田村和大「修羅の国の子供たち」極道の子どもたちが任侠に生きるピュアストーリー。

全く知らない作家の方だが、経歴を見るとNHKを経て弁護士というなかなか異色。なのでとてもユニークな作品となっている。
この本は「ヤクザの親」に生まれた子供たちの生き方を描く骨太な作品。
前に「犯罪加害者家族」のことを調べたことがあるが、例えば親が交通事故で人を殺めてしまったとき、多くの家庭は崩壊の危機を迎えていた。仕事を失い、住むところも追われ、転校も余儀なくされる。悪意なき「犯罪」でもこうなのだから、故意の犯罪ではさらに状況は厳しい。
例えば親が破廉恥な罪で捕まったとき。家族はいたたまれないことになる。そしてなかなか周囲から同情されないところも厳しい。でも人は生きていかなければならない。その状況の中で最善の選択をする。
かつて「極道の女たち」という書籍が話題になったが、色々な事情はあるだろうが、こちらは最終的には「自分で選択」してそのポジションに入る。ある意味、自己責任だ。
しかし親ガチャ、子供は親を選べない。ヤクザの子供に産まれてしまえば、「極道の子供」という事実から逃れることは難しい。
この本の登場人物たちは、ヤクザの子供に産まれた境遇を自分の意思で乗り越えていく。ものすごくハードな成長譚だ。
ヤクザの子供として産まれたという「事実」は消せない。しかしヤクザの子供であるという「現実」は変えることができる。1人は出自を消し司法の道に進み、1人はあえてヤクザとなり中から組織を変えていこうとする。
そして2人を繋ぐ幼馴染のマドンナがいる。その存在を糧に2人は信念を貫き通す。
ある種の理想論だが、そもそも任侠とは理想論なのだ。現実論という極道を任侠という理想論で捩じ伏せようという現代のファンタジーだ。
遡って作品を読みたい、そんな作家をまた1人見つけた。

<7月末発売予定>

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