新型コロナの感染パターングラフの解析ーアメリカ編

はじめに

世界の新規感染数グラフのパターンをまとめたものを note に投稿した。

https://note.com/wotaro_san/n/ne780ca57db9a

そこでは新規感染数を感染速度と考え、そのグラフの波の形と数を使って感染の広がり具合を微積分学的手法で考察した。そして、世界各国の感染の広がり具合がおおよそ3つに分類できることを示した。さらに、⑴波が収まった時、波が生成される期間よりも、波が減衰する期間の方が長い、⑵急な波よりも緩やかな波の方が成長期間が長い、⑶波が複数ある時は、新しい波の方が古いものよりも高く長くなる、⑷大陸ごとに同じようなパターンを示すことが多い、⑸波の形は政策によって決まることが多い、という傾向があることがわかった。

前回の投稿で予想した通り、ヨーロッパで第二波あるいは第三波が本格的になってきた。⑶の通り、10月に入ってヨーロッパのほとんど全ての国で過去最高の新規感染数を記録した。カナダでも10月に過去最高の新規感染数を記録した。アメリカも過去最高に迫る勢いである。⑷の通り、中南米はアルゼンチン以外は減少あるいは横這い傾向である。中東ではイランとUAE以外は減少傾向にある。アフリカはどこも微増になっている。アジアやオセアニアではマレーシアとインドネシアのみが増加している以外は、どこも横這い蚕尾である。インドはここへ来てようやく感染速度にブレーキがかかってきたようである。10月中にインドはアメリカを抜くと予測したが、これは外れそうである。

欧米が9月以降再び感染拡大傾向になったのは、景気回復のための飲食店等の営業再開の影響が大きいと思われる。また、ヨーロッパでは域外の観光客を受け入れ始めたことも影響していると思われる。日本では、10月8日より、国際的な往来再開に向けた段階的措置として、感染状況が落ち着いている16ヶ国からの長期滞在及びビジネスのための新規入国を許可を拡大した。したがって、10月は感染数が増加すると考えられる。

詳しい世界の感染状況は次回考察する。今回はアメリカの感染を州別に考察する。アメリカの州は他の国の州と違ってかなり独立している。アメリカ政府ではなく州政府が独自に命令を出すことも多く、独立国に近い存在である。Worledmeter でもアメリカだけは州別にデータが集計されているので、同じ手法で感染速度グラフを解析することができる。


基本的用語

データは Worledmeter が集計しているものを用いる。前回は、1週間の新規感染数の合計値を用いたが、今回は、1週間の新規感染数の合計値を7で割った値を用いる。これはその週の1日の平均の値になる。前回のグラフと形は同じになる。波の形と数に注目するために、日々の新規感染数を用いない。多くの国で週末に感染数が減少するので、その度に波が発生してしまうが、これはデータ集計上の都合によるもので、本質とは関係ないからである。
グラフの「波」とは、長くつづく上りの傾斜のことである。波は、険しい上りの傾斜が急に発生した週に始まる。グラフが「極大」になったところが波の「ピーク」である。ピークを迎えた後の長く続く下りの傾斜があったとき、波が「減衰する」という。グラフの高さが波の始まる以前の高さに戻ったときに、波が「収まった」と言う。波が始まってからピークになるまでの週の数を、波の「生成の長さ」と定義する。下りの傾斜が継続している期間を波の「減衰の長さ」という。波の生成の長さと減衰の長さの和を波の長さという。収まっていない波の長さは∞とする。長さの短い上りの傾斜は、データ処理場の都合と考え、波とは数えない。同様に、長さの短い下りの傾斜を波の減衰とは数えない。

波のピークが高いことは感染力が強いことを、波の傾斜が険しいことは、感染力が増していることを、波が長いのは、感染が長引いていることを意味する。

発生した波がまだピークを迎えていないこともあれば、ピークを迎えても減衰しないままグラフがほぼ水平状態になることもある。また、一つの波が収まった後、新しい波が発生することもある。波が収まる前に次の波が発生することも少なくない。

発生した波が、ピークを迎え減衰を開始して2週間以上経過した時、この波形を「一つ波型」という。波が収まっていれば「収束した一つ波型」、そうせなければ「減衰中の一つ波型」という。発生した波がピークを迎えたが収まる前にグラフが水平状態になった時、この波形を「津波型」と言う。また、細かな上下を除き上りの傾斜がずっと続いている時は、「成長中の津波型」という。波が一度ピークを迎えた波が収まる前に、次の波が発生した時、この波形を「重ね波型」という。波が複数ある時、すべての波が一つ波型ならば、この波形も一つ波型とという。最後の波が津波型ならば津波型、最後の波が重ね波型ならば重ね波型、という。

