ワクチンは効いているかー統計的検証

はじめに

日本でもついに新型コロナのワクチン接種が始まって1ヶ月が経った。アメリカやヨーロッパでは2020年12月からワクチン接種が始まっている。2月24日時点では70カ国以上が治験も含めて接種を開始し、48カ国で近日中の接種開始を計画している。また、2月24日にはCOVID-19ワクチンへの公平なアクセスを可能にするために国際的なリソースを調整することを目的とするCOVAXからの最初の供給がガーナで行われた。これからは途上国でも徐々にワクチン接種が広まるだろう。


ワクチンの種類

新型コロナのワクチンは、今までにどこかの国あるいはWHOで承認あるいは緊急承認されたものが12種類、開発中のものが57種類ある(https://www.raps.org/news-and-articles/news-articles/2020/3/covid-19-vaccine-tracker)。GitHubによれば、2月24日時点で以下の8種類が使われている。

ワクチン


周知の通り、日本では、2月17日にファイザー/ビオンテック/フサン社のワクチンが特例承認され、アストラゼネカ社とモデルな社のワクチンが供給を受ける手筈になっている。


ワクチンとは

ワクチンは感染症の予防に使う医薬品である。それ自体に感染症を治す力はない。

人間には体内に菌、ウイルス、アレルゲンなどが侵入してきたときに、抗体などを生成して侵入者を取り除こうとする免疫という機構が備わっている。しかし、ウイルスなどが一番最初に体内に入ってきた時、人間の体は、その新しいウイルスなどの情報を持たないので、抗体を生成するのに時間がかかる。その間に体内でウイルスが繁殖して、発熱などの症状が出る。しかし、一度あるウイルスに対する抗体を生成すれば、人体はそれをある程度の期間覚えていて、再びそのウイルスが入ってきたときに即座に抗体を生成して、今度は繁殖する前にそのウイルスを排除することができる。なので、一度罹った感染症にはある程度の期間二度とかからない。

ワクチンはこの免疫を利用して感染症に罹リにくくする。簡単にいえば、体内に病原体を入れて、抗体を作らせておくのである。そうすれば、その病原体が再び体内に入ってきたとしても、抗体があるので、発症しないからである。体内に入れる病原体はごく少量か無毒化したものなので、体内で繁殖するには時間がかかり、抗体を作る時間は十分にあると考えられている。ワクチンのおかげで、天然痘やポリオなど絶滅した病気も少なくない。

ワクチンの問題点は、少量あるいは無毒化したとはいえ、病原体を体内に入れるので、その病気を発症する人がいることである。高齢者や体の弱い人にはよくみられるので、なるべく体調の良い時にワクチン接種を受けてくださいというところもある。ノルウェーではワクチン接種をした高齢者23人が死亡という報道もあった(https://gentosha-go.com/articles/-/31445 )。また、薬品なので副作用も考えられる。アストラゼネカのワクチンは血栓を引き起こすという報道もある(https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-netherlands-side-effe-idJPKBN2B713Y)。

薬品は副作用など人体に害がないように、かなり長い期間をかけて開発される。また新しい製造方法も次から次へと開発されている。

現在使用されているワクチンは製造方法によって主に3種類に分けられる。不活化ワクチンは従来からある方法であるが、バイラルベクター法とmRNA法は新しい方法で、バイラルベクター法ではアストラゼネカのワクチン以前は二つしか承認されていない。mRNA法で製造されたワクチンではモデルナとファイザーのものが、世界で初めて承認されたものである。

不活化ワクチンは無毒化されているので、一回の接種では抗体が十分に生成されず、効果が出るまでに複数回接種する必要がある。しかし、ほぼ発症することはないので、小さな子供でも安全である。何より、実績がある。

バイラルベクターとmRNA法では、病原体の代わりに病原体の遺伝情報のみを体内に入れるものである。遺伝情報をバイラルベクターでは人間には無毒と考えられている別の病原体に組み込み、mRNA法はカプセルに入れて、直接体内に入れる。理論上は病原体は繁殖しないので、効果は高く、二回の接種ですむと考えられている。

mRNA法で開発されたモデルナとファイザーのものは、効果は95%と高い。しかし、この数字は統計的に異常と考えられる。通常治験の効果は母集団によって50%から99%までというようにばらつきが出る。治験を時間をかけて何回も繰り返していくうちにばらつきが減り、一定の値に近づく。従って、この95%という数字はおそらく実験室の中だけでの結果か、治験の母集団にかなり偏りがあったと判断すべきである。また、副作用などもよくわかっていない。

