変異種についての統計的考察

はじめに

新型コロナウイルスの変異種の発生が確認された。新型コロナウイルスには「スパイク」という突起がついており、これが細胞をしっかり捉えて感染する。「スパイクタイヤ」を履くと車が雪道で滑りにくくなるのと同じ理屈である(http://jsv.umin.jp/journal/v56-2pdf/virus56-2_165-172.pdf)。変異種ではこのスパイクの質が良くなったり、数が増えたりしている。従って、今までよりしっかりと細胞を捉えることができる。その結果感染力(感染速度)も感染の伝わりやすさ(感染加速度)も上がるという予想がなされている。しかし、(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/10074-covid19-27.html)によれば、症状は今までの種とあまり違いはないようだ。

最初に発見されたのはイギリスだが、今はで世界24カ国で変異種が見つかっている(https://www.youtube.com/watch?v=jmqJWotd8g0)。

29日にはアメリカでも発見された(https://www.bbc.com/japanese/55481446)。2021年になって、さらに増えている可能性がある。そこで、感染図を用いて、変異種の統計的な解析をする。

感染図とは

ここでは、週の1日平均の新規感染者数と同じく死者数を利用する。新規感染者数も死者数も一般に平日が高く、週末は低い。例えば日本の統計では、1週間のうちで月曜日の新規感染者数が一番少ない。これは日曜日の検査数が定日よりも少なくなるからである。しかし、火曜日は月曜日の1.55倍、水曜日は1.77倍、木曜日と金曜日は1.99倍になる。この様な曜日ごとのばらつきを無くすために、1週間の平均を用いる。

1日平均の新規感染者数を「感染速度」、死者数を「致死速度」と呼ぶ。「感染図」は感染速度を青の折れ線グラフで、致死速度を緑の棒グラフで表したの複合グラフである。

変異種が発見された国の共通点−年末の新しい波

次の図はマデイラ諸島(ポルトガル領)を除く24ヶ国の12月30日の感染図の行列である。

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変異種発祥の地イギリスでは、緊急事態宣言のおかげで、9月に始まった第二波が11月に減衰していた。しかし、12月2日から、突然急上昇を示す様になった。新しい波が発生したと考えても良い。グラフの傾斜の険しさからわかるように、感染加速度が今までで一番大きく、イギリスでは最悪の増え方である。

イギリスと同様にここ最悪の新しい波が発生した国に、ナイジェリア(12月2日)、南アフリカ(12月2日)、オランダ(12月2日)、レバノン(12月9日)、アイルランド(12月16日)がある。日付は感染増に転じた週である。ノルウェー(12月9日)とスペイン(12月9日)は過去最悪ではないが急上昇に転じている。グラフからはわかりにくいが、スイス(12月2日)、フランス(12月9日)も新しい波が発生している。香港(11月18日)、シンガポール(12月16日)、オーストラリア(12月16日)も数は低いがこれらの国にとっては十分に大きな値であると考えられる新しい波が発生している。

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イギリスの10月からの感染速度のグラフは、政府の計画通りに行けば、上の図の橙の折れ線グラフのように減少を続けていたと思われる。しかし、実際のグラフは青の折れ線グラフのように増加になった。変異種は感染させる力も強いと考えられているので、グラフが増加に転じた原因が変異種にあると考えられる。変異種が発見されたのは21日であるが、11月末には発生し、発見された日にはすでに蔓延していた可能性がある。

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日本は、11月4日から始まった第三波が11月25日から12月9日の間、一旦グラフがほぼ水平になった、これは感染の勢いが小さくなったことを意味する。感染加速度も小さくなり、横ばいあるいは減少が期待されたが、再び勢いが大きくなってしまった。この勢いを増加させたのが、編異種ではないかと考えられる。日本と同様な変化をしている国に、デンマーク(12月2日)、ドイツ(12月2日)、アメリカ(12月2日)がある。

