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「開かずの間」

ジャンル:ホラー・ミステリー
上演時間:約20分
人数:2人(男:女:不問 2:0:0)


【登場人物】
・八神 勇弥(やがみ ゆうや)
物の怪退治を生業としている。営業用と普段使い用で口調が少し違う。
一人称もころころ変わることがある。できれば働きたくない。

・上山 洋二(うえやま ようじ)
山奥の一軒家に住んでいる、普通のサラリーマン。離婚歴あり。
このところ毎晩の物音に悩まされている。



*間*



洋二N:開かずの間には、なにがいる
   なにもいないか、なにがある
   なにもないのか、何故開かない

   開かないならば、開けてはならぬ
   開けたのならば、食われかねん


*間*


勇弥:やれ、疲れた。
   何でこんな山奥まで来なきゃいけないの。
   蒸し暑いし、虫は多いし、無視すればよかった。



*山奥の民家に到着*



勇弥:ごめんくださーい。
   ご依頼を受けて参りました、八神ですー。
   ごめんくださーい!



*間*



勇弥:え、あれ?
   これ帰っていいやつ?



*間*



勇弥:ごめんくださーい!
   ……よし、帰ろ――うわお!!

洋二:お待ちしておりました、八神様。

勇弥:い、いたなら声かけてくださいよ。
   無言で背後に立たないでください。

洋二:失礼いたしました。
   お声かけしようとしたら、振り向かれましたので。
   さ、どうぞお上がりください。

勇弥:は、はぁ……。
   では、お邪魔いたします。



*客間に通される*



洋二:こちらへどうぞ。
   今、お茶を入れて参ります。

勇弥:あ、どうも。
   お構いなく。
   ……は~、立派な家。
   ここらの地主なんだろうけど、愛想のない家主だこと。
   暗いし、ぼそぼそ喋るし、目も虚ろ。
   もうあの人がホラーじゃん?

洋二:(食い気味で)お待たせいたしました。

勇弥:はい、どうもっ!

洋二:今日は暑いですので、冷たい麦茶です。

勇弥:あ、どうも……。
   あのぉ……さっきの独り言、聞いてました?

洋二:はい?

勇弥:あ、何でもないでーす。


*間*



勇弥:それで。
   ご依頼の内容について、今一度詳しくお聞きしたいのですが。

洋二:はい……。
   手紙にもお書きしましたが、先日よりうちの開かずの間から、
   何やら物音がするのです。
   この開かずの間と言うのは、私の先祖からこの家と共に、
   代々受け継がれているのですが……。
   物音がしたことは、今まで一度もないのです。
   開かずの間はこの家の中心にありまして、
   どこへ行くにも開かずの間の前を通らなければ、
   行けない間取りとなっております。
   八神様も、この部屋に来るまでにずっと目にしておられましたが、
   何かお気付きの点はありましたでしょうか。

勇弥:……えっとぉ、右手にずっと続いてた壁って、開かずの間だったんです?

洋二:……はい、開かずの間でございます。

勇弥:あ、へぇ~……。
   あの、入り口が見当たらなかったんですが、どこにありますか?

洋二:ありません。

勇弥:あ、へぇ~……?

洋二:開かずの間ですから。

勇弥:開かずの、間……ですか。
   では、この家の間取り図なんかはありますかね?

洋二:ございます。
   ただいま持って参りますので、少々お待ちくださいませ。

勇弥:はぁ~い……。
   ……入り口ないのに『間』ってのもすごいな。
   いや、確かに空間だけれども。
   部屋じゃないんかい。

洋二:(食い気味に)お待たせいたしました。

勇弥:待ってませんっ!

洋二:……そうでしたか。
   こちらが我が家の間取り図です。

勇弥:ほー。
   開かずの間を取り囲むようにして、部屋があるんですね。
   台所へ行くにも、お風呂へ行くにも。
   確かにどの部屋へ行くにも、開かずの間の前を通らなければ、
   どこへも行けませんね。
   しかして、あなたの言い分とは違って、入り口はあるようですが?

洋二:間取り図にはあるのですが、実際にはないのです。

勇弥:ほう、その心は?