バイラルベクターで開発されたアストラゼネカのワクチンは、効果が62%から90%とかなりのばらつきがある。モデルナとファイザーに比べ治験の母集団が適度にばらついていたと考えられる。統計的にはアストラゼネカの結果の方が信頼がおける。しかし、開発期間が短いので正確なところはよくわからない。


ワクチンの効き目を測定する

ワクチン接種が始まって、気なることは、
1。新型コロナの感染の勢いが弱くなったか、
2。どのワクチンが実際に効いているのか、
の二つである。

新型コロナの感染が勢いが弱くなったかどうかは、ワクチン接種が始まった週から各国でどのくらい「感染速度」が減少することと減少がどのくらい続いているかで判断できる。感染速度とは1週間の平均の新規感染者数のことである。感染速度が高いか、あるいは、感染速度の上昇するペースが大きければ勢いが強いことを、感染速度が低いか、あるいは、感染速度の減少するペースが小さければ勢いが強いことを勢いが弱いことを意味する。以前の投稿に「感染速度」のより正確な定義について書いているので、詳しくはそちらを読んでください。

また、ワクチンの効果の比較をするには、国同士の感染速度の比較が必要になるが、感染速度は人口の多い国では必然的に大きくなるので、直接比較はできない。そこで、ワクチン接種を開始した週の感染速度を100とした時の、ある週の感染速度の値をその週の「感染係数」として算出し、その値を比較する。感染係数が100未満で減少が続いているならば感染の勢いが弱まったと考えられる。

イギリスが2020年12月13日に世界で最初のワクチン接種の報告をしたので、イギリスのワクチン接種開始は2020年12月16日の週ということになる。同日が世界のワクチン接種開始週である。3月10日でワクチン接種開始後11週になるが、この週の感染係数は54.1である。一方、感染係数の最小値は9週目の48.1で、ここ3週間ばかり感染係数は増えている。接種開始前に比べて、新規感染者数がほぼ半減したわけだが、これが果たして、ワクチンの成果なのかそうでないのか興味のあるところである。


中東はワクチン接種開始後感染爆発する

ワクチン接種を本格的に開始してから6週間以上経った主要50ヶ国について、3月10日の感染係数を計算したところ、以下のようになった。

感染係数が100未満の国(25ヶ国):中国(39.3)、シンガポール(42.8)、インドネシア(64.2)、ロシア(37.7)、スロバキア(48.4)、スロベニア(53.6)、クロアチア(37.8)、スペイン(35.3)、イギリス(27.4)、ドイツ(45.3)、オランダ(59.4)、ルクセンブルグ(95.7)、アイルランド(11.0)、スイス(27.9)、ポルトガル(23.3)、スウェーデン(67.3)、デンマーク(28.2)、アイスランド(15.6)、アメリカ(25.8)、カナダ(45.7)、メキシコ(47.9)、コスタリカ(31.5)、パナマ(23.2)、エクアドル(79.9)、アルゼンチン(86.2)

感染係数が100以上の国(25ヶ国):インド(129.0)、バングラデシュ(137.7)、トルコ(172.2)、カタール (319.1)、バーレーン(384.6)、UAE(215.7)、クウェート(629.8)、イスラエル(110.1)、サウジアラビア(218.5)、オマーン(565.2)、ポーランド(170.4)、チェコ(148.5)、ハンガリー(537.1)、ルーマニア(117.3)、ブルガリア(307.4)、セルビア(197.3)、アゼルバイジャン(115.6)、ノルウェー(119.4)、フィンランド(262.9)、イタリア(159.2)、フランス(161.5)、ベルギー(136.8)、オーストリア(110.3)、ブラジル(126.5)、チリ(215.5)。

この中では、中東諸国の感染係数の大きさが目を引く。中東は8ヶ国全てで係数が100を超えている。特にクウェートは629.8と一際大きい。クウェートは、12月30日の週にワクチン接種を開始したので、わずか10週間で新規感染者数が6倍以上になったことを示す。これは、日本の11月型1月にかけての第3波と同じくらいの勢いである。他にも、オマーンで565.2、バーレーンが384.6、カタールが319.1と大きな数字になっている。

