【note用】お写経のすすめ

0.note用挨拶
 ゴールデンウィークが明けたのにも関わらず、未だ緊急事態宣言が発令されています。14日あたりには解除地域が出てくるような発言も首相からありましたが、まだしばらくの間リモート〇〇が続きそうです。
私のお世話になった大学教員からも、今学期はすべてがリモート授業になったというメールが届き悪戦苦闘しているみたいです。

本当は、「お坊さんのルーティン」というタイトルのnote記事を作っていたのですが、内容があまりにも酷かったので下書きフォルダ入りです。そのうち書き直してupするかもしれません…

 さて、今回は「お写経のすすめ」と題して、写経の功徳やお大師様の著作などを紹介するレジュメ法話を作ってみました。前回同様に、私が作ったものですので、表現が拙いですが、参考にしただけると幸いです。檀家さん向けに書いてあるので、解釈や表現も少しわかりやすく変えています。
諸大徳の皆様、表現の中で誤った解釈があればコメント欄でご指摘いただけるとこちらとしても勉強になり幸いです。

1.ご挨拶とお詫び

(前略)感染拡大防止の観点から、法要の後の法話を簡潔にいたしまして、詳しいお話に関しては、当プリントを以って法話とさせていただきます。感染拡大のためご理解とご協力をよろしくお願いいたします。

2.#Stay Home

 今年の大型連休期間ならび休日はStay Homeを推奨し、アウトドアなどの外出を避けて、「おうちで過ごそう」とし、テレビ番組も家の中で楽しめる遊びや、軽い運動などをこぞって取り上げ、連休中の渋滞中継や新幹線で帰省を楽しむ人々を取り上げない(逆にガラガラの駅や高速道を取り上げるぐらい)ほどでした。
 仏教的にお家で楽しめるものといえば「写経」や「阿字観(瞑想)」などがあり、後者に関しては、「マインドフルネス」として近年メディアでも多く取り上げられています。

3.般若心経について

 般若心経は、仏教経典の中で一番よく知られているお経と言われています。正式名称を「般若波羅蜜多心経」といい、278文字というとても簡潔な内容から、多くの日本人が読誦しています。また、古くから多くの注釈書(解説書)が書かれていて、宗派を問わず歴史上の多くの僧侶から支持されていることもわかります。もちろん、弘法大師空海も『般若心経秘鍵』という注釈書を書かれていて、それに対する解説書も書かれいるぐらいです。
では、なぜこんなに多くの人から支持されているのでしょうか。よく言われるのは、

Ⅰ.簡潔であること
 多くの大乗経典は、まとまりがなくダラダラとしている(繰り返しが多い)が、般若心経は、まとまりがよくキリッと引き締まっているので、数分お唱えしただけで読み終わったという実感があるということ。

Ⅱ.難しすぎない
 大般若経600巻(経本をファサ〜っと転読するのは年末の風情です)の内容を300字以内に収めているが、難しすぎず、かつ易しすぎないので、妙味がある。しかし、ボリューム感はあるので仏教的な思想もしっかりと示されているということ。
Ⅲ.信仰の完成
 このお経を読誦すれば,様々な悩み・苦しみ・憂いが取り除かれ,災厄から逃れることができる。さらに、最高の智慧が得られ,この上ない悟りの境地に至ることができる」という信仰や、「ギャーテーギャーテー」という真言陀羅尼で終わることから、少しずつ壮大になっているということ。

Ⅳ.翻訳
 玄奘(げんじょう)三蔵が翻訳した「玄奘訳」は美文調で味わい深く無駄がない翻訳となっているということ。(※玄奘三蔵以外が翻訳した般若心経もあるが、日本にある般若心経は玄奘訳がメジャーである)(※日本に現存する漢訳の般若心経は8訳ある)
Ⅴ.リズム感
 仏説摩訶〜から始まり〜般若心経で終わるまでのテンポ・リズム感がよく、スラスラ唱える事ができる。これも玄奘三蔵の功績である。(テンポ・リズム感は、お唱えする僧侶の力量が問われますが…)
Ⅵ.衆生の救済
 世直しや国の安泰等,社会全体をよくすることを目指す側面がある。般若心経は対照的に,公共性・社会性はなく,一人ひとりの安寧・救済を目指す経典であること。