洋二:百聞は一見に如かずです。
   ご案内いたします。

勇弥:はい、では。



*開かずの間の入り口付近へ*



勇弥:あー。
   確かに間取り図には入り口はありますが、
   見る限りでは完全な壁ですね。
   場所的には玄関と一直線ですが、
   開かずの間を挟んだ向こう側にあるんですね。

洋二:はい。
   私たちの後ろには台所と風呂場がありますが、
   この開かずの間の入り口の正面は廊下です。
   私もこの間取りは珍しいと思っていたのですが、
   最近塞がれたということはなく、
   この家が建てられてからずっとこの状態のようです。

勇弥:でしょうね。
   この部分だけ壁の色が新しいだなんてこともない。
   では、この家はいつ建ったのか、ご存じですか?

洋二:はい。
   明治4年と聞いております。

勇弥:……そうですか。

洋二:八神様?

勇弥:あ、いえいえ。
   ところで、物音がするとおっしゃってましたが、例えばどのような?

洋二:……。

勇弥:……あの?

洋二:鞠をつくような音と、笑い声。
   それから鈴の音とでんでん太鼓に似た音がするのです。

勇弥:座敷童子では?

洋二:そうだとしたら、あまりにも不可解です。
   今まで一度も見たことがありませんし、
   物音がし始めたのもつい最近なのです。

勇弥:うーん、座敷童子はいたずら好きですからね。
   物音も気まぐれということで――

洋二:それにしても!
   鞠やでんでん太鼓を供えたこともなければ、
   鈴なんて高いところにあるだけなのに!
   そもそもあまりにもタイミングが良すぎるのです……。

勇弥:と、言いますと?

洋二:物音がし始めたのは、父の3回忌を迎えた日からです。
   父は幼少の頃、よくここで遊んでいたらしいのです。

勇弥:ここ、と言うと、今我々が立っているこの場所、ですか?

洋二:はい……。
   父は少し変わっていて、私が物心ついた時からずっと、
   毎日欠かさずここに立って、独り言を言っていました。
   まるでこの中の誰かと会話をしているようで、
   私はずっと父が恐ろしかったのです……。

勇弥:この中の誰かと毎日会話、ですか……。
   その内容はどんなものでしたか?

洋二:そばに寄らないようにしていたので、
   詳しくは分かりませんが一番よく覚えているのは、
   『そこは窮屈だろう、いつか必ず出してやるから、
   もう少し待っていてくれ』です。

勇弥:出してやる、ですか。
   お父様は、ここを壊そうとしたことは、おありなんですか?

洋二:いえ、ただの一度も。

勇弥:はぁ……。

洋二:いずれにせよ、父が毎日話しかけていた頃までは、
   うんともすんとも言わなかったこの開かずの間から、
   今では毎晩物音がするんです。
   ちょうど夜中の2時から3時まで、1時間ずっと!
   私はもう耐えられません!
   近所の神社にお祓いをお願いしても、
   名のある霊媒師に除霊してもらっても、
   一向に止む気配がないんです!
   もう誰でもいい!
   一刻も早く黙らせてください!

勇弥:物騒ですね、『黙らせる』なんて。

洋二:あなたは、物の怪退治を生業としてるんでしょう?!

勇弥:まぁ、平たく言えばね。

洋二:だったら!

勇弥:そうは言われても、入り口もない、物音は夜中だけ。
   しかも今までそんなことはなかった、
   となればもはや手の打ちようが……。

洋二:そこを何とかお願いします!
   是非今夜泊まって物音を聞いてください、
   精一杯のおもてなしはいたしますから!

勇弥:いやでも、突然のことで皆さんの邪魔になりますから……。

洋二:……私は独り身ですが?

勇弥:あれぇ?

洋二:確かに結婚しておりましたが、妻は父の異常さに耐えられず、
   結婚して間もなく離婚いたしました。
   子供もおりません。
   父も母も祖父も祖母も、もう既に亡くなっております。
   私には兄妹もおりませんから、
   八神様がお泊りになっても何の問題もありませんよ。

勇弥:……ではー、お言葉に甘えてー。



*さっきの客間に戻ってくる*



洋二:こちらをお使いくださいませ。
   食事の用意をいたしますので、
   何かありましたら遠慮なくお声かけください。
   台所におります。

勇弥:あー、はい。
   あの、家の中を見て回っても?