中東地域以外では感染係数が100未満の国が多い。中東以外のアジアでは5か国中3ヶ国が、南北アメリカでは9ヶ国中7ヶ国が、ヨーロッパでは28ヶ国中15か国が感染係数が100未満である。しかし、ヨーロッパでも、ハンガリー、ブルガリア、フィンランドのように、係数が200以上の国もいくつか見られる。


ファイザーで感染が抑制される。

一口に係数が100未満と言っても、その経過にはにはいくつかのパターンがある。ワクチン接種を開始してから、ずっと係数が100未満を維持している国もあれば、係数一時的に100以上になったがやがて100未満に落ち着いた国もある。係数が100以上の国にも同様にくつかのパターンがある。接種開始後の感染係数の時系列グラフをもとに、6グループに分類した。

第1群。ワクチン接種開始後、感染係数が100未満を維持している国は、スイス、オランダ、デンマーク、クロアチア、スロバキア、パナマの6ヶ国である。下の図が、これらの国の感染係数の時系列グラフである。

画像2

この中ではパナマが唯一3月10日の係数が25未満である。パナマは5週目で少し増えたが、6週目から再び減少に転じた。スイス、デンマーク、クロアチアは50未満である。スイス、デンマークは係数が一時25以下になったが、デンマークは8週目から、スイスは11週目から、増加に転じた。クロアチアも一時期係数が25近くになったが8週目から再び増加した。スロバキアとオランダは一時期係数が50以下になったものの、スロバキアは4週目から、オランダは6週目から増加に転じた。

第1群の6カ国はすべてファイザーのワクチンを主に接種している。EU加盟国のオランダ最初はファイザーのみであったが、3週目にモデルナ、5週目にアストラゼネカと順次追加した。EU加盟国ではあるが、デンマークは2週目にモデルナのみを追加したが、アストラゼネカは追加していない。同じく、クロアチアとスロバキアはファイザーしか接種していない。EU非加盟のスイスはファイザーで接種を開始し、モデルナは加えたがアストラゼネカは加えていない。同じくパナマはファイザーのみを接種している(いずれも3月10日の時点)。

これれの国々では感染係数がかなり減少しているのでワクチンの項があったと考えられる。いずれの国もファイザーを主に接種しているので、ファイザーは効果があると考えられる。


中国製ロシア製も抑制効果がある。

第2群。ワクチン接種開始後に感染係数が一時期100を越えたが、3月10日には100未満になった国は、中国、シンガポール、インドネシア、ロシア、スロベニア、スペイン、イギリス、アイルランド、ポルトガル、アイスランド、アルゼンチン、コスタリカの12ヵ国である。これらの国々の接種開始後の感染係数の時系列グラフは次のようになる。

画像3

画像4

中国、イギリス、ポルトガルのピーク値はグラフを超えてしまった。しかし、比較のためにあえてグラフのスケールは1。と同じにしてある。最高値は中国が451.9、イギリスは255.9、ポルトガルは383.2である。

3月10日の係数が25未満となった国は、ポルトガル、アイルランド、アイスランドである。ポルトガルとイギリスは、感染係数の減少のペースが著しい。この中では、アイスランドが8週目以降やや増加に転じた。係数が25以上50未満の国は、中国、シンガポール、コスタリカ、ロシア、イギリス、スペインである。この中では、中国が7週目から、シンガポールが5週目から増加に転じている。スロベニア、インドネシア、アルゼンチンは係数が50以上である。アルゼンチンは第7週目から増加傾向になった。

ワクチンは弱毒化したあるいは無毒化したとはいえ、病原体を体内に入れるので、人によっては新型コロナの症状を発する可能性がある。mRNA法では理論上ウイルス本体は体内に入らないとされているが、まだ実証されるほど多くの治験は行われたとは言い難い。この方法でもウイルスの情報は入るので、新型コロナを発症してしまう可能性も考えられなくはない。従って、ワクチン接種開始後に新規感染者数が増えることは十分に考えられる。

