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きゅーきゅー鳴く「カベチョロ」

きゅー、きゅーきゅー……

えっ!?
今、鳴いた?

目が覚めたら夕方の5時だったときのような衝撃。50年以上生きてきて、カベチョロが鳴くことを知った瞬間だ。


あなたはカベチョロを知っているか

もしかすると、あなたはカベチョロを知らないかもしれない。そんなあなたのために、簡単に説明しておこう。

有鱗目ゆうりんもくトカゲ亜科ヤモリ科のグループに属しているトカゲの仲間、ニホンヤモリのことだ。簡単にいうと「ヤモリ」のことなのだが、幼少の頃より「カベチョロ」と教わってきた。

調べてみると、「カベチョロ」は山口県や九州での呼び方らしい。壁をチョロチョロと歩き回ることから名付けられたようだ。そのままなので、実にわかりやすい。

しかし、どうして近畿地方の我が家でカベチョロと呼んでいるのかはネス湖のネッシーと同等の謎である。もしかすると、隣人には通じないかもしれない。だから、会話上では「ヤモリ」と呼ぶことにしたい。

基本的に陰キャなので、隣人とヤモリについて議論することは99.9%以上の確率であり得ない。私の陰キャ度合いについては、下記の記事を読んでいただくとよくわかるだろう。

とにかく、壁をチョロチョロ動き回るカベチョロは、浴室の窓もチョロチョロと動き回っているのだ。私が入浴していると、アマガエルとカベチョロの運動会が繰り広げられている。夏の大三角以上に慣れ親しんだ光景といっても過言ではない。

しかし、この日は違った。

玄関から、こんばんは

ある日、買い物から帰宅すると玄関に小さなカベチョロを発見。全長5cm程度の赤ちゃんカベチョロだ。爬虫類や両生類には興味がないが、ほんの少しだけ可愛いと思ってしまった。キモカワイイが正解かもしれない。

調べてみるとヤモリは一部の人には可愛いと人気で、飼育している人もいるらしい。自由自在に動き回るので、飼育も大変に違いない。我が家で飼育したら、きっと翌日には行方不明となるだろう。それに、家族から猛反対されるに違いない。

飼育するつもりはないが、放置するわけにもいかない。このままでは夜な夜な枕元に現れる可能性もある。しかし、キモカワイイの「キモ」が強めなので、それは困る。何とかして外にお連れしなければ……

しかし、買い物帰りだったため、私にはアイスクリームを冷凍庫に入れる責務があった。

「しばし待たれよ!」

そう言い残し、後ろ髪を引かれる思いで玄関を後にした。

消えたカベチョロ

118円に値上がりしたアイスクリームをそそくさと冷凍庫に仕舞い込み、玄関へと急ぐ。しかし、私が馳せ参じたときには既にカベチョロの姿はどこにも見当たらない。

下駄箱の底を懐中電灯で照らして探したが、見つかったのはクモの巣と息子が遊ばなくなったサッカーボールだけだった。

このままではまずい!
枕元にキモカワイイがやってくる!

そう思い、必死の形相で約5分間も探し回ったが、結局見つからずに諦めた。妻は
「そのうちに干からびて発見されるわ」
と、のんきに笑う。できることなら、今すぐに干からびて欲しいと切に願った。

踊り場で踊るカベチョロ

翌朝、二階で妻の声が聞こえた。
「おった~!」
階段の踊り場だった。

カベチョロは二階へと続く踊り場で一晩中踊っていたようだ。私は発見できたことに胸をなでおろした。

ハエ叩きを左手に、付属のピンセットを右手に携えてカベチョロと対峙する。できることなら、お互いに無傷で戦いを終えたいと願い、ハエ叩きをそっと差し出した。

友よ、この上に乗りたまえ……

私の想いを悟ったかのように、カベチョロはハエ叩きの上に乗る。しかし、次の瞬間、カエルが跳ぶかのように、ハエ叩きの上から飛び降りたのだ。私は目を疑った。何という機動性だろうか。野球選手なら、盗塁王候補間違いなしだろう。

仕方がないので、最後の手段ピンセットを使うことにした。
「尻尾は駄目だ」
私は自分に言い聞かせ、お腹辺りをつまんでみた。

きゅー、きゅーきゅー……

全米が泣いた。
どうやら、ヤモリは危険を感じたり、相手を威嚇したりするときに鳴くらしい。私は泣いている赤ちゃんをあやすように……

二階の窓からポイッと捨てた。

「大きくなれよ。そして、二度と家の中に入ってくるなよ!」
と願いながら。

金運アップはお預けか

「ヤモリとイモリがわからない」母は言う。しかし、私は知っている。ヤモリは家守やもり(もしくは屋守やもり)なのだ。イモリは家を守ってくれない。

ヤモリは肉食で、シロアリやゴキブリなどを捕食し、家を守ってくれるらしい。我が家のシロアリ予防も安泰か。しかも、家を守るだけではなく、金運までも上昇させてくれる縁起の良い動物といわれている。

中でも、風水的に特に縁起が良いとされているのが「白ヤモリ」だとか。我が家に出没するカベチョロは真っ白だ。白色以外は見たことがないので、我が家は猛烈に守られているに違いない。

しかし、一向に金運が上昇する感じがしないのは、無下に扱っているからか。今回外に放り出したのは失敗だったのだろうか。

もしかすると、あのときカベチョロがキューキューと鳴いていたのは

良いのか?
ほんまに良いのか?
わしを外に出しても良いんやな?

と言いたかったのかもしれない。我が家の貧乏生活はまだまだ続きそうだ。

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