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韓国は10月21日から波が発生していたが、、12月9日から、傾斜がより激しくなった。なった。イスラエル(11月25日)、スウェーデン(12月9日)も韓国同様、増加の仕方が激しくなっている。

アイスランド、スイス、ベルギーは全体的に減少傾向であったが、11月末から12月末までの間に1、2週間の増加期間が見られる。ちょうど香港などと同様の小さな波である。カナダはほぼ横ばい、イタリアは減少している。

以上の事実から、12月26日の時点で変異種の見つかった24カ国のうち80%にあたる19カ国で、11月末から12月半ばにかけて、勢いの強い新しい波が発生しているか、すでに波が発生している場合、その勢いが増していることがわかる。従って、今はまだ変異種の報告はないが、この時期に波が発生したり、波の勢いが強くなったりしたら、その国はもしかしたら変異種が発生しているかもしれない。

また、アイスランド、スウェーデン、カナダ、デンマーク、アメリカ、オランダ、ドイツ、スイス、ナイジェリア、香港では変異種が原因で発生したと思われる波の減衰が始まっている。この減少は波が発生してから、2〜3週間で始まっている。しかし、この現象は一時的なもので、1月は再び増加に転じると思われる。というのも、世界各国で変異種の有無を調べるために、検査数が確実に増えることが予想されるからである。検査数が増えれば感染数が増えることは予想に難くない。

変異種が見つかっていない国との比較

次に、12月26日時点で変異種が発見されていない主だった国の感染図と比較する。

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多くの国で、12月中も高い感染速度を保持している波が発生しているが、ほとんどの場合、波は10月以前に発生している。変異種が発見されていない国々の中で、11月末以降に新たな波が発生した国は、バーレーン(11月18日)、メキシコ(11月18日)、チリ(12月2日)、ボリビア(12月2日)、アルゼンチン(12月9日)、コロンビア(12月9日)、タイ(12月16日)、チェコ(12月16日)、エジプト(12月16日)がある。また、フィンランド(11月18日)、トルコ(11月18日)、パナマ(11月25日)、ブラジル(12月9日)、インドネシア(12月16日)では波の傾斜が険しくなった。

一方、ハンガリー(11月18日)、マレーシア(12月9日)、ベラルーシ(12月23日)では波の上昇中に期間の短い減少の直後に大きな増加があるが、処理の都合上前週分を翌週に発表してそのままと考えられるので、新しい波が発生したとは考えない。ルクセンブルクもハンガリーなどと同様に12月16日に小さな山ができている。しかし、ルクセンブルクはハンガリーなどと違い、全体的には減少傾向である。そこに小さな山ができたということは、スイスやベルギーと同じような状況とも考えられる。ルーマニアもルクセンブルク同様、減少中の小さな山がある。


果たして、1月2日にWow Korea は、フィンランドとトルコでは変異種があったと報道した(https://news.yahoo.co.jp/articles/02f28a3cfeb9b8249b5c34ee964762cbca7ccf86)。

同紙はまた、ポルトガルでも発生したと報道しているが、これはポルトガル領マデイラ諸島のことであると思われる。ポルトガルの感染図は変異種による影響がなさそうに見える。ポルトガル本国で発生したという報道はまだ聞かない。

また、中国、ブラジル(https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-brazil-variant-idJPKBN2951MY、チリ(https://www.sankei.com/world/news/201230/wor2012300007-n1.html)でも変異種が発見されている。ただし中国の変異種はイギリスや南アフリカのそれとは違うものであるらしい。

変異種の見つかった国の共通点ー入国規制

変異種の発生している国はほとんどがヨーロッパで、隣国同士である。しかもEU内での移動はほぼ制限はない。イギリスで発見された変異種が国境を越える可能性は高い。

新型コロナウイルスに限らず、感染症は国境を超えて移動する。従って、多くの国では外国人の入国を規制している。しかしビジネス上の必要性や人道上の見地から、特定の外国人に対して入国を許可している国が増えている。入国に対しては自国民ともども、空港検査、14日間の指定場所での待機、公共交通機関を使わないなどの規制がある。しかし、最近では特定の国からの入国に対してこのような規制を行わないところが増えている。変異種が見つかった国での12月初め頃の入国規制等は、次の様になっている。