新型コロナのワクチンは二回接種することで効果を発揮するとされている。ファイザーの場合は一回目の3週間後に二回目を接種することが推奨されている。従って、接種開始後に新規感染者数が増えたとしても、数週間後に感染者数の十分な減少が見られればワクチンの効果があったと考えられる。それゆえ第2群でもワクチンの効果が認められる。

中国ではシノバックとシノファームが接種されている。インドネシアはシノバックのみである。ロシアとアルゼンチンはスプートニクのみが接種されている。それ以外の国ではファイザーが開始当時から接種されていた。ポルトガルはモデルナを、イギリスはアストラゼネカを追加した。スペイン、アイルランド、アイスランドはモデルナとアストラゼネカの両方を追加した。スロベニアは最初からファイザーとアストラゼネカの両方のみを接種していた。ただし、EU諸国でのモデルナとアストラゼネカの摂取数は少ない。シンガポールとコスタリカはファイザー一筋である。

この群ではファイザー以外にも、シノバック、スプートニク、アストラゼネカが地域を限定して使われている。これらのワクチンにも効果が認められると思われる。


アストラゼネカも抑制効果があるかもしれない

イギリスは接種開始後3週間で感染係数が275まで上がったが、8週目には100を切り、11周目には50も切った。減少のペースが大きいだけでなく、3週目以降は感染者が増加したことがない。イギリスは3週目から自国で生産しているアストラゼネカを接種し始めた。その結果、感染者数の激減が始まったとも言えなくはない。しかし、ファイザーの2回目の接種もこの頃から始まった。もしかしたらこっちの方が効いているかもしれない。あるいは両方とも効いているかもしれない。

スペインも接種開始後感染係数が2上昇したが3週目から減少に転じた。スペインも3週目からモデルナを追加したので。その影響が考えられる。また第6週にアストラゼネカも追加した。この時に係数の減少ペースがさらに大きくなった。これもアストラゼネカの効果かもしれないが、ファイザーやモデルナの二回目の接種の影響もあるかもしれない。

アイルランドでは、モデルナとアストラゼネカを同時に追加したが、感染係数は引き続き減少している。

巷ではアストラゼネカの危険性が指摘されている。3月14日からフランス、ドイツ、イタリアでアストラゼネカ接種が停止されたとの報道もあった。しかし多くは血栓が発生するなどの副作用問題からの禁止であるので、感染を抑えられないから、という理由ではない。イギリスやスペインの例を見れば、アストラゼネカは感染を抑える効果が高いと思われる。

一方、アイスランドでは8週目からアストラゼネカが追加されたが、この時からアイスランドの感染係数は微増に転じている。第1群であげたオランダでもアストラゼネカ導入後に感染係数が増加している。これらの事例から、アストラゼネカは感染防止にも有効ではないとも考えられる。


モデルナも抑制効果が高い。

第三群。ワクチン接種開始直後は係数が100を切ったが、すぐに100以上になり、再び100以下になった国は、ドイツ、ルクセンブルグ、スウェーデン、アメリカ、カナダ、メキシコ、エクアドルの7ヵ国である。

画像5

この中では感染係数が25未満の国はない。ドイツ、アメリカ、カナダ、メキシコが50未満である。スウェーデンは6週目に50未満となったが、7週目から増加になった。ドイツも7週目以降増加に転じた。

スウェーデンとドイツは接種開始後1週間のみ感染係数が100未満で2週目には係数が100以上になり、3週目に再び100未満になった。アメリカとカナダは3週目100を超え、5週目に再び100未満になった。メキシコは2週目に100を超え、7週目に100未満に戻った。エクアドルは4週目で100を超えたが、6週目には100未満に戻った。ルクセンブルグは8週目に100を超え、10週目に100未満に戻った。

エクアドルはファイザーのみを接種している。アメリカとカナダはファイザーから始めていたが、早いうちからモデルナを加えた。メキシコもファイザーから始めたが、2月半ばからアストラゼネカを、2月末からはスプートニクを加えた。スウェーデンは最初からファイザー、アストラゼネカ、モデルナを接種していた。ドイツは、1月半ばにモデルナを、2月にアストラゼネカを追加した。ルクセンブルグは2月初めにアストラゼネカとモデルナを同時に追加した。