この6つの理由から般若心経は多くの人々から厚く支持されていると言われます。

4.般若心経秘鍵(ひけん)について

 先程の章でお大師様が書かれた『般若心経秘鍵』という書物の話が出たので、簡単にご説明します。
 「般若心経秘鍵」は、弘法大師空海が書かれた般若心経の解説書で、いつ書かれたかははっきりしていません。般若心経「解説」や「詳解」などではなく「秘鍵」というタイトルかというと、密教と顕教(けんぎょう)の性質の違いといえます。

 お大師様は仏教というものを「密教」と「顕教(けんぎょう)」の2つに分けられるとしました。お大師様が中国(唐)から持ち帰ったものを「密教」、それ以外の仏教を「顕教」と言いました。顕教は、物事を表面上の姿かたちから理解し、密教は、物事の奥底にある本来の真意を見つけ出すと言われています。『秘蔵宝鑰(ひぞうほうやく)』というお大師様が書かれた書物には、

「顕薬は塵を払い、真言は庫(くら)を開く」

と書かれています。

 つまり、顕教は表面の塵を払って見た目をはっきり見せ、密教は秘密の蔵を開いてその奥に入り込んで、物の本質を見極める教えとされています。
わかりやすく例えると、正方形で四角いキューブがあるとします。
それを真正面からみればタダの四角形ですが、斜め上などから
見ると立体的に見え、奥行きが感じとれるということです。

 話をもとに戻すと、この書物のタイトルが「般若心経解説」ではなく、般若心経『秘鍵』である理由は、般若心経の本質を見極めるというお大師様の思いがあるからです。

5.写経の功徳について

 さて、般若心経には様々な功徳があることから多くの人に支持されていると3章で述べましたが、もう1つの点から支持されていることがわかります。それは、「功徳の多様性」です。
般若心経というお経は、「読誦」「写経」「理解」など様々な方法で功徳があるとされています。

 特に写経は、般若心経秘鍵のなかで、

『時に弘仁九年の春 天下大疫す。ここに帝皇自ら黄金を筆端に染め、紺紙を爪掌に握って、般若心経一巻書写し奉りたもう。(中略)未だ結願の詞(ことば)を波か吐かざるに、蘇生の族途(やからみち)に佇む。』

と述べられています。
 訳すると、

「弘仁9年(818年)の春に、全国で疫病が大流行した。そこで嵯峨天皇は疫病の速やかな終息を願い自らの筆を金泥でもって染めて、紺紙を手のひらに握って般若心経1巻を写経し奉った。(中略)そうすると、効果はたちまちに現れて結願のことばを述べないうちに、病から癒えた人々たちが道にあふれ佇むようになった。」

という意味です。

 しかし、この内容はお大師様が書かれたものではなく、あとから付け足された「偽作」と言われています。ですが、般若心経および写経をするということが、あとから付け足されるほどの功徳があるということをお大師様の言葉として言いたいほどだったのではないでしょうか。

6.おわりに

 月参りの際に檀家さまと少しだけお話をさせていただくと「家にずっといるとしんどい」といったお言葉をよくいただきます。しかしそういったときほど「イライラ」が募ってしまい、精神衛生上よろしくないとされています。
そういったときだからこそ、写経をすることで精神統一をはかることで心を落ち着かせることや、瞑想することで日々の不安やストレスを呼吸法から取り除くことができます。仏教は大昔からそういった方法によって、衆生の不安を取り除いています。

 まだ先が見えない戦いになるかもしれませんが、しんどくなったときにはお話したことを実践していただければいいなと思います。
本日はありがとうございました。


参考文献
「訳注般若心経秘鍵」松長有慶 (春秋社,2018)


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