汚い話を文学的に短く
-僕はそのとき、それしか見ることができなかった-
夜も更け、街には自分以外誰もいなくなってしまったかのような静けさが訪れていた。
お酒を飲んだ帰りのタクシーから降りた瞬間、僕の中から込み上げるものがあった。
それは僕の生きた証、つまりは僕の食べた鶏の皮、それも外はカリカリ、食べた瞬間に油が口の中に広がり、健康に良いものではないなと思いながらハイボールで流し込んだ、鶏の皮と、サクサクホクホクで食せば多幸感に包まれるつまみ、フライドポテト。そして大量のアルコール。
それらがまるでメロスのように止まることなく食道を登ってきた。
僕はゲロを吐いた。
まるで夏の朝の木漏れ日のような黄色、秋に役目を終えて散る寸前の銀杏の葉のような黄色、高校時代に恋をしていたあの子が使っていた筆箱の黄色。
優しい黄色の海の中には、姿を留めている鶏皮と、そこから皿に盛り付けても違和感を感じさせないようなフライドポテトが、楽しそうに泳いでいた。イエローマリンを生み出した僕はそのとき、それしか見ることができなかった。
胃のなかを綺麗にした僕は、幾分気分が良くなっていた。
どちらかといえばスッキリした気分だった。
あまりタイプではない女の子とのセックスを終えた後のような気分だった。
あとがき
ゲロだけかと思ったらセックスもあるっていう。
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