アメリカはファイザー接種開始した時に、係数が増加した。モデルナを追加して係数は減少した。その2週間後に増加に転じたが、さらにその2週間後には再び減少になり、この状態が続いている。カナダもアメリカと似たような動きをしている。イギリスではアストラゼネカが効いているように、アメリカではモデルナが効いているように見える。

ファイザーは中国原種株を、アストラゼネカはイギリス変異株を主に抑制する

ドイツはファイザーを接種開始した時に、感染係数が減少した。モデルナ投入(2週目)で係数が1週間増加したが、すぐに減少に転じた。逆にアストラゼネカ投入(6週目)で係数が1週間減少したが、その後は増加に転じた。第1群のオランダや、第2群のアイルランドでもドイツと同じ傾向が見られる。イギリスやスペインとは全く逆になっている。従って、ドイツ、オランダ、アイスランドではアストラゼネカが感染抑制に有効ではないと考えられる。

イギリスではイギリス変種株が新規感染の70%を占めるという。ドイツではそれが20%前後であるという。イギリスでは、ファイザーとアストラゼネカが摂取されているが、アストラゼネカが70%を占める。ドイツのシェアは、ファイザーが82.7%、アストラゼネカが15.2%、モデルナが2.1%になっている。(共に3月10日の時点)。このことからアストラゼネカはイギリス変異株を抑制する効果がより高いと思われる。一方、ファイザーはイギリス変異株を抑制する効果が思ったほどではなく、イギリス変異株が増えつつあるドイツなどでは感染増につながったと考えられる。しかし、ファイザーは従来からある中国原種株には有効であると考えられる。

アストラゼネカのワクチンはイギリスで開発された。イギリス変異株の最初の発見は2020年12月21日であるが、イギリスの感染状況から、それ以前からこの変異株が発生していたと考えられる。したかって、アストラゼネカのワクチン開発に知らずのうちにイギリス変異株が使われていた可能性がある。それ故、アストラゼネカのワクチンはイギリス変異株に対して有効性が高くなったと考えられる。

ファイザーのワクチンはアメリカとドイツと中国の製薬会社で開発された。従って、中国原種株に対しては十分な効力があると考えられる。

また、第2群で指摘したように、中国製ワクチンは中国で流行しているウイルス、つまり中国原種株で有効であり、スプートニクはロシアで流行しているものに対して有効であることからも、ワクチンはその開発国で流行している株に対して特に有効であるというと考えられる。


ワクチン非開発国では感染係数が高い。

第4群。ワクチン接種開始直後は係数100未満になったが、3月10日までに100を超えてしまった国には、インド、バングラデシュ、トルコ、サウジアラビア、ブラジル、ベルギー、オーストリア、セルビア、ブルガリア、アゼルバイジャンの10ヵ国がある。係数の時系列グラフは次のようになった。

画像6

画像7

第一群の国々でも感染係数が上がっているが、それらの国々での係数は3月10日で100未満であるという点で、第三群の国々は係数が100を超えたが、3月10日には再び100を切ったという点が第四群と異なる点である。

トルコとベルギーは2週目から増加に転じ係数が100を超えた。サウジアラビアは3週目から増加に転じ、4週目に係数が100を超えた。バングラデシュは3週目から増加に転じ、6週目に係数が100を超えた。インドとブラジルは、5週目から増加に転じ、6週目に係数が100を超えた。セルビア、ブルガリアは6週目、アゼルバイジャンは7週目に係数が100を超えた。これらの国々ではアゼルバイジャンを除いて係数が50未満になったことはない。また、サウジアラビアを除いて、少なくとも3週以上感染係数の上昇が続いている。

この中ではインドがワクチン開発国である。また、インドではアストラゼネカのワクチンも製造している。インドは自国開発のバーラトのワクチンではなく、インド製アストラゼネカのワクチンをバングラデシュに配給している。もしかしたら、バーラトの方が効き目が高い可能性がある。

トルコとブラジルはシノバックを接種している。ブラジルはすぐにアストラゼネカも追加して接種を実施している。セルビアはファイザー、スプートニク、シノファームを接種している。アゼルバイジャンはスプートニクとアストラゼネカを接種している。ベルギー、オーストリア、ブルガリアは他のEU加盟国同様、ファイザー、モデルナ、アストラゼネカを接種している。サウジアラビアはファイザーとアストラゼネカを接種している。

