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エッセイはじめました <粉薬>

 もう何か月もの間、咳が止まらない。突発的に出て、止まらなくなり、そのまま嘔吐したり過呼吸になったりする。いま巷では「咳喘息」なるものが流行っているらしい。私もその患者の一人かもしれないと思い、十二月のはじめに呼吸器内科へと行った。


 診断の結果は咳喘息ではなく、「気管支炎」だった。びっくり。吸引器をはじめ、山ほど薬を出されてしまった。それだけで恐ろしいのに、その薬のなかにとてつもなく恐ろしいものを見つけてしまった。それは……「粉薬」だ。


 この際恥を捨てて告白をすると、私は粉薬が飲めない。錠剤の薬しか飲めない。情けない十九歳だ。しかし、出されてしまったからには飲むしかない。一日三回、食前に!(なんでよりによって一日三回なんだよ……)


 その日家に帰って勇気を振り絞り、水を大量に入れた口に粉薬を流してみた。……あれ?飲める…?と思った次の瞬間には私は口からキラキラを出していた(お察しください)。粉薬の味がイカレテいたのだ。その粉薬は漢方で、なんとなくマズそうな予感はしていたが、想像以上だった。においなんかもうペットショップだった。その日は結局、口のなかにペットショップを開店してしまい、げほげほいいながら涙を流した。


 次の日の朝。今度は母の勧めで粉薬をオブラートに包んで飲んでみることにした。これならいける!と油断したのがいけなかったのか、朝からトイレの便器に顔を突っ込んでキラキラを出しまくった。涙も少し出た。また口のなかにペットショップ臭が広がった。


 悔しい。とても悔しい。こうなったら意地でも粉薬を飲んでやる!!!


ーーーこうして、私の粉薬修行がはじまった


 まずは粉薬一袋をオブラート四回に分けて飲むことにした。それが飲めるようになったら三回、そして二回、一回とオブラートを減らしていく修行をした。その結果、私は一週間足らずでオブラート一回で粉薬一袋を飲めるようになったのだ!!!!!!!!(ごくたまに失敗してペットショップを開店してしまうことは秘密)


ありがとうオブラート!
ありがとう粉薬!
ありがとう気管支炎!
人間としてのレベルがひとつ上がったような気がする冬の日だった。


 ついでに、粉薬をきちんと飲めるようになったが咳はいっこうに止まらない。

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