寺地はるな「いつか月夜」ほっこりとする小説

父を亡くしてなんだかよくわからない不安を感じ始める平凡なサラリーマンの男性。その不安が「黒いモヤモヤ」として出現する。それを「モヤヤン」と名づけるエピソードにまず心を掴まれる。
不安を紛らわすために「夜の散歩」に出ると、会社の同僚に出会う。しかも子供と一緒にいる。自分の子供ではなく、一緒に暮らしていた男性の連れ子。男性とはもう別れている。いやあおもしろい。
とにかく登場人物が皆、魅力的だ。それぞれに個性があり、背景があり、そして秘められた想いや事情がある。
誰にも「色々なこと」がある。「色々なこと」を抱えていない人なんかいない。日々を悩みながら、想いながら生きている人に優しい眼差しを投げかける作品だ。あったかくて、ほわっとしていて、読んでいるうちにふんわりとした気持ちになる。

中にサマセット・モームの書いた童話「九月姫とウグイス」の話が出てくる。
国王に生まれた王女の名前のエピソード。そこから主人公の名前を思いついたのか、ちょっと興味深い。

「わたしたちに翼はいらない」を書いた人なんだ、そりゃあしみる作品で納得だ。<8月発売予定>

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