日本では、11月4日から全ての国に対して入国規制が緩和された。シンガポールや韓国など、アジア11カ国に対しては、空港検査、14日間の指定場所での待機が免除されている。
韓国では中国湖北省からの入国を拒否している。空港検査はないが、到着後3日以内に検査結果を報告する必要がある。また、全ての入国者に対して14日間の自己隔離を要請している。
シンガポールは、中国を除く長期滞在者の入国は政府からの承認がいる。「リスクの高い国」からの入国に対しては14日間の隔離と終了後の検査が要求されている。「リスクの低い国」は7日間に短縮される。
香港は健康カードの提出のみで何の規制も制限もない。
オーストラリアでは全ての外国人の入国が拒否されており、14日間の指定施設での隔離が強制されている。

イスラエルは、中国、香港、日本、オーストラリア、シンガポール、韓国などからは条件付きで入国可能であるが、検疫や隔離等の措置は必要ない。
レバノンでは入国規制はない。検疫も到着後4日以内の検査結果提出のみである。

ヨーロッパ各国はヨーロッパ内での移動に関してはほぼ制限がない。国境での検査や待機なども不要なところが多い。日本、中国、韓国などからの入国もほぼ自由である。

南アフリカ、ナイジェリアには特に入国制限はない。検疫も到着後3、4日以内の検査結果提出のみである。

アメリカも入国制限はないが12月5日から自主隔離の期間が14日間から10日間(陰性が証明されれば7日間)に短縮された。
カナダはアメリカからのみ入国を拒否していた。その他の国からは制限は特にない。空港検査は無いが、14日間の自主隔離がいる。
チリも入国規制はないが到着後3日以内の検査結果提出が必要である。自主隔離は要求されていない。ブラジルは陸路での入国規制はあるが、空路では基本的にない。また、検査も自主隔離も行動制限もない。

日本、香港、アメリカでは12月21日以降強力な国規制が敷かれる様になったが、日本は、中国韓国などアジア11カ国からの入国に対しては、引き続き行う。それ以外の国では、大して強化されなかった。

以上の事実から、変異種は11月末から12月にかけて入国制限を特にしていなかった国で発生したと言える。多くの国で、陰性証明証を提出、あるいは入国後3、4日以内の検査結果を提出するという条件で入国可能だが、陰性証明証をもらってから空港到着時までに感染する可能性もある。そういう人たちが、指定場所での待機もせず、公共交通機関を使えば、結果は火を見るより明らかである。

変異種はイギリスが発祥の地ではないという可能性

変異種はイギリスから発生したと言われているが、イギリスが変異種が原因と思われる新しい波が発生したのは12月2日で、それより早く新しい波が発生したところが2箇所ある。一番早いところは香港の11月18日である。2番目がイスラエルの11月25日である。そして、12月2日にイギリスなど7ヶ国で発生している。

イスラエルは香港と中国を「グリーン国」と定め、検査結果の事前提出や14日間の自主待機をなどの規制付きがら両国からの入国を認めている。南アフリカ、ナイジェリア、韓国、アメリカは制限つきながらも全ての国から入国可能である。日本へは、香港を含む中国からビジネストラック、レジデンストラックという名目で規制なしでの入国が可能である。イギリスへは香港からは規制なしで入国することができる。ヨーロッパでは基本的に空港検査で陰性なら、活動制限はない。また、入国規制をしているはずのアジア各国も台湾を除いては、香港を含む中国からの入獄はほぼフリーパスである。