洋二:はい、ご自由にどうぞ。
   では、失礼いたします。

勇弥:……。
   来るんじゃなかったぁ~。
   まーじかぁ……。
   入り口のない『開かずの間』に、毎晩する丑三つ時の物音。
   父親の異常行動に、うようよいるお手伝いさん。
   ……まーじかぁ。
   この間取り図もなぁ、信憑性に欠けるんだよなぁ。
   何この、まるで中庭ですーみたいな描き方。
   こんなの誰が見ても勘違いするでしょ。
   あー、来るんじゃなかったぁ~。


*間*


勇弥:さて、許可も得たことだし、見て回りますか。
   えーっと、最初は鬼門からっと。


*あちこち見て回る*



勇弥:めっちゃお手伝いさんとすれ違うじゃん。
   妙にくっきりしてんだけど、これ生きてないの? まじで?
   あ、あのー、
   ちょっとこの開かずの間について聞きたいんですけどー……。
   お手伝いさん、普通に振り返るし何なら睨まれたんだが?
   何これ、泣けばいい?
   ……とはいえ、鬼門に当たる部屋も何もなかったし、
   やっぱりこの入り口のない開かずの間の中だよねー。
   さてさて、本来入り口のはずの場所は……。
   ……あー、まさか、まさかね。
   この配置だとなんだか……

洋二:八神様。

勇弥:はいっ!

洋二:お食事の準備が出来ましたので、お部屋にお運びいたします。
   冷めてしまう前に、お部屋にお戻りくださいませ。

勇弥:あ、はーい。



*さっきの客室にて二人で食事*



洋二:それで、何か分かりましたでしょうか。

勇弥:うーん、その前にお聞きしたいんですが、この家は昔、
   寺社仏閣(じしゃぶっかく)に関係したことを
   生業しておられましたか?

洋二:いえ、そんな話は聞いたことがありません。

勇弥:そうですか……。

洋二:他に何かお聞きになりたいことはありますでしょうか。

勇弥:そうですね。
   この家に関する備忘録のようなものが、あれば拝見したのですが。
   なんというかこう……
   何年に誰が生まれたー的な日記みたいなものです。

洋二:はい、ございます。
   膳を下げましたら、すぐにお持ちいたします。

勇弥:ありがとうございます。
   ……ごちそうさまでした。

洋二:お粗末様でございました。
   では、今しばらくお待ちくださいませ。

勇弥:あ、はい。



*家主が古い書物を持ってくる*



洋二:八神様、お持ちいたしました。

勇弥:はい、どうも。

洋二:こちらでございます。

勇弥:ありがとうございます。
   では、こちらを拝見しながら少し考えますので、
   後は物音がする頃に。

洋二:承知いたしました。
   では、その頃にお迎えに上がります。

勇弥:分かりました。
   ……さて、今日は徹夜かな?



*やがて音がし始める*



洋二:八神様、八神様!

勇弥:はいはい、始まりましたね。

洋二:は、はい。

勇弥:では、入り口がある場所に行きましょう。


*開かずの間の入り口付近へ*


勇弥:今日は歌も聞こえますね。

洋二:申し訳ございません、言い忘れておりました。
   時々このように、歌も聞こえてくるのです。

勇弥:そうでしたか。
   今日は、鞠をつく音に歌う声。
   笑い声に、さっきはでんでん太鼓の音と鈴の音もしてましたね。
   おっしゃっていた現象全部だなんて、幸いです。

洋二:幸い、ですか?

勇弥:はい!
   全部の現象が一度に起こってくれると、
   面倒くさくなくて解決にはもってこいじゃないですか!

洋二:は、はぁ。

勇弥:さて。
   まずはこの家の間取りのことですが、
   何故このような間取りになっているのかは解決しました。

洋二:ほ、本当ですか!

勇弥:はい。
   結論から言えば、この家を建てるときにそうしたからです。

洋二:……はい?

勇弥:ですから、この開かずの間の中に決して誰も入らないように、
   この家を建てるときに封じられたんです。
   何故ならそれは、隠すためだから。

洋二:隠す、ですか?

