2月19日「花粉」

 あと一歩で仕事が終わる、そのあとはそこそこ余裕があって、好きなようにしたらいい。わかっているのに「仕事しなきゃ」と思うだけで吐きそうになり、布団から起きあがれずに、ぼんやりしてたら気づけば15時。〆切は伸ばしてもらってどうにか這い出して、予約していたマッサージに向かう。シャワーを浴びるのも着替えて外に出るのもいやでいやでたまらなかったけれど、キャンセル料をとられる店なのでのろのろと家を出た。どうやら「○○しなきゃ」と思うことが気持ちの負担になっているようなので「わーい仕事大好き☆」と暗示をかけて帰りにいつもの喫茶店に寄る。パソコンを開いて文字を打ちこんでいると乱れた気持ちがおさまってきたので、軽度の鬱かと一瞬疑いはしたものの、これはただの怠惰だなあ、と結論づけた。とりあえず好きなことをしようと、魚屋で刺身を二種、〆鯖と、売れ残りだから割り引かれたとはいえいちばん高い中トロを買って帰ったけれど、思ったほどおいしく感じられなかった。

 メンタルの不調は自分でたてなおすしかない。が、どうあがいてもこれ以上仕事はできない。ということで風呂に湯を張り、あたたまったあとすぐに布団にもぐりこんだ。ほんとうは一人でどうにかしたかったけれど、迷惑を承知でこいびとに電話する。例年どおり花粉症で、わたしに負けず劣らずなにかがやられているような、魂の抜けた声がした。どうしたの? あなたも花粉? といわれて、ちげーよもっと心配しろよと無体なことを思ったけれど、定期的に訪れるこうした陰鬱な気持ちは、もはや花粉のようなものかもしれない。ホルモンバランスのせいも多分にあるように思う。そうかあ、花粉症かあ、じゃあ抗ってもしょうがないな、と思いながらこいびとの声を聞いているうちに眠くなり、沈黙が訪れても気配があるだけで安心してそのまま眠りについてしまった。

 はやくいろんなことを、ちゃんと手放せるようになりたい。迷惑をかけないようにするためにも、年相応に大人になりたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?