2月28日「春服」

 目覚めると、トイレットペーパーとティッシュがなくなるという情報がTwitterをめぐっていて、まっさかーと思ってスーパーに行ったら本当にひとつ残らず消えていた。残っていたのはキッチンペーパーだけ。え、うそ。うち、あと4ロールしかないんですけど!?と軽く焦って実家に電話してみたら、名古屋のドラッグストアからも消え失せていたらしい。さらにその後、スーパーに行ったら肉の棚が空っぽになっていて、店員さんいわく午前中で買い占められていったという。みんな……シェルターにでも籠もるの………? いくら冷凍すればいいといっても肉なんて備蓄してどうするんだ。なにか、肉が食べられなくなる、みたいなデマでも流れたんだろうか。輸入が滞るから? それともこれから二週間、みんな一歩も外に出ない気なの? 意味がわからない。

 という話を、骨盤矯正のおにいさんとも、洋服屋のおねえさんとも、した。私のまわりでは誰ひとりとしてデマを信じているひとはいないのに、どこで流れてなにがパニックを起こしているんだろうかと不思議だ。目に見えないところでうごめく出どころのわからない噂。災害でいちばんこわいのはこれだなあ、と思う。誰も信じていないように見えるのに、いつのまにか世間まるごと動かされている。だから、デマを信じるひとを、ばかみたいだと笑うのは簡単だけど、わたしだっていつ噂のなかにとりこまれるかわからない、と思う。

 まいにち平日の午前中みたいです、とおねえさんは言った。感染して死ぬひとよりも、経済的に追い詰められて死ぬひとのほうが多そうなのが、ほんとうにつらい。とりあえず私にできるのは“いつもどおり”を心がけるくらいだから、不要不急の春服を2着買った。京都で泊まったホテルを見ていたら、来月の連休は前回以上に値段がさがり、目を疑うほど安くなっていたので、とりあえず予約してみた。でもこれは、経済活動である。有事の、支援活動。浪費などでは、断じてない。

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