その他の用語については、前回の投稿を見ていただきたい。


アメリカの感染状況

下の図は10月7日までのアメリカの感染速度のグラフである。縦軸はその週の1日あたりの新規感染数である。前回はその週の総新規感染数を使ったが今回の値はその値を7で割ったものである。違いはグラフの縦軸の数字だけで、グラフの形は同じである。

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グラフから3つの波が起こっていることがわかる。まとめると次の表のようになる。

波


最初の二つの波が収まる前に第三波が発生しているので、三重の重ね波型である。最後の波は、成長中なので、分類上は津波型である。第二波は第一波に比べかなり減少したが、収束には至っていない。第三波は現在成長中である。前回の法則が有効ならば、ピークはもうちょっと先になる。

第一の波は感染爆発の対処が後手に回ったことにより起こったものである。第二の波はBLM暴動の結果、第三の波は経済回復のための自粛の緩和の結果であると考えられる。


支持政党別感染パターン

第二波が起こった時、共和党が地盤である南部諸州で感染が拡大したと報道された。アメリカは二大政党制なのでどちらの党を支持するかというのが大切である。特に今年は大統領選があるので、互いに他の政党の候補者を非難するし、ときには支持者及びその家族にでにすら嫌がらせ等をするという報道もある。アメリカの動向を考える場合、政党支持別に見ると意外と面白い結果が得られることが少なくない。そこで、支持政党別の感染速度を考察する。

アメリカ50州とワシントン特別区は過去4回の大統領選(2000年、2004年、2012年、2016年)の結果によって次の表のように分類される。やや共和党、中間、やや民主党に属する12州は「スイングステイト」と呼ばれる。資料によっては、さらに過去の大統領選の結果を含む場合もあるので、違うこともあるので、この稿のスイングステイトとは違うこともある。

スイングステイトは全部を合わせると人口が約1億人となるので、大票田である。それ故、これらの州での得票率が大統領選の結果を左右していると考えられている。

ニューヨークやカリフォルニアなど民主党支持州は北東部と西部に多い。また、共和党支持州は、ジョージアやテキサスなど、中央部や南東部に多い。スイングステイトはちょうど両者の中間に位置するところが多い。


民主党のシンボルカラーが青、共和党のシンボルカラーが赤なので支持政党別に州を分けたときは、民主党支持州は「青い州」、共和党支持州は「赤い州」と呼ばれる。絵具の赤と青を混ぜると紫になるので中間州は「紫の州」とも呼ばれる。この理屈なら、やや民主党支持州は青紫にすべきだが、判別しづらいので、水色を使う。同様にやや共和党支持州は桃色をつかう。


下のグラフは、支持政党別の感染速度グラフである。左下の支持政党別は、5つの地域を一つにまとめたものである。

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民主党支持州(左上、青)では、3月11日に第一波が発生し、4月15日にピークを迎えた。その後はかなり減衰したが、波が収まる前に第二波が6月17日に発生した。第二波は第一波よりも生成期間は長いが、ピークは低い。7月29日にピークを迎え減衰するも、波が収まる前に第三波が9月16日に発生した。第三波のピークは第二波の85%を超えており、上りの傾斜は険しくなるばかりなので。このままいけば、第二波よりは大きな波になると予想される。

やや民主党支持州(右上、水色)では、3月18日に第一波が発生し、4月8日にピークを迎えた。その後はゆっくりと減衰したが、6月10日に第二波が発生した。第二波は第一波よりも長く大きい。7月29日にピークを迎え減衰するも、9月9日に第三波が発生した。第三波はすでに第二波を超えている。ピークはまだまだ迎えそうにない。まとめたグラフ(左下)から、第二波、第三波と、徐々に青い州との差が狭まっている事がわかる。これは、やや民主党支持州の感染力の勢いが、民主党支持州での勢いよりも大きいことを示す。

共和党支持州(左中、赤)では、3月18日に第一波が発生したが4月8日にピークを迎えた。第一波の勢いは、青い州よりはるかに小さいが、水色州の勢いと同じくらいである。以降はほぼ水平状態になり、5月27日に第二波が発生した。第二波は第一波よりはるかに長く大きい。青い州の第二波の倍以上の高さがあり、青い州の第一波よりも高い。赤い州の第二波は多少減衰したが、9月9日に第三波が発生した。すでに第二波の80%の高さにまで成長している。こちらもピークはまだ迎えていないと予想される。

