません。しかし、MLBのFA権にもデメリットがあり、自動的にFA権が行使されるということは球団側も選手と再契約をしないことが容易になるため、FA権を取得した選手の契約先がなかなか決まらないケースがあり、特にここ数年は主力級の選手でさえ、2月に入っても契約先が決まらないことが増えています。

 どのような形式がベストなのかは難しい部分もありますが、FA権は選手側の権利であるため、選手にとって良い制度になるよう、改善をしていってもらいたいと思います。


◯出典
・NPB.jp 日本野球機構 フリーエージェントについて 2023年10月20日
https://npb.jp/announcement/2019/fa_about.html


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