2月21日「土脉潤起」

 久しぶりに映画館に行った。レディースデーでもauマンデーでもない正規料金で。なにをおいても観たいものがあった、というより、頭をエンタメに染めたかった。ほんとうは『パラサイト』を観たい、というかあれは観ておかないとまずそうだなあ、と思っているのだけれど、あんまり難しいことを考えずスカッとした気分になりたかったので、終わりかけている『ナイブズ・アウト』を。アメリカの移民問題とか、立場の強弱による関係性の変化など、いろいろテーマは盛り込まれているものの、基本的には探偵映画。これでもかというほど趣向をこらしたお屋敷で自死したミステリー作家の遺産をめぐるミステリーだ。作家の死における真相は冒頭で明かされてしまうものの、そのままズバリ真実のわけがなく、隠されたさらに奥の真相をゆるく推測しながらまんまと騙されるのが最高に楽しかった。

 つぎは『9人の翻訳家』が観たい、のだけどこいびとと『ミッドサマー』を観る約束をしている。ただ、感想を見るにつけずいぶんとエグそうで恋人と観てはならぬという感想もみて尻込みしている。祝祭、というテーマはめちゃくちゃ好みなれど、わたしは基本的にびっくり系もグロ系も痛い系もぜんぶ苦手なのだ。ホラーを観るにはまったくもって向いていない、が、これもやはり観なければならぬ気がするのでいくと思う。こわい。でも観たい。困っている。

 さっぱりした気分で夜道を歩いていると、ずいぶん暖かくなっていることに驚く。風がないせいかもしれないが、前開きのコートでもすこし重たいくらいだ。春先に雪解けてところどころ土が顔を見せはじめていることを「雪の暇」というらしい。七十二候は「土脉潤起(つちのしょううるおいおこる)」。脉は脈の異体字で、うねった大地や山肌に温もりのある水が浸透して潤う情景を示すとか。山間の温泉に行くのもいいなあ、二年前に行った四万温泉もよかったな、と思うと足どりは軽くいつのまにか駅についている。

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