やや共和党支持州(右中、桃色)では、3月25日に第一波が発生した。そのまま成長し続け7月22日にピークを迎えた。生成期間は17週間と非常に長い。これは、他の地域とは異なり、感染拡大にブレーキがかからなかったことを意味する。あるいは、第一波がピークを迎える前に第二波がやってきたとも言える。その後多少減衰するが、9月23日に第二波が発生した。まとめたグラフを見ると、ほとんど波が発生していないように見えるが、これは人口が少ないので、他の地域に比べて、感染数が少なくなるためである。しかし、当地では、十分波と言えるほどの起きさである。

中間州(右下、紫)では、赤い州と同様に、3月25日に第一波が発生したが4月8日にピークを迎えた。青い州、水色の州、赤い州に比べ高さも勢いも小さい。以降は水平状態になり、6月10日に第二波が発生した。第二波のピークは第一波よりもはるかに長く大きいが、青い州、赤い州に比べ高さが低い。第二波はかなり減衰したが、9月2日以降水平状態になった。10月14日に感染速度が急上昇している。今の所は波と定義されないが、10月21日以降も上昇がが続けば、第三波になる。

まとめたグラフからは、第一波は民主党支持州、やや民主党支持州を中心に発生したと言える。一方、第二波では共和党支持州のピーク値は高いものの、民主党支持州と中間州も十分に高いので、必ずしも、メディアの言うような共和党支持州で感染爆発が起こったとは言い切れない。第三波は今のところ中間州以外で発生している。特に、やや民主党支持州での勢いが高い。


地域別感染パターン

政党の支持には地域的な特性がある。支持政党別に見るよりも、地域別に見る方が、有用な考察を得られる可能性がある。そこで、アメリカを次の6つの地域に分ける。

地域別


下の図は地域別の感染速度を一つにまとめたグラフである。地域の色は上の表に示したとおりである。

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下の図は地域別の感染速度のグラフである。

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これによると第一波は主に北東部でと中西部で発生したと言える。中西部ではピークが北東部よりも少し遅れた。北東部はほぼ全州が民主党支持あるいはやや民主党支持である。中西部ではイリノイとミネソタが民主党支持、ウィスコンシンがやや民主党支持である。その結果が、民主党支持州で第一波が発生したということになる。

第二波は南東部で特に多く感染者が発生している。この辺りは、バージニアを除いて共和党支持またはやや共和党支持である。次いで大テキサス、南西部で発生している。大テキサスはニューメキシコ以外は共和党支持であるが、南西部はアリゾナを除き民主党支持あるいはやや民主党支持である。この3地域はいずれもアメリカ南部である。したがって、第二波は南部を中心に発生したと言える。

第三波は、中西部と北西部で多く発生している。また北東部も個々のグラフでは傾斜はそれほどでもないが、全体を見るとかなりの傾斜になっている。この3地域はいずれもアメリカ北部である。したがって、第二波は北部を中心に発生していると言える。

アメリカの感染速度グラフは、これら3つの波が合成されたものであると言える。

北東部は、ドイツやフランスなどヨーロッパの大きな国の感染速度グラフに形が似ている。アメリカは、ヨーロッパと並んで、割と早めに緊急事態宣言を出している。その後一旦規制緩和をした点も同じである。ヨーロッパの第二波、第三波が、第一波よりも大きくなっているので、ここの第二波(アメリカ全体で見れば第三波)は今後大きくなっていくと予想される。中西部はベルギー、ノルウェー、ポルトガルのようなところと似ている。また、北西部は、オランダとそっくりである。

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一方、南部の感染速度グラフは、3地域とも同じである。最初は波が起こったかな、という程度の低いピークが現れ、その高さのままグラフが伸びる。やがて非常に大きな波に成長したあと、減衰するが、収まる前に水平状態になる。このパターンは前回あげた48か国のどことも似ていない。強いて言えば、日本の感染グラフのうち第二波の部分と似ている。

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この時のアメリカ南部と日本の第二波は政治的な背景が似ている。日本の感染数の急増は謎であった。都知事選の選挙演説や、GoToキャンペーンの移動が原因ではないかと言われれている。実は南部の感染増についてもその原因はよく分かっていない。さらに、感染が減衰した理由もよくわかっていない。また、9月以降の水平状態は、経済復興のための規制緩和である点も同じである。

