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【回顧録】2015年以前の名古屋・大須演芸場はフリーダムだった。

海老名香葉子さんが最高顧問となってからは、江戸落語の落語協会所属の落語家を中心に演芸が行われている大須演芸場ですが、2015年より前の大須演芸場は閉鎖の危機になったのが至極当然だと感じられるカオスな演芸場でした。

私はその当時何年かに1回大須演芸場へ足を運んでいましたが、1000円ほど支払えば出入りが自由な、舞台上ではそんな客よりもフリーダムな芸(?)、音楽ジャンルで言えばオルタナティブ・ロックのような吉本興業を代表する商業主義的なお笑いとは一線を画した、アンダーグラウンドな精神を持った芸(?)、芸術で喩えればダダイズムのような既成概念を崩壊させる、死後評価されるような芸(?)を披露していました。

「芸」とは何か、再定義が構築されるような哲学的命題を客に投げかける事も無く、客を置き去りにした演芸が、芸人なのか何だか分からない、かと言ってズブの素人でも無い人たちによって、ほぼ一方的に繰り広げられていたのです。

私自身もうろ覚えですので各人の芸名はほぼ忘れてしまいましたが、ショッキングなエンターテイメントだけに内容は覚えているので記事にします。

開口一番。名古屋のバタヤン。
正確には名古屋のバタヤンこと◯△◻︎との芸名で活動していた。もちろん失念。

田端義夫(ゴメンやけど、あんた誰?)

名古屋のバタヤンは和菓子職人として和菓子を営んでいたが、息子へ経営を譲って隠居。
若い頃は田端義夫さんのギターの弾き語りを好んで聴いており、上記の画像のような白い船員帽を被り、おそらく田端義夫のナンバーをアコースティックギターで弾き語っていた。

1階席にいる10人にも満たない客を置いてけぼりにし、自分の世界に入ってご満悦な舞台であった。
私は名前でしか田端義夫さんの事を知らないので、名古屋のバタヤンが物真似が上手いとか、ギターや歌声が上手だとかはもうどうでも良かった。

二番手。亀山ナンたら。これも失念。

警察官を辞めて浪曲師へ弟子入り。三味線を伴奏しながら浪曲を語っている体だろうが、いかんせん声が小さくて節を付けながら何を語っているのか、私にはサッパリ分からなかった。演者の目は虚ろであり、客に訴えるメッセージ性は皆無であった。

大須演芸場のスタッフに尋ねたところ、この2人は病気で鬼籍へ入ったようです。

三番手。雷門何とかさん。

やっと噺家が登場かと私は期待したが直ぐに裏切られた。
どうやら立川談志師匠の弟子をクビになった落語家らしく、大須演芸場にて雷門の亭号を授かったようだ。
大学の落研サークルの講演のほうがマシではないかと私でも感じるような話芸で、せめて自信を持って高座にかけて欲しかった。

四番手。二代目快楽亭ブラック。

この噺家も立川談志一門で真打昇進。
艶話と言えば聞こえが良いが、古典落語をベースとしたオリジナルなど下ネタな落語を講じる。
当時の大須演芸場という、ゴミの掃き溜めになぜか迷い込んだファミリー層が子どもを引き連れて、客席から退出するような淫靡な世界へ引き込む落語を得意とする。

まだやってます!

この辺りで一般的な寄席なら太鼓を叩いて「おー仲入りー」と仲入りに入り、15分ほどの休憩時間になるのだが、それが一切無いのがかつての大須演芸場の特色。

5番手はひと:みちゃん。
なお『:』はフランス語のウムラウト・トラウト。しかし読み方は日本語のままの『ひとみちゃん』。

ひとみちゃんは艶歌シャンソニエ家元を自称し、男性の性同一性障害に該当するでしょう。
作詞作曲は自分自身。
「もしあなたの心に雨が降るなら、私があなたの心の傘になりましょう」を枕言葉に自作シャンソンを歌いながら、着ている着流しの股間部を自らはだいて女性モノのパンティを客にチラ見させるパフォーマー。
スナックでも働いているようで、二階席からはスナック常連客の女性から黄色い声援があった。
しかし私には不快以外何も無いパフォーマンスであった。

まだやってます!

6番手は売れない女性演歌歌手。
夢グループの「社長、安くして〜ん」の売れない女性演歌歌手に比べて、何から何まで劣る女性演歌歌手が誰も知らない演歌を歌い、ステージから降りて少数精鋭の数少ない客に歌いながら握手を求めるパフォーマンスが、私には相当な苦痛を感じた。

他にも「名古屋弁を守る会」所属のどつき漫才師。
名古屋出身のオバチャンと割と若めの兄ちゃんが、名古屋弁を語りながらお互いを罵倒するどつき漫才をしていた。
私には笑いの部分が見当たらない漫才で客からの失笑もなく、面白すぎて笑えなかった。
漫才師の二人とも声だけはよく出ていた。私の推測では元々二人とも小劇団の劇団員で、漫才師へ転向したのだと考える。
地上波の番組「あの人は今?」にてには取り上げられない漫才師だが、もし番組名が「あの人は誰?」なら、テレビ取材クルーが取材するだろうと私は思います

トリはテレビ番組の「笑点」で色物としても登場する「めおと楽団ジキジキ」。
最後に寄席らしい芸人が登場するのが、大須演芸場の唯一の救いです。ただし芸風が古いのが難点です。

音曲漫才師「めおと楽団ジキジキ」

山本リンダの「どうもにも止まらない」などの往年のナンバーの替え歌などをテンポ良く歌い、夫婦で掛け合い漫才をする。
奥さんの方が「男はつらいよ」のテーマ曲を鍵盤ハーモニカを額で演奏する。
昭和の芸人を地で行っています。
とにかく観客を自分たちの音楽演奏や話芸へ引き込む技術が上手い。

トリで一流の芸を披露をして大団円で終わる。
それまでは自由人によるフリーダムな演芸を客と舞台出演者との間で、一方通行な芸(?)を披露する。

かつての大須演芸場は日本唯一の演芸場でした。

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