小原瑞樹「ハートレス・ケア」ちょっと珍しいケア小説

地方の小さな出版社が「介護、医療、福祉」にジャンルを絞って募集した小説コンテストの第一回大賞受賞作。
コンテストは第3回まで続いているようだ。このような試みは業界を活性化する。その先にある映像化なども含めて、さらに続いていくことを望む。

この小説の主人公は、就活に失敗し、やむなく「介護」の仕事を選んだ青年。しかも現場でヘルパーをしている。毎日がイヤでイヤでならない。1日も早くこの仕事を辞めたいと思っている。だから人に仕事を尋ねられると「福祉」の仕事と飾って言う。
介護の現場はハードだと聞く。作業が物理的にも精神的にもハードであるだけではなく、人も足らなければ、給与も低い。典型的な「やりがい搾取」の職場だ。
介護の世界に金がないかといえば、そんなことはない。政治により金はある程度きちんと注ぎ込まれている。どうみても運営会社が儲けすぎている構造なのだ。工事現場のような多重搾取の下請け構造もある。だから現場で働く人が報われない。かなりの残念職場だ。建設現場のように、現場で働く人がきちんと報われる職場になって欲しい。
最近はDXにより少しは楽になってきているようではある。例えば夜中にはある回数、巡回して就寝を確認しなければならない。これは法律で決められているから必ずしなければならない業務。しかし就寝を遠隔で確認できるシステムが開発され、巡回せずとも就寝が確認できるようになった。巡回の手間が省けると同時に、寝ている人も無駄に起こされない。なかなかいいシステムで、これにより介護士の夜勤が楽になる。
この作品中にも書かれているが、入浴がけっこうな重労働だ。しかしその入浴も、寝たまま入浴の効果が得られる新しいマシーンが開発されつつあるらしい。お湯を噴射し、すぐに吸い取り身体の汚れを取る。水洗掃除機の応用、さすがジャパニーズテクノロジーだ。
しかしすべてをDXで省力化することはできない。どう頑張ってみたところで、最後は人手でなければならないところは残ってしまう。その最後の砦として、ヘルパーは欠くことのできない大切な存在。
ヘルパーにはもちろん技術としての介護能力は大切だ。しかし本当に大切なのは技術ではなく、相手を思いやる心であり、相手とのコミュニケーションを取る能力だ。この小説を読んで、ヘルパーに必要な能力は実は「心」だという気づきがあった。

これから老人はさらに増えていく。介護の需要は増すばかりだ。
そんな時代に介護をさらに充実させるために、少なくとも給与体系は改善して欲しい。働きに対してきちんと報いていかなければ希望がない。そしてキャリアパスもきちんと設計していかなければならない。
例えばフリーの介護士などが登場してもいい。施設や利用者と直接の契約を結び働く。そうなれば中間搾取もなくなり、高い賃金が可能になるかもしれない。隙間時間に働くという新しい勤務体系が登場してもいい。飲食のタイミーのようなシステムが介護にも登場するのかもしれない。
介護の世界はまだまだ発展途上だ。可能性だってある。
この作品を読んで、介護の可能性、未来を信じたい気持ちになった。
<9月上旬発売予定>

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