感染の中心の移動と外出制限

アメリカ全体では3つの波が発生してるが、発生の中心が波によって異なる事がわかった。日本では二つの波が発生したが、例えば、最初の波は東京中心で、2番目は大阪が中心であった、ということは無かった。程度の差はあるが、東京も大阪もしっかり波を二つ持っていた。東京大阪以外でもある程度の感染数を出している道府県では、ほぼ、日本と同じように二つの波が発生している。アメリカのような現象は世界的にも珍しいのではないか。

おそらく、アメリカの感染速度グラフは人の移動が重要な要素を占めていると考えられる。北部で感染爆発が起こった3月4月は、南部での感染は比較的感染低く、また、当時の南半球での感染の少なさから、暖かい地方は感染が起きにくいという根も葉もない噂もあり、感染を逃れるために、北部から南部へ移動があったと考えられる。そのような体験が書かれたブログもいくつか存在する。また南部で第二波が発生したのは6月初めの、ちょうどBLM暴動が盛んに行われ始めた頃である。この暴動は主に北部で行われた。北部で暴動での被害を避けるために、急いで南部へ逃げてきた者も少なくなかったと思われる。その結果、6月に南部での感染爆発が発生したと考えるのは自然である。

BLM暴動を受けてニューヨーク、ミシガン、ミネソタ、ワシントン、オレゴンなどでは厳しい外出制限が出された。そのため、結果的にこの地域での新型コロナの感染拡大が抑えられた、と考える事ができる。実際これらの州では6月に感染速度グラフが減衰している。一方、さほど厳しい外出制限の出されなかった地域では、感染速度が急上昇している。

感染者が一人二人移動した程度ではせいぜい数十人のクラスターしか発生しないので、数千の感染者の移動があったと思われる。その場合、感染したことに気づかずに移動したものが多いと考えられる。そのような移動の事実はないという者がいるかもしれないが、アメリカには住民票のようなものはないので、住所変更は郵便局に出すだけである(そうすると新しい住所に転送してくれる)。前の州の運転免許証も、自動車の登録も、その期限が切れるまで有効であるので、わざわざ書き換えはしない。というわけで、政府や民間の統計からは、実際にどのくらいが転居したのかは全くわからない。

さて6月は、南部でさらに大きな感染爆発があった。一方、北東部も中西部もかなり感染も暴動もが収まってきていた。北西部では、もともと感染が小さい。そこで、今度は北部へ移動しようと考えるのは自然である。それゆえ、中西部北西部での感染が大きくなった。

一方、北東部では、感染は増えているものの、中西部北西部の比ではない。これはこの地域に相当強い政治的な動きがあったと考えられる。実際、6月24日から、ニューヨーク、ニュージャージー、コネチカットの3州は共同で、移動制限を実施した。これは、直近7日間の平均で、陽性者数が10万人当たり10人以上又は陽性率が10%以上の州 からこの3州へ移動する場合に、14日間の自主隔離を要請するものである。10月13日時点で36州と2地域が該当する。特に、ニューヨーク州では、移動に際し連絡先を教えることを求めており、違反した場合には罰金が科せられる。移動制限はアメリカの他の地域でも普通に見られるが、ここまで厳しいものはない。元々の北東部居住者でない限り、北東部に行こうと考えるものは少ないと思われる。それゆえ、感染の中心は中西部と北西部に移ったと考えられる。

また、ニューヨークでは今でも公共の場ではマスクをする事が義務付けられているし、多人数の集会を禁止している。学校もまだ閉鎖しているところが多い。このような地道な防疫対策も北東部で第二波が発生しなかった理由の一つであると考えられる。

終わりに

新型コロナウイルスは人の移動によって運ばれるのが最も多いと考えられている。実際に、感染者の多い国からの入国を禁じている国はいまだに多い。上の地図はIATAの発行した、何らかの入国制限を行っている国の地図である。色が濃くなるほど、厳しい入国制限を実施している。

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前回の投稿で、同じ大陸では同じような感染パターンを示すという考察をしたが。国境を閉ざしていれば、人間の往来がないので、その国独自の感染パターンが生まれる。しかし、近隣の国同士は割と同じような政策を取ることも多いので、似たような感染パターンが出てくるのではないかと考えられる。日本国内も移動の自粛が叫ばれているので、それぞれの都道府県が鎖国をしているような状態に近いと思われる。したがって、考察通り、ある程度の感染者数があれば、同じような感染パターンになっている。

しかし、アメリカにはこの考察が当てはまらない。それは、アメリカが広大で、その中での移動が比較的自由にできるからであると思われる。つまり、新型コロナウイルスの感染拡大は、人間の自由な移動が最大の原因であると考えられる。ただしマスクをする、集近閉を避けるなどの防衛をすれば、問題はないと思われる。

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