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月の欠片の夜


 谷に隠れた山の奥。飢えた獣の唸り声。
 深い森の木の枝に月の欠片が舞い降りる。
 薄明かりに照らされる松葉。細い葉先を揺らす山猫。月の欠片は風に乗って高い木々の梢を舞った。
 何処までも続く静寂の森。蛍火よりも淡い月。眠る世界を眺めながら欠片は自由を謳歌した。

 氷に隠れた海の底。崩れた雪の叫び声。
 白い氷の壁の先に月の欠片が舞い降りる。
 吹き荒れる風に凍える鳥。鋭い氷柱を照らす極光。月の欠片は風に乗って渦巻くオーロラの波に祈った。
 何処までも続く峻厳な氷。雪明かりよりも薄い月。眠る世界を眺めながら欠片は目を輝かせた。
 
 岩に隠れた砂の丘。乾いた風の掠れ声。
 柔い砂の海の波に月の欠片が舞い降りる。
 瞬く夜空に流れる粒子。硬い岩を呑み込む流砂。月の欠片は風に乗って砂漠に上る朝日を待った。
 何処までも続く荒涼の砂。陽炎よりも儚い月。眠る世界を眺めながら欠片は心を震わせた。

 雲に隠れた街の中。動かぬ夜の歌い声。
 暗い道の花の影に月の欠片が舞い降りる。
 消える街灯に群がる羽。重い壁にぶつかる光。月の欠片は風に乗って夜に浮かぶ星に帰った。
 何処までも続く寂寥の夢。水月よりも遠い月。眠る世界を眺めながら欠片は明日の夜を待つ。
 

 
 

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