インドとバングラデシュ以外の国では一時期効果があったが、今ではすっかり効果がなくなった感がある。トルコやブラジルで流行しているウイルスはシノバックでは効かないものかもしれない。他の国にも同じことが言えるかもしれない。

変異株はイギリスだけでなく世界各地で発生している。ブラジル変異株が発生していることは周知の事実である。シノバックは中国原種株には効いたであろうが、おそらくブラジル変異株には効かないと思われる。また、アストラゼネカもあまり効果は期待できないと思われる。今の所報告はないが、トルコ変異株が発生していてもおかしくはなく、おそらく、中国製ワクチンは効き目が薄いと考えられる。セルビアとアゼルバイジャンはトルコや中央アジアの影響を受けている可能性もあり、スプートニクが効いていない可能性がある。


EUではアストラゼネカ接種開始で感染係数が上がる

第5群。ワクチン接種開始直後は係数100以上になったが、後に100未満に下がったにもかかわらず再び、3月10日までに100を超えてしまった国には、ポーランド、ルーマニア、イタリア、ノルウェー、チェコの5ヵ国である。全てEU加盟国である。係数の時系列グラフは次のようになった。

画像8

第1、2週目に係数が最高値になったのだが、3月10日の係数はそれまでの最高値を超えた。ノルウェー以外は係数が50未満になったことはない。

ポーランドとルーマニアは開始当時ファイザーを接種していたが、後にモデルナとアストラゼネカを同時に投入した。この時以降、感染係数が増えている。イタリアとチェコは、ファイザーから接種を開始し、次にモデルナを投入、やや遅れてアストラゼネカを投入した。感染係数はモデルナを投入して以降下がったが、アストラゼネカの投入でまた上がってしまった。ノルウェーは接種開始当初から3種全てを接種していた。

ポーランドとチェコはドイツの隣国なので、ファイザーが効苦と考えられそうだが、東側諸国でもあるので、ロシアで流行している株が多い可能性がある。


イスラエルとの和平で感染係数が下がる。

第6群。ワクチン接種開始直後から係数100未満位なったことがない国は、カタール、UAE、クウェート、オマーン、バーレーン、イスラエル、フランス、フィンランド、ハンガリー、チリの10ヵ国である。これらの国の感染係数の時系列グラフは次のようになる。前述の通り、中東諸国の感染係数は飛び抜けて高いので、スケールを倍にした。

画像9

画像10

フランスとチリは一旦は係数が減少に転じたもののすぐに上昇に戻り、それまでの係数の最大値を超えた。中東では、イスラエルは最高で283.3まで上がったが、4週目から減少に転じ、3月10日では係数を110.1まで戻した。UAEでは6週目から係数が減少に転じたがまだ200以上である。バーレーンも10周目に少し戻したが、9週目から減少に転じた。

バーレーンとUAEはトランプ前アメリカ大統領の仲介で、イスラエルと和平を結んだばかりである。この3国のみが中東地域で感染者増をストップできたところが面白い。

イスラエルではファイザーから接種を始め、およそ1ヶ月後にモデルナを投入した。モデルナ投入以降感染係数が減少しているところはアメリカやカナダと似ている。UAEはファイザーとシノファームで接種を開始し、6週間後にアストラゼネカとスプートニクを同時追加した。追加後は感染係数が減少している。バーレーンはファイザーで接種を開始し、6週間後にアストラゼネカとスプートニクをほぼ同時に追加した。追加後は感染係数が減少している。

オマーンはファイザーで接種を開始し、6週間後にアストラゼネカを追加した。UAEやバーレーンと違い、追加後は感染係数が減少することはなかった。カタールとクウェートはファイザー一筋である。当初はシノバックを接種すると報道されていたが、3月3日の時点では接種されたという報告はなかった。

フランス、フィンランド、ハンガリーは、他のEU加盟国同様、ファイザーで接種を始め、のちにモデルなとアストラゼネカを追加した。ハンガリーはそれに加えて、シノファームを追加した。チリはファイザーで接種を開始してシノバックを追加した。

