2月16日「春寒」

 オーケストラライブに行った。圧倒的な技巧とセンスに酔いしれる、ぎゅうぎゅうに濃密な夜だった。調和と型破りを共存させる熱量が美しいなあ、と思った。帰り道は雨が激しくなって、さむいのに駅は遠くて散々だったけれど、ぜんぜん気分が落ちることはなくむしろ高揚がしずかに醒めていくのが心地よかった。ひさしぶりに、こいびとに八つ当たりめいた議論を吹っかけることもなかった。

 会場が横浜だったので中華街のちかくで待ち合わせ、ケーキを食べたり餃子を食べたりしていたのだけど、そのあいまにふと思い立って手相占いと相性占いをしてもらった。まったく興味はないけどお金を出さなくていいならつきあってもいい、というこいびとが手を差し出すと占い師は血流がわるいねといって、はやくも彼は(占い関係ないじゃん)という顔をする。二人そろってあれこれ、当たっていることも外れていることも含めてたくさんの言葉を浴びたあと、あなたたち二人は悪くないよ!大丈夫大丈夫!勢いとはずみでどんどん進め!と超ポジティブな結論でしめくくられた。相性がわるいって言われることはあるのか、とこいびとはやはりまるで信じていない様子だったけれど、わたしはなぜかここ最近の鬱屈が晴れてすっきりした心持ちになっていた。しんどくて、悲しくて、でも解決のしようは少なくとも今のところはなくて、やるせない気持ちになっているとき、まるで関係のない他者から好き放題いわれて断言される、というのは目先を変えるのにとてもいいのだろうと思う。悩みの渦に引き込まれるのはまじめに考えすぎているからだ。まごうことなき赤の他人の、なんの忖度もない無責任な言葉が、ひとの心を軽くすることはある。占いというのは、そういうエンタメなのだ。

 楽しかった?と聞くと、いや別に、と言ったあとに、でもあなたがにこにこしていた、と彼が言った。いろいろ見失いかけていたけれど、その言葉を忘れずにいたいな、とおもう。

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