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真下みこと「かごいっぱいに詰め込んで」令和のハートウォーミングストーリー

セルフレジが普及し始めた頃、「スローレジ」が話題になったことがある。セルフレジに対応できない高齢者や障害者が、後ろに並ぶ人に焦らされることなくゆっくりと清算できるレジが地方のスーパーなどで設けられたというニュースだ。
その際にフランスの「おしゃべりレジ」も話題になった。店員と楽しくおしゃべりしながら会計できるというこのシステム、コロナ明けでコミュニケーションに飢える世代に人気になったという。
この小説もそんな「おしゃべりレジ」が舞台になっている。
第一話は、子供の手が離れた主婦が再就職しようとするがなかなか仕事はなく、やがてスーパーの「おしゃべりレジ」に仕事を見つけるという話。そこにはさまざまなお客がやってきて、そして店員の間にも色々な関係が生まれている。
そのほかの話は、「おしゃべりレジ」を利用するお客が主人公になってのストーリー。どれも今の時代を反映したチョットいい話たちだ。
例えば飲食店のタッチパネルで注文のできない老人の話。すごく共感できる。先日も成田空港で航空チケットの発券で手間取っていたら、中国人のツーリストに「ここにパスポートを差し込むんだ」と教えられた。自分が老人になってきたことを実感させられる瞬間だ。
老人は会社をリストラされ、家では妻に疎まわれている。いわゆる居場所のない年寄りだ。しかし「おしゃべりレジ」との出会いをきっかけに、自分の生き方を取り戻し始める。
社会がDXによってハイテク化し、必然的に老人は取り残されることになる。一方でAIにより、単純作業はどんどんとコンピュータに取って代わられる。その結果、テクノロジーに取り残された、行き場のない老人が大量に発生する。
これからの社会は、この年寄りをいかに有効活用するかがキーになる。無理にずっと働かせるということではなく、必要なところに適材適所で人を配置する。年寄りの経験に裏打ちされた知見を巧く活用し、無理のない範囲で若い世代と協業する。それが互いにハッピーに社会を形成することにつながるのである。

読んだことのない作家だったのでプロフィールを見たが、この人もメフィスト賞出身の作家だ。なかなか振り幅の広い賞であることに驚かされる。

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