故に、変異種は香港からイスラエル、南アフリカ、イギリス、韓国、日本へと渡り、特にイギリスからヨーロッパ各地へ広がったと考えても不思議ではない。従って、今後は特に入国規制をしていない国で編異種による新しい波が発生すると考えられる。

変異種の強さ

変異種はその構造上、人にくっつきやすく取れにくいので、より多くの人にうつるというのが疫学の専門家の意見である。それならば、重症化する可能性が高いと思われる。そこで、感染図を用いて、致死率を考察する。

各国の感染図において感染速度(青い折れ線グラフ)と致死速度(緑の棒グラフ)が交差するところが致死率5%である。従って、感染速度グラフと致死速度グラフとの間のギャップが大きいと致死率が低いことを意味する。また、致死速度の波は、感染速度の波よりも傾斜が緩やかになる。一方、致死速度の波は、感染速度の波が起こってから、数週間後に発生するので、感染速度の波が減衰しているときに致死速度が上昇することもある。従って、感染速度の波が上昇するときはギャップが広まり、反対に、感染速度が減衰するときはギャップが狭まる。

新しく波が発生したイギリス、ノルウェー、アイルランド、オランダ、南アフリカ、レバノン、イスラエル、ナイジェリア、香港、イスラエルでは、その直前の波と比べて、ギャップが狭くなっている。致死速度の波の傾斜がより険しくなった、スウェーデン、デンマーク、アメリカ、ドイツ、韓国でもギャップが狭くなっている。横ばいのベルギーやスイス、減衰しているイタリアで同様である。スペインとフランスは感染速度が上昇しているにもかかわらず、致死速度は減少している。これは、上昇が始まった時期が比較的遅く、まだ致死速度に反映されていないためであると考えられる。来週か再来週から致死速度が上昇に転じると思われる。

ギャップが狭まったということは致死率が上がったということである。次の表は変異種の発見された国での12月中と10月から11月にかけての致死率を比較したものである。

変異種ー致死率

シンガポール、イスラエル、アイスランド、オランダ、南アフリカ、ナイジェリア、タイ、ブラジル、チリ以外の全ての国で致死率が上昇している。平均して0.83%上昇している。この時期世界平均では2.46%から2.65%へと0.19%しか上昇していないので、際立って致死率が増加していると言える。

特に香港は0.35%から2.13%へと6倍以上も上昇している。一般に感染症は広まっていくにつれ致死率が下がっていくので、イギリスで発見された変異種が実は香港由来のものではないかという根拠の一つにはなる。

また、南アフリカの変異種は致死率が下がっているので、南アフリカで発見された変異種はイギリスのものとは別物である可能性が考えられる。しかし、ブラジルや、オーストラリアなど南半球の国々は全て致死率が下がっているので単に気候の問題であるとも考えられる。


終わりに

次の3項目のうち少なくとも2つに当てはまる国はイギリス型の変異種が発生している可能性が非常に高いと言えそうである。

1。11月半ばから感染者数が急増している。すでに上昇中の国では、その上昇具合(感染加速度)が大きくなり、グラフがより険しくなる。

2。外国人が容易に入国できる。

3。12月の致死率が10〜11月の致死率よりも高くなっている。

今後は、外国人入国規制の弱いロシア、東欧地域、インド、南米などで同様の変種が見られる可能性がある。

変異種の寿命については未知の部分が多いが、感染速度と致死速度との関係から、今のところは従来種と同じくらいと考えて良さそうである。それならば、感染しても発症しない、あるいは軽症ならば、2週間以内に完治する見込みがある。従って、完全な入国規制を一ヶ月すれば、編異種に要感染拡大を抑え込めるのではないだろうか。

追伸

近頃送られてきた外務省からの「検疫の強化の対象となる国・地域の指定及び検査証明書の提出について」(https://www.mhlw.go.jp/content/000717157.pdf)の中で、1月6日にルクセンブルグが、1月8日にルーマニアが追加された。どうやらこれらの国でも見つかったようだ。予想が当たっていて何より。


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