勇弥:はい。
   この家は、この開かずの間の中のものを隠すために、
   建てられました。
   つまりは、開かずの間ありきで建てられた家です。

洋二:何故、そのような……?

勇弥:どうして分かったのか、どうしてそんなことをしたのか。
   この両方にお答えすると、まずどうして分かったのかについては、
   お借りした書物に書かれていました。
   そしてどうしてこんなことをしたのか、についてですが。
   そのお話をする前に、この物音を静めましょうね。

洋二:で、出来るんですか?!

勇弥:はい。
   原因が分かってしまえば、どうってことありません。
   ただし、少しの間亡くなったお父様のようなことをしますが、
   まぁ……耐えてください。

洋二:へぇ……?

勇弥:(咳払い) あー、ねぇ。
   さっきからうるさいんだけど。
   そこにいるのはちゃんと分ってるから、ちょっと静かにしな。

洋二:八神様……?

勇弥:いいよ、もう好きな時に出て行っても。
   もうそういう時代じゃないしさ、
   むしろもうどこにも信仰心なんてないかもしれないから、
   出て来ない方が快適だけどね。
   どこへでも好きなところに行けばいいから、
   自分の存在を主張しなくていいよ。
   君の友達はね、もう亡くなったよ。



*少しして音が止む*


洋二:……すごい!
   すごいです、八神様!
   まだ3時になってないのに、音が止みました!
   ただちょっと話しただけなのに、音が聞こえません!
   ありがとうございます、ありがとうございます!
   これで安心して――

勇弥:まだ。



*次の瞬間、中で暴れ回るような音がし始める*



洋二:こ、今度は何です?!
   まるで何かが暴れているような!

勇弥:暴れてるんだよ。
   今までいい子に言うことを聞いていたのに、
   急に自由だなんて言われたら、誰だって混乱するだろ。

洋二:し、しかし……
   このままでは壁に穴が開きそうなくらいの音がしておりますが……。

勇弥:開けばいいんじゃない?
   だって、出てってほしいんでしょ、この中のものに。

洋二:は、はい……。
   しかし、修理が……。

勇弥:我が儘だなぁ。
   うるさいから黙らせたいとかいう割には、
   いざ元凶が出て行こうとすれば、修理が大変だとか言い出して……。
   どうしたいのさ、あんた。

洋二:八神様、口調が……。

勇弥:営業用の対応なんて、誰だってすんだろ?
   あんたは家にいるのに、営業マン見たいな喋り方だけどさぁ。
   あんたの奥さん、そういうところも含めて嫌になったんじゃないの?

洋二:な、何を……。

勇弥:父親の奇行なんて、体(てい)のいい言い訳だろ。
   あんた、二面性あるみたいだし、奥さんはいい判断だったと思うよ。

洋二:……。

勇弥:ほら、ぼーっとしてると正面からぶつかるけど?

洋二:え……うわっ!


*大きな衝撃と共に壁に穴が開き、強い光が正面の廊下から奥へ抜けていく*


勇弥:……まっぶし。
   あ、ほら。
   開かずの間が開いた。

洋二:これは……。

勇弥:祠だな。
   ここに神様を隠してたんだ。
   さて、こっからは長くなるから、俺がいた部屋に戻ろうか。

洋二:は、はい……。



*客間に戻って、家主の震えが収まるのを待っている*



勇弥:震え、止まった?

洋二:はい、なんとか……。

勇弥:じゃあ、早速話すけどさ。
   まず、この家が建てられたのは明治4年だろ?
   明治の初めって言ったら、
   神仏分離政策(しんぶつぶんりせいさく)とかで
   いろいろあったんだよ。
   簡単に言うと、昔は神社も寺も今みたいに分かれてなかったんだ。
   神社の隣に寺があるのは普通だったし、
   なんだったら明確に神様―とか仏様ーとか分かれてなかった。
   けど、明治維新に合わせてきっちり分けようってなってな。
   そのおかげで何でか仏様よりも、
   神様の方が優れてるーってことになったんだ。
   それに反発した人たちが、
   神社を荒らすってことが頻発したらしくて、
   そういうことからあの祠を守るために、
   この家は建てられたってこと。
   ……ついて来れてる?

