アラーニェの虫籠(リファイン版)

専門学校の卒業制作か何かで作ったのか、そういった個人制作のアニメをYoutubeで何作品か観て回っていたことがある。
その大多数が短編ということもあって、アニメの個人制作は短編という勝手な偏見があった。
「アラーニェの虫籠」(以下「アラーニェ」)は1h超に及ぶ個人制作のアニメーションというのだから驚きだ。
勿論アニメという性質上、他の創作における個人制作に多い完全ワンマン体制というものではないのだが、そうだとしてもトンデモないマルチスキルに加え、途中で投げない折れない飽きない熱量の維持が試される。
クリエイターの端くれとして、敬意を表さずにはいられない。

作品としてはホラーに分類されると思う。
が、正直なところホラーとしても雰囲気作品だなといったところで、面白いか面白くないかで言えば面白くない。
元よりテイストは万人受けする感じではないのだが、オールジャンルを嗜んできた僕から見てもイマイチ何をテーマに何を描きたかったのかが分からず、カット毎に単体で見た時の不気味な雰囲気だけに思えた。
音響効果もこの手の作品にありがちなダイナミクス差が大きい感じで、配信に合わせて調整する等もされておらず、聞き取りにくいかつ急な音で不快なビックリに陥る。

物語以上に気になってしまう点が大きく2つある。
1つは作画のアンバランスさで、全体の線が少ない作画に対して異様に顔のパーツだけ描きこみがある。
おそらくテクスチャか何かで貼っているんじゃないかと思う。
線の少なさが気になる作品ではないし、描き込みの多いものもイラストとして見れば密な情報に魅力があると思うのだが、このアンバランスさは狙っているのか判りかねる不気味なビジュアルをしている。
もう1つはカメラのウィグルが多過ぎて、せっかくの画が汚く見えてしまうところだ。
ウィグルという手法自体は明確に意味があるし、それこそこういったホラーテイストでは効果的な場面も多いのだが、あまりに多用し過ぎて効果的な場面での効果が薄くなっている。
素人目にも不要なウィグルを用いているシーンが多く、三半規管が強くない人によっては画面酔いしてしまうのではなかろうか。
もっというとそのウィグルがAEのデフォルト設定か?というぐらい大きくかつ雑な動きで、シーンによってのブレ幅も差が殆ど無いように見える。
ピントレンズ等も組み合わせていればまだ見やすいものの、とても勿体ない。

どうしても見慣れているものと比較してしまい、荒い点にばかりフォーカスしてしまうのだが、個人制作としてのクオリティーは極上の部類である。
EDもハードロック調で、「ムネモシュネの娘たち」を思い出した(方向性は異なるが、雰囲気としては似ている)。
また、文化庁が助成金を出している(?)点にも触れておきたくて、こういったトガッたクリエイターの制作がちゃんと応援されていることはユーザー側としても有り難い。
こういう作品がドンドン出てきてくれることを期待したい。

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