2月17日「魚上氷」

 仕事仲間の発案で、雀荘に集まり、卓をかこんだ。初対面の人たちばかりで、挨拶も自己紹介もそこそこにじゃらじゃらと牌を鳴らしながら対局をはじめる。お金は賭けずに、ただひたすら真剣勝負する、超健全な頭脳ゲームとしての麻雀だ。おなじ業界に身を置いているひとたちがほとんど、と言っても、具体的に仕事の話をすることもなく、気づけば4時間があっというまに過ぎていた。あれほど神経を研ぎ澄ます機会は日常になく、知恵熱を出したようにふらふらしながら帰途につく。

 私には好きなものがたくさんある。アイドルに、プロレス。それから麻雀。どれもめちゃくちゃライトなファンで、つまみ食い程度にしか嗜んでいないけど、数年前ならハマるなんて想像もしなかった趣味ばかりだ。いい歳してペンライトふりまわすなんて恥ずかしいな、と思っていたし、痛いのも怖いのもきらいだから殴り合いなんてみたくないと思っていた。麻雀には煙草のイメージしかなかったし、どこでどうすれば遊べるのかもわからなかった。でも今は、それぞれの趣味を通じてあたらしい友達が増えて、もともとの友達とも話題が広がっている。自分が楽しくて、心地よいと思えることをどんどん増やしていくことが、幸せにつながるのだと知った。このあいだ後輩が「好きなものに浸ることを制限せず、たくさん身のまわりにおいていたときは自分に自信がもてていた」と言っていたけれど、「好き」という気持ちで自分を満たすこと以上に、心をすこやかにおいておける方法はないんだろうな、と思う。自分を縛れば、他人にもとやかく言いたくなる。幸せな人ほど、自分と違う価値観を素直にうけいれていく。

 わかっているのに、家族にあれこれ言われるたびに、そのことを忘れてしまうのはなぜだろう。できるだけ、私も彼女たちに文句を言わないように生きていきたい。優しく、楽しく、世界を自分の手でつくっていきたい。凍っていた水面を割ってとびはねる魚たち。春のおとずれとともに私もすこしずつ回復していく。

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