ワクチンを摂取しているのに感染拡大するのは使用ワクチンが適切ではないから

これら、10カ国ではワクチンの効果が全くと言っていいほど現れていないように見える。古いメディアは、ワクチンを摂取したことによる安心感から、感染予防が疎かになったと精神論を唱えるが、ワクチンがこれらの国々で流行っている変異株に対して効いていないと考えるのが妥当であると思われる。

例えば、フランスでは。3月10日のワクチンの接種率は7%弱であり、主にファイザーのワクチンを接種している点が隣国ドイツと共通している。しかし、フランスはドイツと違って、感染係数は下がることを知らず、三たび、ロックダウンに突入しようとしている。フランスでのイギリス変異株の発生率が70%とドイツの20%に比べればはるかに高い。従って、フランスのワクチン構成では、つまり、ファイザーのワクチンでは、イギリス変異株には効き目がないのではないと推察される。フランスは残念ながら、アストラゼネカの使用停止を決定したが、イギリスでの事例からアストラゼネカはイギリス変異株に項があると思われるので、今一度アストラゼネカのワクチンを試してみてはいかがだろうか。

チリはワクチン摂取率が23%で、イスラエル、アメリカに次いで高い。しかし両国と違ってワクチンが効いているようには思えない。チリではファイザーとシノバックを摂取しているが、両方ともちりで流行している株に効果がないように思われる。

中東諸国ではファイザーも中国製も効いていないので、中国原種株ではなく、新しい変異株が発生していると考えられる。その証拠として、どの国も致死率が極端い低いことが挙げられる。3月10日も致死率は、イスラエルが0.73%、トルコが1.04%、カタールが0.16%、UAEが0.32%、クウェートが0.56%、バーレーンが0.37%である。EU加盟国では平均すると1.88%、アメリカが1.82%と比べれば極端に小さい。

ワクチン別接種開始後の感染状況

3月10日時点での、ワクチン別の感染状況をグラフにした。縦軸は感染係数でこれは奇数2の対数表示になっている。中央の横線は感染係数100を表し、3月10日の感染速度はワクチン接種前と同じである。目盛りが一つ上がると2倍、下がると半分である。横軸は減少または増加か継続する週数である。位メモリは2週間である。左へ行くほど減少が長く続いている事になる。たとえば、3月10日のアイルランドの感染係数は8分の1以下で、ここ10週間、つまり、ワクチン摂取が始まってからほぼずっと感染係数は減少していることを意味する。

画像11

グラフで、左下の区画にいる国々は、感染係数も小さくしかも減少しつつあるので、ワクチンが効いていると思われる。一方、右上の区画は感染係数が大きくしかも増えつつあるのであまりワクチンが効いていないと考えられる。中央寄りには、長く増加が続いた状態から一時的に減少した国、逆に、長く減少が続いた状態から一時的に増加した国や、増減を繰り返している国が含まれる。

また、記号の丸はファイザーを主に使っているところ、四角はスプートニク、三角はシノバック/シノファームを使っているところである。赤系の色はファイザーを主に使っているところ、青系はアストラゼネカ、緑系はスプートニクまたはシノバック/シノファームを使っているところである。

今のところどのワクチンが効いているとは断定しにくい。そもそもワクチンが効いているかどうかも怪しい。しかし、ヨーロッパにおいて、イギリス、アイルランド、スペイン、ポルトガルというヨーロッパの西端の国々において、感染の勢いが弱まっているとは言えそうである。また、ロシアやイギリスなどワクチン製造国では明らかにそのワクチンが効いていると考えられる。


日本には日本産のワクチンを

日本ではワクチン接種が始まって3月10日で3週目である。接種が始まってから、感染係数は78.0、63.6と順調に減らしたが、3週目には68.1に微増した。このパターンを示すのは第3群あるいは第4群である。4月第1週までに減少していれば、第3群で一安心であるが、4月第1週を過ぎても増加していれば、これは第4群ということになり、第4波と言えるだろう。

もし第4波があれば、日本独自の変異種の可能性も高く、日本で現在使われているファイザーや、近々接種される予定のアストラゼネカとモデルナでは効かない可能性もある。そこで、日本にあったワクチンを使うことが1番の解決法に思われる。日本企業もワクチンを独自開発している。アンジェスとシオノギがいい線を行っている。こちらの開発に力を入れてはいかがだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?