洋二:あ、はい……。

勇弥:この家の人たちは、祠の中の神様がよっぽど大事だったんだろう。
   もし調べられても、ただの壁にしか見えないし、
   間取り図を見たとしても、中庭にしか見えないんだからな。
   入り口のことを聞かれても、そうしたかったが諦めたとか、
   昔はそうだったとか言ってごまかせる。
   それに、そもそもこの家の間取りは、神社みたいなんだよ。
   本来あるはずの入り口に向かうように引かれた廊下は、参道。
   その両隣の台所とお風呂場なんて、
   まるで手水場(ちょうずば)みたいだろ?

洋二:確かに、言われてみれば……。

勇弥:そうしたんだってな。
   これもその本に書いてあったよ。
   あんた、自分の家なのに何にも興味ないんだな。

洋二:私はただ、父のことが恐ろしくて……。

勇弥:奇行だけじゃないんだろ?
   昔から礼儀に対して厳しかったはずだよ、この家は。
   神様を守ってる家なんだから、礼儀正しくしてないとな。
   作法だとかそういったことで、よく怒られてたんじゃないの?

洋二:はい、その通りです。
   普段は寡黙な父が、私が少しでも粗相をすると烈火のごとく怒り、
   それでいて毎日壁に向かって話しかける様が、
   私には本当に恐ろしくて……。
   家を出ることも考えましたが、
   我が家は代々長男が家を継ぐことになっていて、
   昔からずっとそう刷り込まれていたことで踏ん切りがつかず、
   今でもこのようにずっと……。

勇弥:あのさ、言い方は悪いけど、
   あんたもさっきの閉じ込められてた神様と一緒だよ?
   父親ももういないんだし、自由だろ?
   今時家督ったって、もうこの家には何もないじゃんか。
   何度も言うけど自由なんだよ、あんたも。

洋二:自由……。

勇弥:そ。
   何の縛りもなくなって、したいようにできるの。

洋二:そう言われましても……。

勇弥:あの神様みたいにさ、殻を破ったら?

洋二:殻、ですか。

勇弥:ま、ゆっくり考えな。
   毛嫌いしながらも、あんたは案外この家に染まってるみたいだから。

洋二:染まって?

勇弥:……もしかして、気付いてない?
   開かずの間から聞こえてきた歌と同じもの、
   あんた料理しながら歌ってたよ?
   えっと……開かずの間には、なにがいるーだっけ?
   開かずの間の中のものが、あんたに憑依してるのかと思って、
   怖かった。

洋二:き、気付きませんでした。

勇弥:ま、もういいけど。
   今回のことは、
   長年ずっと暗いところに籠って忘れ去られてたものが、
   自分の存在を主張してたことによる怪奇現象、ってことで。
   はい、解決。

洋二:……。

勇弥:何?
   何が不満なんだよ。

洋二:い、いえ……。
   父は、どうして壁に向かって……
   いえ、中にいる神様に話しかけていたんでしょうか。

勇弥:さぁね。
   本当に神様に話しかけてたかどうかも分からないし。
   見鬼の才でもあったんじゃない?

洋二:けん……?

勇弥:あー、霊感みたいなやつだよ。

洋二:そうですか……。

勇弥:じゃ、そういうことだから、俺はこれで帰るとするわ。

洋二:あ、お代のことですが……!

勇弥:いいよ、何でも。
   あんたが今回のことに見合うと思うものを、くれたらいいよ。
   俺は金銭なんていらないからね。
   この国が発行した、金属の塊や紙切れになんて興味もない。
   期限とかは設けてないけど、あんたの良心次第かな。
   じゃ、まいどあり。



*間*



勇弥:あー、疲れた。
   やっぱり徹夜になったわ。
   さて……彼はいつ、あそこを開けたんだろうね。
   もうどうでもいいか。
   さっさと帰って寝よ。



*間*


洋二N:開かずの間には、なにがいる
   なにもいないか、なにがある
   なにもないのか、何故開かない

   開かないならば、開けてはならぬ
   開けたのならば、食われかねん




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